81話・準備は上々。
―武元曹駛―
俺は、今、城のてっぺんにいた。
理由としては、ここがこの国というか、この町の中心地かつ、一番高い場所だからだ。
で、文字通りてっぺんにいる。物凄く足場が悪いので、今にも落ちそうである。
まぁ、一言で言って、死にそう。
「で、曹駛、こんなところに何のようで登ったんじゃ?」
隣に立つ透がそう尋ねてくる。
えっと、怖くないの? 落ちたら死ぬよ。お前に関しては、本当に死ぬよ。突風とか急に吹いてきたら、運動神経とか鍛えているとか関係なしに落ちて死ぬよ。
「えっと、まぁ、何故お前がそこまで冷静でいられるかは置いておくとして、まぁ、目的は二つ」
「二つ?」
「ああ、まず、一つは、スミ=キ=フォルジェルド姫を攫いに来た」
「はぁ!?」
透の怒声が飛んでくる。
やめろ、びっくりして落ちるところだっただろ。というか、今の声で、城のやつにばれたらどうするんだ。俺がわざわざテレポートでばれないように登ったのが、無駄になるじゃねーか。
「お前、何をいきなり言っているんじゃ、それは、国家反逆罪になりかねんというか、普通に色々罪が重なるぞッ! 相手が王族とか関係なしに犯罪じゃッ!」
「ほら、大丈夫だ、あの確信犯とかいうやつだ、まぁ、罪とかに問われるとは思うけど、必要なことだからな。この国の事を考えたなら、結果的に一番いい行動っつーとどうしてもこうなる。あ、そうか。透は、姫を攫うのには参加しなくてもいい。良く考えたら、お前立場あるもんな、そう簡単に行動は出来ないか」
「いや、立場云々というレベルでなく、それは少し協力できんぞ、お前の説明が足りな過ぎて、それが正しい事なのかどうかも判断できん」
遠回しにだが、説明を求めているっぽいな。
説明しているうちに、誰かに気付かれて、二つ目の目的が果たせなくなるのは、あまりよろしくないし、まずは先にもう一つの要件を片付けるか。
「あー、まぁ、そっちは、ともかく、先に二つ目の目的を達成したい。実のところ、そっちの方が大事だからな、姫攫いはついでのようなもんだし」
「はぁ!?」
またしても、怒声が……だから危ないって。
「ついでに姫様を攫うってどういうことじゃ!」
「いや、まず、落ち着けって、すぐに熱くなるのはいけないこととは言わないけど、状況を良く考えてみよう」
「その上で、ついでってなんじゃ! ついでってっ!」
うるさい爺さんだ。こういうのを老害って言うんじゃないのか?
「まぁ、二つ目の要件について説明をしよう」
「おいッ! 無視するな、話を勝手に進めるな!」
「で、二つ目の要件なんだけど、それは、この町に特殊な細工をする」
「だから無視して進めるな……って、細工?」
「ああ、細工。小細工」
「何をするつもりだ?」
「この町をこの世界から切り離す」
「……は?」
「だから、この町を切り離して、この町から出る事が出来ないようにする。まぁ、入ってくることは出来るけど、これは、奴らを逃がさないためだ」
まずは奴らと戦う場所を作る必要があるからな。そのためにも、必要なことだ。
「いや、まて、小細工というレベルではないし、さらっと言っているが、それはやっていい事なのか?」
「あー、まー、大丈夫なんじゃね?」
「適当ッ!」
だって、こんなことしたことが無いから、やっていい事かどうかは分からない。けど、やらないと駄目な事だけは分かるから、やるってだけだ。
「それでだ、やつらが来たら、次元転移を使う」
「だから、無視するな。で、その次元転移とはなんじゃ」
「ああ、名の通り、別次元の同位置に飛ぶ、または飛ばす」
「どういことだ? つまり、別の次元に行くということか? だが、行った所でどうする、そこに閉じ込めるのか?」
閉じ込める……確かに、それもいい案かもしれない。けど、俺が開発できた魔法である。数年かければ、奴らも開発できるだろう。そしたら、戻って来るし、より厄介な状況になりかねない。
