9話・久しく、戦いました。その1
20150319:編集しました。
中途半端な第三者視点を完全な第三者視点に変更しました。
内容としては特に変わりありません。
真昼間の街であるのにもかかわらず、人の寮がかなり少ないことに、曹駛は不安を覚えつつも、修練場へ向かった。
修練場を向かう途中、何人かの人に、頑張れよ、負けるなよ、などと声を掛けられたことによって、曹駛の不安はどんどんと大きなものになっていく。
兵士ならまだしも、なぜ一般市民が俺がこれから戦いに赴くことを知っているのか、もしかして、ミットが何かしたのか? とも、曹駛は思った。
だが、そう言った事を気にしてうじうじしていたら何も出来ない、きっと、俺が武装しているところと、感情が顔に出やすい俺の顔を見て、何かを感じ取ったのだろうと、曹駛は思うことにした。
それでも、やはり嫌な予感というのは拭いきることが出来ず、気づけば、曹駛は走っていた。
曹駛が向かう修練場は、街の中心にある城のすぐ横にある。
その修練場は、普段は、兵士の訓練や模擬戦の時に使われているが、そのために作られたものではない。
その修練場は、コロシアムである。
何かの試合や見世物がある時には、コロシアムとして使われる。元々はコロシアムとして使うつもりだったらしいのだが、思いのほか使うことが無かったので、今はほぼ毎日兵士が使っている。
だが、その修練場が今日はやけに騒がしかった。まるで、何かの大会があるかのように。
修練場に着いた曹駛は、中から聞こえるざわつく声々に、曹駛は警戒を強めたが、覚悟を決めて、コロシアムの競技場に値するところに続く、重く大きい鉄の扉を、開けた。
砂埃が舞い、日光が射す。
扉の先には、城と太陽とミット……そして、観客席にいる大量の観客がいた。
「ようこそ、修練場へ、よく来た、来ると思っていたぞ、グルック=グブンリシ」
なぜ、こんなにも観客がいるのか、それは、まるで今日決闘があるということを、予知していたかのようだった。
曹駛は、焦った。自分の行動が先読みされていたかのようで、自分の体の事がばれているかのようで。
けれでも、動揺していることが相手にばれてしまってはいけないので、張れるだけの虚勢を張った。
「ああ、来たぜ、ミット=トール。だが、決闘ってお前、俺に勝ったことないだろ? 勝てるつもりか?」
「当たり前だ。常に鍛錬を重ねているのだ、たるんだお前に勝てぬ道理はない」
しかし、虚勢は虚勢。23期兵の現隊長であるミットに通用するものではなかった。
「まぁ、なんだ、久しぶりに戦うな、俺達……」
「そうだな……」
「だからッ!」
少々汚い手を使わせてもらう。と、心の中で言葉を続けつつ、曹駛は不意打ちで突きを繰り出した。
曹駛の装備は、鉄製のランスと同じく鉄製のタワーシールドを使っている。
確かに、ランスはリーチが長いのだが、先から先まで、全てが鉄で出来ているため、いかんせん、重くて速度が出ない。
一方、ミットも重装備をしている。その鎧は厚く、一番厚い所は25センチあるというほどである。それに、装備している武器は、クレイモア。超大型の両手剣である。
だがしかし、そんな重装備をしているはずのミットは、素早く、動き、不意打ちで放たれたその突きを軽く躱した。
「不意打ちか……貴様らしい卑怯な手だ……」
「そりゃまぁ、お前がミスリル製の防具と剣を使っているみたいだし、どっこいどっこいだろ」
なぜ、曹駛が、ミットの装備がミスリル製だと気づいたかと言えば、ミットが重装備であるにもかかわらず、まるで何も装備していないかのように動いたからである。
ミスリルという金属は、耐久度に対して、とてつもなく軽いのだ。なので、ミットが身に着けている、超が付いてもおかしくないほどの重装備でも、総計的な重さとしては、恐らく曹駛が身に着けている鉄製の鎧より、ちょっと重いくらいでしかない。
「まぁ、攻撃されたし、一撃返してやろう」
ミスリル製であるミットの鎧に対し、曹駛の鎧は、超軽装である。それに、機動力確保のため、胴、小手、手甲、草摺の四パーツ分しか装備していないため、結構刃が通る部分が多く、鎧としては無いよりはましという程度の物でしかない。
しかし、それでも鉄製であるために、それなりに重く、ミットが振るう本気の剣を躱すことが出来ず、その身で受けてしまった。
「ぐっ……不意打ちか、卑怯だぜ……」
「安心しろ、先ほどのお返しでしかない峰打ちだ、その程度何ともないだろう? それに、これは不意打ちではない、ちゃんと攻撃宣言しただろう」
だから、お前とは違う。と、ミットは目でそう言っていた。
「まぁ、どうでもいい、それよりもお前、早く試合開始の合図をしろ」
ミットに声を掛けられ、先ほどまで口を開け固まっていた立会人が自分のやるべきことを思い出したかのように右手を大きく上に挙げて、高らかに叫んだ。
