85話・再会は久しい。
―武元曹駛―
「満曳……久しぶりだな……」
「本当に久しぶりだね。恩とは会ったみたいだけど」
「まぁ、お前が不在だったしな、出来ればお前にも会いたかったんだけど、結局帰ってこなかったし」
「まぁ、そうだね、その日はちょっと忙しくて帰れなかったんだ、そして帰ってみればビックリ……」
満曳は言葉を止め、後ろを振り返る。
そこには、姫様(スミ姫ではない)とサキがいた。
「あ、曹駛様……」
「曹駛」
二人は、あれ? なんで、ここに? と言った表情をしていた。まぁ、当分は、会えないって言ったし、実際ここに来るつもりもなかったからな。スミ姫をこっちに連れてくるということ自体、思いついたのはフォルド王国に付いてからだし。
満曳は再び俺の方を向いて、苦笑い……
「だって、家に、二人も知らない女性がいるんだもん。しかも、聞けば、たまたま僕がいない日に、曹駛君が来ていて、二人を置いていったって恩が言うし、もう、何が何だか……」
「わ、悪い……」
それに関しては、謝るしかない……
「で、事情を説明してよ」
「恩から聞いてないのか?」
一応伝えたはずなんだが。
「あえて聞いていない。恩は説明してくれようとしたけど、本人に直接聞くって言って、断ったから」
頬を膨らませ、両手を腰に当てて、「ぷんぷん」と口で言う満曳……おまえ、なんか悪化してね? 何がかは言わないけど……
「で、この二人は誰? 何が目的?」
「えっと、まぁ、今すぐにも説明したいところだけど、あの、まずは、満曳たちの家に行ってもいいか? その、もう一人……」
「もう一人? って……どういうこと?」
満曳の声のトーンが下がる。
「えっと、もう一人、しばらく泊めてほしい奴がいるんだ……」
「……… ど う い う こ と ? 」
さらに下がった。
本人の見た目に反して、満曳の周りに漂うオーラは、実に怒りに満ちた恐怖的な物だ。
「あの、曹駛様、私も気になります、もう一人とは、一体……」
「はい、姫様もよく知っている方です……」
と、言った所で、俺の「姫様」という単語にスミ姫は反応した。
「姫様って誰よっ! 私だって、姫だもん、姫だもんっ!」
先ほどまで開く気配すら感じられなかった、その瞼はあっさりと開いた。
スミ姫は、身体を起こし、これまた「ぷんぷん」と口で言っていた。……あの、流行ってるの? それ。
「……えっと、す、スミ?」
「あれ? お姉ちゃん……生きてたんだ」
「当然です、勝手に殺さないでください……というより、曹駛様……私にも説明していただきたいのですが……」
あれ? おかしいな……姫様からも怒りのオーラが……
「私もついでに……」
あ、サキもオーラを放ち始めた。まぁ、こいつは、自然と出た物じゃないし、怒りのオーラと言うよりは、殺気だしな。
って、余計よくない。周りのついでで、そんなものだすな。というか、ついでだよな。そうだよな。信じてるぞ、サキ。
「私も説明してほしいかもー、なんでお姉ちゃんがいるの? そして、どういう関係?」
スミ姫まで、そんなことを……
前方に満曳。
左に姫様。
後ろには、スミ姫。
そして、右は開いていたはずなんだけど、それに気づいたサキが、サッ、とそこへ移動した。いやだから、周りの雰囲気に合わせなくていいから。……合わせただけだよな。本当に、信じているぞ……
で、俺は、四方を囲まれ、四面楚歌……さて、どうしたものかな……
「じゃあ、曹駛君のお望み通り、家に招待してあげる。だから、そこで、じっくりゆっくり、説明してもらうよ」
四人に囲まれて、逃げ場なし。そのまま、満曳邸に向かった俺は、きっと周りから見たら、捕まって連行されている犯人のようにも見えたかもしれない。さっきまで、裸Tシャツのスミ姫を抱っこして街を歩いていたし。それもあって、本当にそう見られていた可能性はある……ああ、もうやだ……
おい、こら、そこ、聞こえているぞ。
あちこちから、「ロリコンが捕まった」とか「ああ、さっきのロリコンが捕まったんだ」などと聞こえてくる。
俺 は ロ リ コ ン じ ゃ な い。
なんか、テンチェリィがやってきて以来、ロリコン扱いされることが、何回か……いや、違うな……良く考えたら、最初にロリコン扱いされた時は、確か……
サキの方を見やる。俺の視線に気づいたのか、サキもこっちを向いて、ニコッと笑顔を見せる。その時、後ろから、なんか不満のオーラを感じたから、正面を向き直した。
まぁ、いいや、忘れよう。ロリコン扱いされたことでいい思い出なんか、有るわけないし。
俺は、街の人々の声を聴かないためにも、目的地に着くまで、前を歩く満曳のうなじを見続けていた。




