72話・まじ、かよ。
―武元曹駛―
俺たちは、協力して、少しずつ飛び回る虫と鳥を落とし、とりあえずは、奴らを撃退した。
途中、動けないふりをしたソードバードによって、恩の左手首が切り落とされてしまい、満曳も痛みで気絶してしまった恩に気を取られ、左肩を深く切られてしまった。どうやら動かすことが出来ないらしく、左腕がぶらんとしている。
これは、痛手だな。この二人は、もう戦えないぞ。
「ご、ごめん、足引っ張っちゃって……」
満曳が申し訳なさそうにそう言う。
「いや、そんなことは無い、二人ともよく生きていた」
「で、でも、どうするんだい?」
「そうだな、どうしようか……」
周りをよーく見渡してみる。ここがどこかよく分からない。
周りの建物は崩壊、もしくは焼失しているため、判断が付かないのだ。
ここは一体どこだ?
「なぁ、満曳」
「なに?」
「ここは何処だ?」
「………」
満曳は、俺の質問に対し、悲痛に満ちた表情を見せるだけで、何も答えてはくれなかった。
「その、満曳、現在地が分からないと、これからどうするかも決められない、教えてくれないか?」
「……ここは……この場所は……―――恩の家だ、君も来たことがあるだろう」
なっ……ここが、あの天露邸? 嘘だろ……まさかとは、思ったが、ここは今や焼けた木材や、砕けた壁の破片が転がっているだけの場所だ。
つまり、この辺一帯は、高級住宅街だった場所か……
あれほどまでに、立派なお屋敷が立ち並んでいたここも、今は見る影もない焼野原だ。
「まるで、戦争だな」
目の前に広がる光景は、物語で読んだものと実に似ていた。
「そうだね……」
本の虫と自分を称していた満曳も、そう言って俺の言葉に頷く。
「兵士はどうした? 誰かしらいないのか?」
「みんな、やられた」
「誰一人残っていないのか?」
「応援を呼びに行ったけど……もう大分経つ、ちゃんと他の兵の元に辿り着いたかどうかも怪しいけど、辿り着いていたとして、ここまでくる間に何かあったとしか思えないかな……」
つまり……絶望的……ということか……
「これから、どうするの?」
これからか……これから、ねぇ……
正直、どうしようもないかな。兵が全滅とすると、もう本当にどうしようもない。
それと、この天露邸に嫌なお客様が、来やがった。
「なぁ、満曳……生き延びれると思うか?」
「うーん、君以外はちょっと難しいかな……」
ばさり、ばさり、大きな羽ばたき音。
突風に、足元の小石が吹き飛んで来る。
「さて、曹駛くん。これから、どうする?」
「どうしようか、満曳」
俺たちは、お互い顔を見合って。同時に大きなため息をついた。
そんな俺たちの正面に、巨大なドラゴンが降り立った。崩壊する前の天露邸くらいの大きさはあるぞ。片手だけでも、七人は一握りで潰せるくらいだ……
「おい、満曳、恩を連れて逃げろ」
「うんっ!」
ああ、素直に従ってくれたな。
満曳は状況判断が出来る奴だからな、きっとしたがってくれると思っていたぜ。
正直、怪我人に配慮をしつつ戦って勝てる可能性は、ゼロだろう。万が一も億が一も兆が一もない。ゼロだ。
悪い言い方をすれば、足手まといになるんだ、この場ではな……
「パワーボールッ」
俺は、ランスを杖代わりに、パワーボールを乱発させる。
だが、ドラゴンからしたら、ピンポン玉程度でしかないのだろう。その証拠に、最初こそは、着弾点をちゃんと確認したものの、二発目以降は、当たったところに目を向けさえしない。時間稼ぎにもならないのかよ……
「さて、どうしッ……ようかな……」
なんて、言えるほど余裕はないかな。
喋っている間に、右肩から先を捻り取られた。
それに、俺は、掴まれている。
いきなりピンチかよ……
はぁ……仕方ないか……
俺は、バスタード・ソードを何とかして、はずして出来るだけ遠くに行くように投げ捨てた。
「喰らえよ、このビルトカゲ」
まぁ、とっさに思いついたにしてはいいあだ名じゃないか?
ビルのようにでかいトカゲ。だからビルトカゲ。そのままだが、なかなか似合っているぜ。
俺は、人間爆弾と金属爆弾を使い、弾け飛んだ。
そして、あらかじめ、用意しておいた急速復活の魔法が発動し、ドラゴンの足元に俺は復活し、現れる。
無傷……ではないが、あの密閉空間で爆破しても、手一つとして吹き飛ばす事が出来ないのか。さて、どうしようかな……本当に……
ランスをその大岩のような足に刺すも、分厚い皮を突破することが出来ない。肉まで届かない。
「電覇気」
一応、電気も発生させておく。だが、これがどれほどの意味があるのか……
大きな足が、持ち上げられ、振り下ろされた。
まるで地震のようだったんだろうな。
俺は、またしても急速復活魔法によって復活した。
こいつは、どうやって倒すんだ? まぁ、でも、時間稼ぎくらいはしないとな……
落ちているバスタード・ソードを拾って、また背中に差しておいた
まぁ、ちまちま攻撃していくか。と、思っていると……ガキンッ……金属音が聞こえた。そして……ドスッ……大きな刃が俺の後ろの地面に刺さった。
ボロボロで刃こぼれも酷いが……これは……見覚えがあるぞ……
「よう、グルック、大丈夫だったか?」
先ほど落ちてきた刃の付いていた剣の持ち主が、俺にそう話しかけつつ、俺の隣に並ぶ。
「ああ、おまえ、こそな……木尾」
そう、さっきのは、木尾の剣の刃だ。
無事、だったんだな……
「助けに来た……って言いたいところだが、今の一撃で武器がぶっ壊れちまった」
「それなら心配ない」
ああ、心配ない。
むしろ好都合だ。
「これを使え」
と、木尾に背を向けた。
「なんだ? その剣」
「ああ、話していた、お前の新しい剣だ、プレゼントしてやるから、戦え」
「おう、ありが……」
木尾は、俺の背に担がれているバスタード・ソードを手にしようとするが、何故か触れた瞬間手を引っ込め、一向に手にしようとしない。
早くしろよ、ドラゴンは長時間待ってはくれないだろ。多分。
「おま、なんかバチッと来るんだけど」
ああ、なるほどな。ごめん。電覇気使ったままだった。
「ああ、これでいいか、早く受け取れ」
「お、おう」
今度は、ちゃんと掴み、両手でバスタード・ソードを構えた。
やっぱり、これは、俺が使うより、お前が使った方がよさそうだな。と、思っていると、隕石さながらに、大きな手が上から降ってきた。俺と木尾は、左右に分かれ、全力で走る。潰されないようにな……
ドスンッッ!!
地面が大きく揺れ動く。
当たれば即死か……全く最悪な相手だぜ……
さてと、バトル開始だ。せめて時間稼ぎくらいしてやる。かかってこい、ビルトカゲ。
この頃の曹駛の魔法の威力は今と比べると、かなり低かったのです。




