77話・ああ、まだだ。
―武元曹駛―
まだだ。
守らないといけない。そうだろ。
俺は、目を覚ます。
「鎮火」
その場から火が消え去る。
ああ、簡単な話だ。炎を出せるんだ、ちょっと発想を変えれば消すことくらい、簡単だ。
「悪い、もう少し、待っていてくれ」
俺は、まだ、負けていない。俺は、死なない。だから、負けていない。
俺は、俺が諦めるまで、負けない。負けにはならない。それがたとえ勝ちじゃなくても、負けじゃない。そして、俺は、諦めない。だから、負けない。
心が震える。体も震える。
だけど、負けじゃない。俺は、あいつを、倒す。
思い出せ、奴のドラゴンを。どんな奴だった。俺が付けた傷は、どんな形をしていた。
ランスの先で、地面に円を描いて行く。
行ける。俺の脳味噌に何故かある魔法知識。その知識での計算上では出来る。
転移魔法。
使える。使えるぞ。
「我は、飛ぶ。光となりて」
詠唱だって、こんなもんで十分だ。ああ、十分だ。十分にさせたからな。
お代は、俺の命だ。持ってけ、こんなもん。
「転移ッ!」
視界は光に包まれる。そして、その光が消える頃、俺は空にいた。
真下にはあのワイバーン種。それと、それに乗っかる鷸。
俺は、電覇気を使い、自分の落下速度も利用し、ドラゴンにランスを突き刺した。苦しみ悶えるドラゴンは、落下していく。
それもそうだろう。今の俺の電覇気は今までのとは全く違うだろう。なんせ、命を削って、強化しているからな。ああ、やっと分かった。やっとな。この体の使い方が。
俺は、無限と言ってもいいくらいの寿命を持っている。だから、俺は、この命を何十年何百年削ろうが、大したことは無い。そして、この命を削ると言う行為。これは万能だ。あらゆる代償に使える。なら、使わない手は無い。
これが、俺の戦い方。本当の戦い方。
「よお、さっきぶりだな」
高度が下がる中、俺は、鷸にそう話しかける。
「なッ……まだ、生きていたか……それより、どうやってここに……」
「随分と驚いているようだが、ネタばらしは無しだ、逃がさねぇぞ……」
「くっ……」
苦虫をかみつぶしたかのような顔をした、鷸は自らドラゴンから飛び降りた……その痙攣した足で、転落したかのように。
ちゃんと感電していたようだな。
ぐしゃり……音を立てて、俺とドラゴンは地面にたたきつけられ潰れた。そして、俺は死んだ。だが、意識は手放しちゃいない。死んでも、俺は意識を手放さない。こうすれば、空白の時間は出来ない。どうせすぐに復活するんだ。こ、こんな、痛みくらい……
上を見れば、また別のドラゴンが飛んでいた。そして、その背には、鷸がいた。
俺は、かろうじて動く右手をそのドラゴンに向ける。
「パワーボール」
もちろん、命を削る。ああ、ふつうに使った時のような砲弾みたいなサイズじゃ絶対に当たらないからな……
ドでかいのをお見舞いしてやる。
大きく、大きく。躱せない大きさになるまで、手に収まらなくなるが、そんなの気にしてられるか、もっと大きく。大きく。
エネルギーの収束体であるので、近くにいるだけで、肌がピリピリと痛む。だが、そんなの気にする必要もないし、今は体の潰れている所のほうが痛いので、気にならない。
気づけば、俺の横で潰れているワイバーン種よりもでかくなっている。だが、まだ小さい、もっと大きく。
あいつ、向かって来るつもりか。なら、好都合。
一撃で、吹っ飛ばしてやる。
俺は、あの巨大なビルトカゲくらいはあるであろうほどの、巨大なパワーボールを、放った。もちろん、躱させるつもりなどない。それを、風魔法を使い加速させる。
パワーボールは正面から突っ込んでくるドラゴンを木端微塵に粉砕した。
