７６話・やべぇ、強い。
―武元曹駛―
ドラゴンが呼吸を次々に吐いてくる。それを躱すと言う事が出来ない俺は、タワーシールドで、その火球を受け続けるが……あちぃぜ……
シールドはいつの間にか熱せられて真っ赤になっている。だが、これを放すわけにもいかないので、文字通り手が焼けるのを我慢しつつ、少しずつ前進する。だが、辿り着く気がしないぞ……
できれば、鎧もシールドも投げ捨てて、魔法とランスだけで戦いたいところだが、後ろには木尾たちがいる、下手に避けるのも出来ねぇ……
相手は中型のワイバーン種だ、もしかしたら俺の魔法でも通用するかもしれない。
やるだけやってみるさ、このまま焼け死ぬより何倍もいい。
「パワーボール」
白く光るエネルギーの塊を放てるだけ放つ。ほとんどは火球とぶつかり打ち消し合ったが、二、三個、ドラゴンのドでかい腹に直撃した。そして、よし、効いている、効いているぞ。
ワイバーン種は素早く、賢いが、力はあまり強くないし、防御面はあんまりという種だ。だから、俺のパワーボールも効いた。良し、まだいけるぞ。
俺は、一か八か、パワーボールを乱発しながら突っ込んでいく。
決めてやる、人間爆弾だ。
身体の至る所にパワーボールを受け、怯んでいる所に、シールドを使いタックルを決める。その瞬間、シールドに触れた場所が焼けただれ、シールドにくっ付く。自分で熱したんだ、その熱はお前自身が受けろこの糞トカゲが。
そして、俺は、爆破……できなかった。
「なッ……魔法がッ！」
ああ、それどころじゃなかった。
人間爆弾どころか、金属爆弾も、電覇気も、パワーボールも発動できない。魔力切れも疑ったが、そんなはずもない、それは俺が一番分かっているはずだ。じゃあ、なぜ。
「魔法が使えなくてお困りのようだが、まずはヒントを教えてやろう。周りをよく見ろ」
ま、周り……!? か、囲まれている……蜂に……だが、どういうことだ？ まさか、この蜂が原因か？
「まぁ、このヒントじゃわからないか、珍しい生き物だからな……これは、フウサツミツバチ……ミツバチが、スズメバチを撃退するとき、どうやっているか知っているか？」
「ああ、一つだけなら、知っている」
大量のミツバチが集まって、スズメバチを囲い熱で殺す。他にもあるのかもしれないが、俺の知っているのはそれだけだ。
「まぁ、あるミツバチが進化したものでな、元は集まり囲い、熱で敵を殺す種だったのだが、それも徐々に通用しにくくなってきたらしく、特殊な進化を遂げた。こうやって囲われるとな、まず、魔法が使えなくなる。それに、力も出なくなる。いま、お前は体が重いだろう」
い、言われてみれば、シールドも、ランスも、酷く重く感じる。
「それだけじゃない、こいつらは、熱で殺すという能力もちゃんと持っている。だが、その温度は、集まって作るものでもなければ、そんなに生ぬるいものでもない。そう、こいつらは、炎を放てる」
ほ、炎？
なんて驚く間もなく、俺は炎上する。俺だけじゃない。よく見れば、木尾、恩、満曳、隊長さん、みんな燃えている。
こいつら、どうやって、炎を……
自分を焼く火で見づらいが、なんとかして蜂をよーく見る。すると、こいつら、手の先で火球を作っている……こりゃ、まるで魔法だぜ、ここでは使えないんじゃなかったのかよ……
「ふん、まぁ、こんなものか、案外あっけないものだな」
そう言って、どうやら、立ち去ったようだな。蜂とドラゴンを引き連れて……
雨を降らせたいが……駄目だ、俺は……
みんなの焼ける音、それぞれの断末魔を聞きながら、俺は、その場で、倒れた……
