75話・なんだ、おまえ。
曹駛は、自由落下の途中、様々な事を考えていた。
(なんだ? あいつ……俺をあの穴から外に出してくれたかと思えば、殺すつもりで落としやがった、というか、最初から殺すつもりだったのか? それに、あいつ、きっとモンスターを操れる。あのタイミングでドラゴンが口を開き俺を下に落とした。それが証拠だろう。そして、それがどういう事かと言えば、この町を襲っていたモンスターを操っていた正体があいつである可能性がある)
そして、落下し、死亡した。
曹駛がゆっくりと目を開けると、さきほど曹駛を上空から落とした犯人と、恩、満曳、木尾、そして、木尾の所属する部隊の隊長の四人が対立している光景が目に映った。
「おまえは、例のPRJの関係者……いや、首謀者の内の一人だなッ!」
隊長が、怒りに満ちた表情で、そう叫ぶ。
「PRJ? ああ、それは、多分レコンストラクションJのことだな、まぁ、俺は今のところ、あまりそれには興味は無いんだが、組織の方には興味があったんでな」
「お前の興味の事は聞いていないッ! 街を、この国をモンスターに襲わせたのはお前かッ!」
「ああ、そうだが……別にいいだろう」
と、怒りで叫ぶ隊長に対し、隊長に首謀者容疑を掛けられた男は、ドラゴンの上で興味なさそうにそう返した。
「いいわけがッ! あるかッ!」
隊長が、素槍を構え、その男に突っ込んでいく。
(ま、まずいッ……)
曹駛がそう思ったのと同時に「た、隊長、駄目ですッ! そいつは、危険すぎるッ!」と木尾が叫ぶも……
(ま、間に合わなかった、と言うより、隊長さんが冷静でなかったのが大きかっただろう)
そう、隊長は仲間が殺され、街が焼かれ、家族を失い、大いに憤慨していた。それによって、正確な判断が出来ず一人で突っ込んでいってしまった。
それに対し、相手は、指一本動かすことなく、視線を隊長に向けただけだが……ドラゴンが大きな火球を吐いたことによって、隊長は炎に包まれた。
(燃え続けている……と言う事は、可燃性の液体かなんかぶっかけられたな……あれは……助からない……)
燃え盛る人の影を見つつ、曹駛は立ち上がった。
「そ、曹駛、た、隊長が……」
「ああ、雨降らし」
途端、空模様が急変し、空は灰色になる。そして、天候は豪雨となる。
隊長を包む炎は降りしきる雨によって消され、あちこち焼け焦げた姿で、隊長は地面に伏した。
隊長は致命傷、恩は魔力切れなうえに手首から先が切り落とされてしまっている左腕はまるで使い物にならなくなってしまっている。
唯一戦えるだろうと思われる木尾も、ここまで戻ってくる際にも、二人を守りながら多数のモンスターと交戦しており、酷く疲弊しており、実際に戦えそうなのは曹駛だけである。
確かに絶体絶命の状況だが、その状況によってもたらせる焦燥感や危機感よりも、相手の男に既視感を覚えている事の方が、曹駛には重大だった……
(あいつは、だれだ……)
記憶の中を探っても全く覚えていない。だが、確かに見覚えがある。と、曹駛は状況よりも、そちらの方に焦燥感を覚えている。
相手も、曹駛を見ては、何かを思い出そうとはしているが、こちらも全く思い出せていない様子を見せている。
「なぁ、お前、名前はなんだ? それにしても、良く生きていたな、あの高さから落ちて」
「死んださ、ただ、生憎体質上まだ死ねなかったらしいんでね、生き返らさせられたと言った感じだ」
「そうか、じゃあ、名前は何だと言う質問にも答えてもらえればありがたいが……そうだな、名乗らせるからには、先に名乗っておこう……俺は鷸 陽々だ、お前は?」
「なぜ、てめぇに名乗らなきゃいけない」
「そうだな、それは……まぁ、俺がお前に既視感を覚えているからだ、そして、それはお前も同じ……違うか?」
曹駛は、少し躊躇ったが、それでも相手もまた既視感を覚えていたことを知り、何か少しでも情報を得るために、名を名乗った。
「俺は、武元曹駛だ」
「むげん……駄目だな……やはり、思い出せん」
「奇遇だな、俺も同じだ」
「そうか、なら、戦うか?」
「できれば、俺は戦いたくないが……」
「奇遇だ、俺もあまり戦いたくはないが、今回は、俺の力の売り込みのためにやっているからな、今退くわけにもいかないし、少し付き合って貰おうか」
「ちぇっ、そうなるとは思っていたぜ」
曹駛はランスと盾を構え、陽々はドラゴンの背から降りた。
そして、二人の視線が交わった時、どっちからともなく攻撃が開始され、一人対一人と一匹の戦いが始まった。