「決闘、開始ィィィィィィィィ!!」
どうしようかな、出来れば、のあ力は使いたくないし、と曹駛は思った。
曹駛の思うあの力とは、魔法の事である。
魔法を使える人間はあまり数が多くないため、目立ちたくはない曹駛は使いたくなかったのだ。しかし、純粋な力では圧倒的にミットの方が上だった、その速度も、パワーも。なので、曹駛は、まだ戦う余地があると判断した技で勝負をすることにした。
「死ねッ!」
ミットは阻止に飛び掛かり、袈裟に切る。
しかし、曹駛も今度は気を抜いていない。その速度も予測できていた者なので、タワーシールドで身を守る。攻撃を受けた直後に、カウンターで突きを返すが、見た目より何倍も身軽なミットは、楽々とそれを躱した。
ミットが切りかかり、曹駛がそれを盾で防ぎつつ突きを返し、それをミットが躱す。そんなやり取りが繰り返されていた。
一隊長であるミットと同等に戦っていると、戦いの素人である観客はおもっているので、いい試合だと、観客席のボルテージはどんどんと上がっていく。まだ試合は硬直状態でもあるので、どちらが勝つか、賭け事を始める者すらいた。
ミットは、隊長である。それも、隊長の中でも頭一つ抜けた存在であった。
そんなミットが戦っているというだけでも、見る価値はある。そう兵士たちは考えていた。その上、そのミットと対等に戦っている者がいる。その試合は、訓練よりも価値のある試合であった。
だが、一部の兵や人は気づいていた。
曹駛がわずかに押されていると。
それと同時に、装備の差が大きくあるのにもかかわらず、わずかに押されているだけで、大きく力の差が見られないと。
大量のミスリルを使って作られたその装備を売れば、小国の国家予算にも相当するだろう。そのくらいお金のかかった装備である。それに、それだけお金をかけただけあって、その装備の強さは、折り紙つきだ。
そんな装備をしたミットは鬼に金棒、敵う者はこの国にほとんどいないだろうと言われていた。
しかし、そんなミットですら、この古い型の安っぽい装備をした一般人に対し、少ししか優勢な立場に立てていないことが、その一部の兵や人を恐れさせた。もしも、その一般人が、もっといい装備をしていたなら……と。
「ほう、なかなかやるな……」
「まぁ、おかげさまで」
曹駛は皮肉を言った。
そのおかげさまでという台詞は、昨日街中で刺されたことに対しての台詞だった。
「だが、やはりッ!」
「なっ……!」
「少々、感が鈍ったように感じる」
曹駛が気付いた時、ミットは、曹駛の背後にいた。
大きな盾とランスでは、後ろに下がることは出来ても、急に前に飛び退くことは出来なかった。
曹駛は急な判断で、横に飛んだが、脇腹を深く切られてしまった。さらに、その痛みに気を取られている隙に、ミットは曹駛の持つその大きな盾を弾き飛ばした。
硬直状態から動いた勝負に、コロシアムに歓声が響く。
これは、普通なら致命傷レベルの怪我だ。やはり一般人が隊長には勝てないのか、と思った者も多くいた。大けが負った曹駛が降参するかと思われていたが、曹駛は、一向にその意思を見せなかった。
「今のは、転移魔法か?」
「魔法? そんなの使えるか。俺は普通の人間だ」
「おいおい、それを教えてもいいのかよ、俺は、今ので、お前が転移アイテムで飛んだことが分かったぜ」
「知られたところで何も変わらない。どちらにせよ、転移球はもうないからな」
「そうかい、余裕だな、隊長さんよ」
「貴様は、もうまともに動けないだろうしな……次で決めるッ!」
ミットは、その馬鹿でかいクレイモアを振り降ろした。
カキンッ!
曹駛は、それを……腕で、受け止めた……
よく見れば、曹駛の腕は、大量の土で覆われていた。
「おいおい、勝手に終わらせんなよ……まぁ、使いたかなかったけど、仕方ねぇ、魔法で相手してやる」
「魔法? 何を言って……っ!」
ミットは素早く後ろへ跳ねた。何か、よく分からないが、何かを曹駛から感じ取ったのだ。
ミットが後ろに下がった後、先ほどまでミットが立っていた地面からは、槍とも呼べる針が、無数に飛び出していた。
ミットが先ほど感じ取ったもの。魔力であった。魔法は使えずとも、それが何なのか知らずとも、ミットは魔力を感じ取っていた。それは、戦闘センスの良さを表していた。
「ランドランススピア……どうだ? 魔法は」
「どういうことだ、貴様、魔法を……」
「ああ、隠していたが、使えるんだよ、魔法を、俺が」
ミットは、驚きを隠せていない。
曹駛が魔法を使えるということを知る者は少ない。それは、同期であったミットもまた然り、ミットは、動揺していた。
「第一ラウンドは一本取られちまったが、次はそうはいかねぇ」
「……そうか……だが、魔法が使えるからといって……貴様が俺に勝てる訳ではない」
「第二ラウンドは、魔法ありで行くぜ……」
20150319
戦闘描写は相変わらずですが……