だが、鷸は、直前に、下に降りていたらしく、俺にいくつかナイフを投げつけてくる。しかし、それも、俺の周りに転がっているワイバーン種の死体が壁となり、俺まで届かない。そうこうしているうちに、俺の体は復活していた。
「さぁ、第二ラウンドだ、糞がッ!」
「随分と乱暴な言葉遣いだな……まぁ、いい、その勝負受けてやる」
放つ、放つ。俺は、パワーボールを放つ。
大きさは、確かに変わらない。さっきのように大きくはない。だが、威力は、桁違いだ。
エネルギーの収束体である、白い球が触れた瞬間、触れたところが爆散する。
あいつは、シールドフライを盾のようにして、自分を守らせているが、それがいつまで
持つかな。
だが、途端、魔法が放てなくなる。
また、こいつらかよ……面倒くせぇ奴らだ……
「だけど、それがなんだっていうんだ」
こいつらがどうやって魔法を封じているか……それは、魔力とマナを奪っている。そして、こいつらは、その奪ったマナから魔力を作ったり、奪った魔力をそのまま使ったりして、あの炎魔法を使っている。
それなら、俺は魔力やマナを使わずに魔法を使えばいい。
魔力の代わりに、俺の生命力を使う。すなわち、命を削れば済む話だということだ。
「炎は効かなそうだが、電気はどうだ?」
俺は、電覇気を発動させた。全身が痛む。だが、それがどうした。
「喰らえぇッ!」
そして、身体が帯びている電気を一気に放電した。
俺に群がっていた蜂共は次々と感電し下に落下していった。
残った蜂も、俺が触れてしまえば死んで下に落下する。感電すれば死ぬ。そこは、普通の蜂と変わりないようだな。
「ま、魔法を使えるだと……」
「ああ、ちょっとズルさせてもらった」
魔力を使っていないのだ、魔法と言っていいのかどうか怪しいが、強引に魔法で突破させてもらったぜ。
「そうか、やるようだな、だが、こいつは、どうする?」
ドスン……俺の左半身が無くなっていた。
文字通り、無くなっていた。そして、俺少し後ろの地面には、ぶっとい針が刺さっている。ああ、こいつは、知っている。
砲台ヤマアラシ。それの成体だな。
だが、それがどうした。俺は、負けることが無い。その程度で倒れると思ったか?
身体は死んでいても、意識は手放さない。
「ウインドタックル」
要は、浮遊魔法と風魔法で俺自身をとばし相手にぶつける技だ。俺は、砲台ヤマアラシの剣山のようなその体に刺されるように奴にくっ付く。そして……
人間爆弾。
俺ははじけ飛んだ。
そして、急速復活魔法が働き、復活する。
だが、流石成体の砲台ヤマアラシ。無傷か……。どうやら、物理的な力にはやたら強いようだな。だが、こちとら、魔法も使える元兵士だ。だからどうした。他に攻撃方だっていくらでもある。
バスンッ……バスンッ……次々に飛んでくる針とも呼べない針が俺の体を削っていく。
だが、お前は、焼け死ぬ。俺と共に。
「雨降らし……酸性化……」
酸性化の魔法。これは液体を強力な酸性に変える。
それを、この雨降らしと共に使わせてもらった。これがどういう事か……つまり、今降っているこの豪雨は、全て強酸。全てを蝕む、毒の雨。
溶けろ、この針団子が……
ついでに、鷸、お前もな……
ドスッ…ドスッ…ドスッ……砲台ヤマアラシが断末魔を上げながら四方八方に砲台と呼ばれるその針を飛ばしていく。そして、そのうち一本が、鷸に当たり、下半身を吹き飛ばした。
くっそ、やられた……こいつは、偽物だ……
鷸の死体をよく見ると分かる……これは、土塊人形……
つまり、取り逃がした……ということか……恐らく、あのドラゴンから落下した際入れ替わったんだ。土塊人形は感電しないはずだから、あそこまでは本物だったに違いないが、くそ……くっそ……
また、またなのか……負けではないが……勝てなかったのか……俺……