「別次元に閉じ込めるっつっても、何もない場所ってわけじゃない。ただ無数にある世界の内の一つってだけでな。だから、きっと閉じ込めても、いずれ奴らは返って来るし、俺は、倒そうと思う。その場所でな。で、別次元は、俺が用意する。無数にある世界の内の一つを犠牲にするのは、その世界のやつらに迷惑がかかるし、俺が、この世界と全く同じ世界を作る。と、いっても、丸々は無理だから、せいぜいこの町くらいだけど……まぁ、そこでなら、周りを気にせず戦えるし、奴らを倒すことが出来るだろ」
誰もいない世界なら、もしもの時も万物爆弾化で、奴らを道連れに出来るしな。
「作るといっても、作れるのか?」
「ああ、まぁ、いい案が有るからな。まぁ何より、まずは、この町を隔離するところからだな」
「その隔離ということに意味はあるのか? どうせ別次元に飛ばすなら、何も隔離する必要もあるまい、逃がすも何も無いじゃろ」
「ああ、それは、簡単だ、だから、俺は、この世界と同じ世界というか、コピーみたいな世界を作る。そこは、この世界が動けば、同じように動く世界にするつもりだ。で、何をするかというと、俺の作ったその町と、この町を、丸々入れ替える。だから、正確には、俺達が、転移するのではなく、俺達と、この町が転移するということだ。で、後にこの町とその町のリンクを切れば、反映はされなくなり、俺は暴れ放題って手だ」
「はぁ?」
今日は、やたらその言葉を聞くな。主に透から……なんだ、カルシウム足りないのか? 俺の骨でもあげようか。クリム辺りはきっと喜んで食べるぞ。
「まぁ、町の人は何も気づかないだろうな、気づいたら閉じ込められていて、気づいたら解放されていた程度にしか思わないだろう」
「それは、大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫。数日街に噂は流れるだろうし、人々は不安になるかもしれないが、滅ぼされれるよりいいだろ」
まぁ、滅ぼすとしたら、奴らだけじゃなく、俺が滅ばす可能性もあるからな。
「で、隔離といっても、どうするんじゃ」
「ああ、魔法をこうポイっとやる」
俺は、パチンッ、とフィンガースナップをする。まぁ、ちょっと格好も付けたかったし。
同時に、この町は霧に包まれた。
この隔離魔法は……あの、白銀の竜に会う前の深い霧を元にした魔法だ。そして、この魔法は、あの霧とほぼ同じ効果を持っている。いや、きっと同じ物なんだろう。
そして、俺は、その場に倒れた……えっと、疲労だ。
これは、当然戦闘魔法ではない、それに、規模が規模だから、きつい。大変きつい。
「曹駛、大丈夫か! 何者かに、やられたのか?」
ああ、心配はしてくれるんだ。
まぁ、大丈夫。
「ひ、疲労だ……気にするな……」
「そ、そうか……にしては、かなりきつそうだが」
「ああ、かなりきつい、今に吐きそうだし、気絶しそうだけど、今からがんばって、姫を攫う理由を説明する」
「いや、無理せんでも……」
「えっと、その、姫を攫う理由は……まぁ、姫の安全のためだ……奴らもしものことがあったら、多分、スミ=キ=フォルジェルド姫を人質に取るかもしれないし、人質ならまだしも、すぐに殺すかもしれないからな。多分スミ=キ=フォルジェルド姫派閥の人は、ほとんど操られているだろうし、攫うというと、聞こえは良くないけど、要は保護だ。それに、コイチ=キ=フォルジェルド姫に続いてスミ=キ=フォルジェルド姫まで消えたら、きっと奴らもう動くだろ、な。よし、説明終了」
「なるほどな……」
どうやら、納得はしてくれたようだな……
「なら、仕方ない、協力しよう」
「ああ、有り難う」
「じゃあ、さっそく……」
「待てっ!」
俺は、出来る限り力を込めてそう言った。
「なんじゃ、何か問題が……」
「ああ……」
このままじゃ、確実に失敗するからな。
まず、ある事をやる必要あある。
「まずは、休憩としよう……俺が動けない……」
そう、それは、休憩だ……せめて、吐き気は何とかさせてもらいたい。




