71話・悪い、遅れた。
―武元曹駛―
走る。
飛びかかってくる、モンスターを切り裂き、突き刺し、払いのけ、走る。
重い装備の所為か、上手く走れず、速度が出ないが、走る。
周りをよく見れば、まだ取り残された人たちもいる。
あちこちから泣き声が聞こえる。
助けてあげたいところだが、俺は今からもっと危険なところに行くんだ、俺に付いて来るより、ここにいた方が安全だろう。それに、この状況を何とかした方が、結果的に助かる確率が高いはずだ。
戦場独特の匂いが、ここには漂っていた。
俺が、今まで見た中で一番酷い惨状が、そこには広がっていた。
もしかしたら、俺は兵士だった時代よりも、戦っているのではないだろうか。
この国に来てから、いや、あの洞窟を出てから、人間でなくなってから、どれだけ戦ってきたのだろう。兵士だった時代よりも、形式上居パン人である今の方がよく戦っているとはどういう事か。
ひどくうるさい羽音が聞こえてきた。
また、シールドフライか。
「ぐっ……」
その時、肩に激痛が走った。痛みでバスタード・ソードを落とした。自分の肩を見て見れば、馬鹿でかい針が刺さっている。これは、針と言うかフルーレとかレイピアではないのか? それほどまでに大きなものが刺さっていた。
これを突き刺した犯人は、俺のすぐ上を飛んでいる。正確には、俺のすぐ上を飛んでいるシールドフライに持ち上げられている。
砲台ヤマアラシの幼体かッ……
大きくなると、それこそ一メートル以上の針と呼んでいいのかどうかも怪しいサイズの針を飛ばしてくる。だが、そいつは巨大すぎて、シールドフライじゃ運べないからな、だから、比較的小さい幼体と言うわけか。まぁ、それでも3匹掛かりで運んでいるようだが……
バスッ、バスッ……地面に次々と馬鹿でかい針が刺さる。くっそ、あぶねぇ……脳天直撃で即死とか嫌だからな。きっと生き返った時には、あの針で地面と縫い付けになっているだろうし。厄介な相手だぜ。
攻撃をしようとしたが、随分と高い所を飛んでいて、俺のランスですら届かない。
魔法を放つも、別のシールドフライが盾となるように、現れ砲台ヤマアラシを守ってくるため、俺の魔法が奴に届くことは無い。くっそ、本当に厄介なやつだぜ。
どうする、このままだと、辛いな。じゃ、あれ行こうか。あれ。
俺は、武器を全て担いだ。今まで両手にあった重みが全て背中へ行き、後ろに倒れないためにも、少し前屈みになりつつも、走る。
これは、ただ逃げている訳では無い。
俺は、崩壊した建物や、逃げ惑う人々の落し物、無念にも散って行った人達の装備や、破壊された装飾品から、金属だけを拾いあげ、投げつけては、爆破、投げつけては、爆破させ、少しずつではあるがシールドフライの数を減らしていく。
そして、比較的大きめククリを亡骸から拝借し、思いっ切りぶん投げる。そして、それが、刺さった……砲台ヤマアラシを運ぶシールドフライの内の一匹にな。
「弾け飛べッ! 金属爆弾」
爆風共に針が降ってくる。
いくつか、俺の体にも刺さったり、貫通したりもしたが、大丈夫だ。致命傷は無い。
だが、あいつ、まだ生きてやがる……
砲台ヤマアラシは爆破の直前、自ら地面に飛び降りることによって、焼け死なずに済んだようだ。
だが、地面に降りた時点で、お前の負けだ。
「金属爆弾」
だって、ここにはいくらでも金属が転がっているんだからよ……
悪いな、今の俺は、死人にまで気を使っていられるほど、余裕はないんだ。
ヤマアラシが足台にしている遺体の鎧が、爆ぜた。
さまざまな物が、あちこちに飛び散った。
さぁ、急ごう、この国兵が、木尾が、まだ戦っていると信じて。
俺は、再び前に進み始めた。
そして、少し安心した。と、言っても、ほんの少しだが。
戦う音が聞こえてくるんだ。
人が、戦う音が……
つまり、まだ全滅していない。戦う声がほとんど聞こえないと言う事は、半壊はしているかもしれないがな……
そして、見慣れた顔を見かけた。
「く、喰らえ、パワーボール」
そう言って、杖を振るっていたのは、恩だった。そして、短剣を持ってその背中を守っているのは、満曳だ。
あの魔法、杖から放たれている白い球はエネルギーを収束させたものか。なるほど、そう言う魔法もあるのか。
必死にソードバードやシールドフライを追い払おうとしているようだが、いかんせん数が多く、処理しきれていないようだ。
「ぱ、パワーボー……う、嘘……ま、魔力切れ……?」
どうやら、恩は、打ち止めらしいな。
「お、恩、一匹、来るよッ!」
「で、でも、もう、魔力が」
魔力を切らしたことをなんとなく理解したのか、ソードバードが一体、恩へ向かって、突進している。
えっと、エネルギーの収束、発射か……
「パワーボール」
恩に迫っていたソードバードが吹き飛ぶ。
まぁ、威力はあるな。いい魔法だ。ラーニングさせてもらったぜ。お代は、今の一発でいいだろう?
「曹駛くんっ!」
満曳が俺に気付いたようで、こっち向いてきているが、いや、正面見ろ正面。鳥が迫ってきているぞ。
俺は、もう一発パワーボールと放ち、満曳に迫っていたソードバードも打ち落とした。
「あ、ありがとう、曹駛くん、その、手伝ってくれ、数が多くて……」
「お、お願いっ……そ、曹駛さん」
もちろんだ。
俺だって戦う。
そして、それは、言葉じゃなく、行動で答えた。
「電覇気」
電気を纏い、ランスとタワーシールドを装備し、二人の元へ駆ける。
そして、この状態なら、盾もまた武器となる。
シールドフライやソードバードを感電させ、下に落とす。下に落ちて動けなくなったやつならやつなら、魔力切れの恩でも止めを刺すくらい出来るだろう。
さっきまでは、大分苦戦させられていたようだが、俺と言う援軍が着いたことだし、始めようか。
第二ラウンドを……




