73話・攻撃、効かない。
―武元曹駛―
木尾の話を聞く限りだと、他の兵はここに来るまでにやられちまっているか、足止めをくらっているようだな。
で、たどり着いたのが、木尾一人か……本当に絶望的状況だな。
一撃を躱せば、また次の一撃。それを躱しても、また次と言った形で、防戦一方というより、逃走一方と言った形だ。
全てが必殺、もしもの時は、木尾を逃がす形で、俺が一発貰うが、出来るだけは喰らわないように気を付けてはいるが、しかし、どうする、攻撃をさせてもらえないぞ。
最近、ドラゴンとよく戦っている気がするな。それと、それらとの戦闘で気付いたことがある。こいつらドラゴンは、体が大きいからと言って動きが鈍いわけではない。
だから、躱すのが精一杯なんだ。一応、微妙な隙を見たら攻撃をするようにはしているが、そんな一瞬や一秒くらいで出来る攻撃なんて、たかが知れている。分厚い皮に阻まれてダメージを与えることが出来ない。
どうすればいいんだよ。
金属爆弾で、ちまちまと攻撃するのもいいが、まず、その金属爆弾を使わせて貰えそうにない。
どうする。これは、不味いぞ。ドラゴンと人間じゃ、体力的な差もある。きっとこのまま逃げ続けても、木尾の体力が尽きて終わる。
やはり、新しく、魔法を考えるしかないのか? だとして、それは、大丈夫なのか?
木尾も、隙を見ては攻撃しているみたいだけど、俺と同じでダメージは通ってないようだな。
本当に厄介な奴だ。
仕方ない。木尾には、あいつらの護衛をやってもらって、爆破系の魔法ごり押しでダメージを与えていくか。
一応、それなら、微妙には効くだろう。
「おいッ! 木尾ッ!」
「なんだッ!」
「あっちにいる、男女の二人組を護衛してくれ、姓は、天露と椎川、お前の護衛対象だろ」
「だ、だけどよぉ! こいつはどうすんだよっ!」
「俺がッ! 何とかするっ!」
「……わ、分かったっ、その、死ぬなよ」
そう言って、木尾は、俺の指さす方に走っていった。
まぁ、思ったよりは、言う事を聞いてくれたな。
護衛対象が護衛対象だからな、一応、そっちを優先してくれたんだろう。
よし、これで、思いっ切り爆破させられるぜ。
それから、また逃走一方な戦いを暫く続け、木尾が遠く、遠くに、この高級住宅街から離れたのを確認する。
よし、行くぜ、ここには、残骸とかいろいろとあるけど、一番多いのは石か……金属がいけるんだ、なら石だってなんだって、頑張ればいけるはずだッ!
「反発しろ、踏まれるなら、弾き返せ」
始めて使う魔法だし、見た事もない魔法だ。だから、成功させるためにも、俺は詠唱をしていく。
詠唱の文は今作るしかない。そんなもの存在していないんだからな。
文は、長ければ長いほど安定していく。
「飛ばせ、己の全てを掛けて」
だから、出来るだけ長い文章を即興で作っていく。
「相乗し合い、力を強め、いずれ全てを突き飛ばさんとする力となれ」
その間も、次々と攻撃は飛んでくる。それを何とか躱しつつ、詠唱を続ける。
「燃やせ、その力を放ち、己を主張しッ……ろ、その力は、きっと強大な物をも吹き飛ばす事だろう」
またしても、俺の右腕もぎ取られた。
激痛と、重量バランスが悪くなった所為で、上手く走れないが、それでも、攻撃を躱し詠唱し続ける。
「光となりて、全てを吹き飛ばすその力を、ここに見せ、爆ぜ、舞い散れッ!」
完成だ。
後は、放てばいい。
この魔法は、石や砂、生物以外のあらゆるものを爆破させられる。
そして、それは数が多ければ多いほど、威力が増していく。だから、この辺一帯を吹き飛ばす。
崩壊した建物、がいっぱいある、そして、この場に他に人はいない。なら、もう、ここ一帯を爆破してしまった方がいい。あわよくば、ドラゴンにとどめを刺せればそれでいい。今は、まずダメージを与え、こいつを俺に惹きつけることが先決だ。この危険で大量な火薬と化した、この地を起爆すれば、止めは刺せずとも、大ダメージは与えられる……
そして、その火薬の起爆スイッチは、俺自身だ。
「弾け、飛び散れッ! 万物爆弾化」
残骸が、亡骸が、土が、空気が、全てが強弱様々に光出す。
「死ね……人間爆弾」
俺と、この土地全体は、爆破した。
巻き込まれていないことを祈るぜ、木尾。
困ったら、とりあえず、爆破に頼る曹駛さん。




