90話・巨兵。
―武元曹駛―
鷸の後ろに巨大な人影が現れた。
あれは、幻影なんかじゃない。実体がある。
直感で、そう思った。そして、その直感は……正しかった。
俺と透は、落ちてくる、大きな腕を躱した。
次の瞬間、地面が抉られる。
「少し早いが、あとは、任せた、透」
俺は、フィンガースナップを鳴らし、俺の作った町と、この町を入れ替えた。
今、この町にいるのは、俺と鷸……だけのはずだった……
「なぜ、ここに、そいつが……」
「どういうことだ?」
「だから、何故、その馬鹿でかいのはまだしも、他のモンスターたちまで、こっちにいるんだと聞いている」
確かに、人型のでかい奴は、この世界に一緒に連れて来たつもりだが……あとは、俺と鷸しか連れて来た覚えはない。なぜ、他のモンスターが……
「ああ、これか……これは、俺が連れて来た」
そう言った直後に、鷸の横に光のゲートが現れ、そこからでかい狼がたくさん飛び出してきた。
つまり、あいつ自身は出れないが、あいつの操るモンスターはこっちに来れるということか。どういう仕組かは全く分からないがな……ということは、この作戦。半分成功、半分失敗と言った所か。
「面倒くさいな」
そう思ったまま口にした。
気づけば、封殺ミツバチに囲われている。ああ、本当に面倒くさい。
だけども、俺も、過去の俺とは違う。あの時とは、状況も、実力も違う。
予想通り、魔力はスッカラカンだ。俺は、命を削る。文字通り、寿命を使う。
詠唱を完全破棄。魔法発動可能。
代償は、命。
「万物爆弾化」
俺は、死んだ。まぁ、どうせ生きてようと、爆炎に呑まれて死ぬだろうしな。
魔法の詠唱の完全破棄。こんなことすれば、大抵は死ぬ。
だから、あえて、レフィには教えなかった。というか、誰にも教える訳にはいかねぇよな……俺以外使えない訳だし。まぁ、俺も実際あんまり使いたくないし。
まぁ、俺の場合、死んだところで、寿命が短くなるだけで、大して問題ないんだけど。
俺は、死にながらも、全てが弾け、真っ赤に染まっていくのを見ていた。
俺は、目を覚ます。
状況は……変わりなし……か?
辺り一面、焦土と化した。しかし……
不自然な山が一つある……その山がボロボロと崩れ、中から現れたのは、鷸……ッ!
「危なかったぞ、曹駛」
「いったいどんなトリックだ? この辺の物は全部爆裂して消え去ったはずなんだが」
「ああ、こいつらはこの辺の物じゃない」
「……なるほどな」
よくよく見やれば、あの山は、生物のようだ。原型も留めていないため、なんだったのかは分からないが……
詠唱を破棄したことによって、どうやら威力は落ち、爆炎による爆弾化の付加能力も全くなくなっていたようだ。まぁ、一撃で終わるとは最初から思ってはいなかったが。
「今ので、大分持っていかれたようだな」
「今のは失言じゃないか?」
数に限りがあるって事だろ。それも、今のでだいぶ減ったって。
「ああ、いや、問題ない」
「どういうことだ」
「おまえが、こんな技を軽々しく放てるなら、数に入れようといれまいと関係ない奴らばっかりだからな」
「おい、それも、失言じゃないのか?」
「……さあな」
どうやら失言だったらしい。鷸は「さぁ、続きだ」と雰囲気を切り替えるかのように、ドラゴンを呼びやがった。それも、ビル並みのを3体も。馬鹿じゃねぇの?
俺は、ランスとシールドをその辺に投げ捨てた。
そして、肉体強化の魔法を自分自身を対象に唱える。
目を回す。世界が回る。一秒にも満たない時間が経ち、俺はドラゴンの胸の前にいた。
「喰らえ」
俺は、ドラゴンの胸を殴った。
バツンッ!
「音だけは、凄いが、人のパンチがドラゴンに効くわけないだろう。馬鹿か?」
「まぁ、焦るな、よく見てろ」
確かに、鷸の言うとおり、見た目は何の変化もない。……見た目はな。
だが、数秒後ドラゴンは突然苦しみだし、その場に倒れた。
絶命したのだ。
「おお、成功」
「成功? 何をした」
「内緒に決まっているだろ」
俺の視界は三度回る。
バツンッ! バツンッ!
その後、残りのドラゴンもその場に倒れた。
「さぁ、お次は、どいつだ?」
珍しく、第一ラウンド先取だ。
さて、このまま第二ラウンド行きましょうか。




