69話・茶番、かよッ!
―武元曹駛―
俺は、目を覚ました。
で、そのな、一言言いたい。
茶番かよっ!
何どうなっているかと言えば、恩が満曳に抱き着いていた。
いやー、めでたしめでたし……じゃねーよ。
確かに恩がその元気とまではいかないものの、その良くなったのはいいと思う……けど、満曳、お前は何なんだよ、見た感じさっきと変わってないし。
というか、俺死んだんですけど。ねぇ。
そのね、もしかしたら、俺の死後、恩と満曳が戦って……とかと思ったよ、そしたら、なんだこれ。
満曳は先ほどと同じ様子で、全く傷一つ負ってない。いやまてよ、おい。
それに、操られているとも思えないし、殺気も全くない。なんでだよ、もしかして、最初から操られてなかったのか?
「うん、そうだね。最初から操られてなんかいなかったよ」
「マジかッ!」
例の目の能力をまだ使用していたのか、唐突に満曳がそんなことを言ってきたので、驚いて大声で返事をしてしまった。その際、こちらを向く満曳に正面から抱き着いている恩はこちらが背面になるので、俺がいつの間にか気を取り戻していることに気付いていなかったようで、急な大声に肩をビクリと大きく震わせた。
その、もしかしてなんだが……このシナリオは、満曳の思い通りなのか?
最初から俺とこう、戦うつもりでいて、こう、なんというか、そのナイフを持って、恩を襲うふりをしたりしていたのか?
ああ、なるほど。うん。なんとなく納得した。
最初に俺が土下座をした時、心の底から、申し訳なさそうにしていたのは、俺をナイフで刺すつもりだったからか。
「うん、まぁ、そうなるね、だから一方的に謝られるのはちょっと悪い気がしたんだ」
「マジかよ……」
恩を元に戻すためとはいえ、これはあまりにも強引な手じゃないのか? 下手したら、恩が後追い自殺する可能性もあっただろうに。
もちろん、満曳のな。
そりゃ、手加減はするつもりだったけど、あのまま戦いが続いて、やむを得なくなったら、殺すほかなかったからな。あの状況は……
それと、最初に会った時から、ちょいちょい気になってはいたのだが、恩は満曳の事好きなんだろうな。ただ、その、満曳が全く以て気づいていないように見える。と言うか、気付いていない。
って、あ……今、満曳、俺の心、読んでいるんだっけ?
マズったか……?
と、思い、満曳の方を見ると……きょとんとしている。
「そ、その、曹駛君、い、今のはどういうことだい?」
「恩に直接聞けよ」
ああ、もう知らね。
今日も疲れたな、帰ろうかな、なんか謝ろうとしていた俺がばかばかしく感じても来た。
そういや、満曳は、人の心読めるんだったな。だったら俺の名前知ってもおかしくねーじゃん。というか、良く考えたら、半分くらい俺の早とちりな気がしないでもない。俺が早めに満曳の使用としていることに気付けたなら、死なずに済んだじゃね? まぁ、でも、恩が完全に元に戻ったかどうかは置いておくとして、まぁ、また笑えるくらいにはなったみたいだし、別にいいか。
ああ、これだけやって、俺には何もなしですか。美少女のハグくらい、俺だってされる権利あると思うんだけどな、この際、満曳のハグでもいいくらいなんだけど。あ、やっぱなし、さっきの撤回。
ああ、物語のモブの気持ちってこうなんかなぁ、そこまでやるせなくもねぇが、ちょっと達成感が無いかな。などと思いながら、門を出ると、そこにはもちろんあの隊長さんがいた。
「よう、いい笑顔だな。つまり、作戦は成功したってことか?」
「作戦? 俺が殺される作戦ですか?」
「おう、そうなるな」
「はぁ……なるほど」
だから、だれも駆けつけてこなかったのか。
普通ガラスの割れる音がしたら、誰かしら駆け寄って来るはずだもんな。その辺でおかしいって気づけない俺は、まだまだ洞察力不足かもしれん。
「ああ、もう疲れました、俺、帰りますね」
「そうか、お疲れさん」
「うぃーす、あーたーしたー」
もはや適当な挨拶しか返す気力のない俺は、とぼとぼと家、というか、木尾の部屋に帰ることにした。
「ただいまー、つっても誰もいないか……」
ああ、腹減ったなー、肉食いたいなー、肉。
まぁ、倒れるほどお腹空いている訳でもないし、寝るか。どうせ木尾もなんも食わないだろうし。
俺たちは、あのドラゴンの肉を食って以来、飲み物以外、あまり口にしていない。というか、なんというか、何を食べても、美味しくない……とまでは行かないにせよ、なんというか物足りない。一味というか、うま味というか。なんか足りない。そう、例のあの薄切り肉入れた炊き込みご飯みたいなあれ……あれは、なんとか食べれたんだけど……それ以外は、どうも体が受け付けないという状態に、俺と木尾はなっていた。三日間くらい。そして、それより少ししてからは、まぁ、空腹からか、普通の食べ物でも食えるようにはなったんだけど……その、不味い。めちゃくちゃ不味かった。で、今、大体一週間くらいたった今になってやっと、普通の飯が普通に食えるようになった。美味しくは無いけど……
なんか足りないんだよなー、どうしてもなんか足りないと感じるんだよなー
どう工夫して食っても、なんか足りねぇんだよ。だからと言って、ドラゴンの肉を再び食うのはなんか危ない気がするし、どうすることも出来ないんだけどさー……
まぁ、いいや……寝よう……木尾が帰ってくる頃には目が覚めるだろう……
ドラゴン肉、危険、ダメ、絶対。




