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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第四章・俺、ですか?
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59話・殺して、やる。

 ―武元曹駛―


「そうか、あいつが、怨栽……」

「ど、どうしたの?」


 俺が恨みがましくそう呟いたのを不思議に思ったのか、満曳がそう尋ねてくる。


「もしかして、君も……いや、違うね、君は外国人だもんね……」

「どういうことだ?」

「その、この国も意外と貧しいは多いんだ、いや、国である以上貧富の差があるのは当たり前の話なんだけど、街ではあまりそういった人見かけなかったでしょ」

「ああ」


 そうだな、公園にホームレスはたったの一人もいなかった。


「でもね、別に貧しい人がいない訳じゃないんだ、貧しい人は、みんな隣の国……いや、正確には違う、あれも実質は、この国の一部のようなもの……かな」

「何の話だ?」

「そのね、この国のすぐ隣には、ラックム共和国と言う国があるんだけど、そこの国を治めているのは、この国の富豪たちなんだ。だって……ラックム共和国を建国したのは、この国だから」

「それは、どういうことだ?」


 わざわざ隣に国を作った? 一体どういうことだ。

 国の領土を広げる訳でもなく、新しい国を作った。それに、意味があるとすれば……。


「質問されるのは悪い気分じゃないけど、今日の君は、ちょっと怖いかな」


 唐突に、満曳がそう言う。


「なにがだ?」


 だが、俺はいつも通りなので、満曳が何を怖がっているのか分からず、そう返した。


「いや、その……まぁ、いいけど……」

「なんだよ、気になるな」

「気にしないでよ、僕がちょっとおかしいのかもしれない」


 と、少し無理をしたような微笑みを見せた。


「で、結局、なんで国土を広げずに、建国なんてしたんだ?」

「ああ、うん、それなんだけど……あそこは国と言うの名の強制労働所みたいなところだよ」

「強制労働所?」

「うん、まぁ、病気だろうが怪我だろうが鞭打って働かせるとか、でもよく物語にある強制労働所ほどひどいわけではないんだよ。その国の国民は全員、元はこの国に住んでいた人達なんだけど、一定以上貧しくなると、強制的にラックム共和国に移住させられるんだ」

「それに何か意味が?」

「うん、あるよ、その国では比較的低賃金で働かせるんだ、と言っても、あくまで比較的な話であって、贅沢をしなければ普通に暮らしていける程度には貰えるよ、ただ、そこに行ったらまず仕事は選べない。割り振られた仕事を黙々とこなすしかないんだ。で、その国を作るメリットなんだけど、まず、労働者の確保、次に、無職の人間に職を与え、餓死などを防止する。そして、あまり大きな声では言えないんだけど、実際のところは、この国の外観を良くする、それが、第一らしいよ」

「つまり、この国を見かけ上だけでも、裕福な国にするのが目的なのか?」

「まぁ、端的に言えば、そうなるかな」


 なるほどな、民をゴミ扱いか。許せないな。絶対に殺さないといけないだろう。これが正義であることが今、証明された。

 これで、迷いなく、殺せる。


「なぁ、満曳」

「うん、なに?」

「おまえ、あいつと幼馴染だろ?」

「恩と? うん、そうだけどなにか?」


 そうだな、なら、一応謝っておかないとな。


「あ、まさか、あれかな? 恩の事好きになった?」

「いや、そうじゃない。だが、これはお前に言わなければいけない」

「え、違うの? じゃあ……」


 満曳が顎に手を当て、何かを考える素振りをしている。

 俺は、右手で握り拳を作った。


「先に謝る、ごめんな満曳」

「なにをっ……!」


 俺の右手は、満曳の腹にうずまっていた。

 全力で殴った。

 満曳は、そこで、先ほど食べた物と血を口から吐き出し、その場に伏した。


「ぐ、ぐるっく……くん……きみは……どうし……て……」

「悪い」


 ダスッ!


 鈍い音が響いた。

 俺が、一言「悪い」と呟いて、満曳の思いっ切りその無防備な脇腹を蹴りあげたのだ。

 満曳とは、せっかく仲良くなれたんだけどな。でも、殺さないと駄目だよな。だって、この国を動かせる家系の内の一つだし。

 まだ、殺してはいない。虫の息ではあるが、まだ死なないギリギリの威力で蹴ったはずだ。満曳を殺すのは最後にしよう。仲良くしてくれたことと、色々教えてくれた礼の代わりに……なるかどうかは分からないけど、せめて死に方くらい選ばせてあげよう。


「な、なんだ、お前は」


 手加減はしたのだが、それでも大きな音が出てしまったのか、先ほどの打撃音に気付いた数人がこちらを向いている。ああ、これじゃあ、もう暗殺は無理だな。でも、その命は貰おうか。最悪、失敗してもいいだろう。何故なら、俺はまだ正式にあのプロジェクトの参加メンバーには加わってない。俺が捕まろうと、あちらに被害が及ぶことは無いだろう。


「なんだ……ねぇ……」


 俺は、誰に言い聞かせる訳でもなく、そう呟いて……

 小刀と一緒に密かに懐に忍ばせておいた、毒を塗ってあるナイフを怨栽に向けて投げつけた。

 一直線、その白銀の刃は怨栽に向かって飛んでいく。このままなら、きっと殺せるはずだ。


 ザスッ!


 刃物の刺さる音。

 だが、それは人体にではない。

 土に刺さる音だ。


「どうした、若者よ、怨栽の力でも試したいのか? それなら、こんな暗殺紛いの事はやめてもらいたいものだ、流石にまだそこまで実力が有る訳では無いのでな」

「どういうことだ? ジジイ」


 俺の投げたナイフは、真っ二つに斬られていた。それも縦に。

 断鬼の手には刀が握られている。つまり、あいつが斬ったと言う事だろう……。


「ふんっ、とぼけなくともよい、不安だったのだろう?」」

「だから、どういうことだ?」

「だから、今日は怨栽に正式に天露の姓を与える日だろう?」

「ああ、悪いな、俺は他国から来たもので、それに関してはさっぱり分からない、だから、教えてほしいところだが……まぁ、死ね」


 俺は、もう2本ナイフを投げつけた。今度は、怨栽ではなく、断鬼に向けて。

 案の定、断鬼にそのナイフが届くことは無く、弾かれてしまう。だが、そっちじゃない。目的はな。

 俺は、ナイフを2本投げた。一本は確かに断鬼に向かった。だが、もう一本は既に当たっているんだぜ。

 そう、もう片方のナイフは、深々と標的の胸に突き刺さっていた。

 そして、その標的とは……


 満曳だ……


 悪いな。本当に。

 罪悪感はある。だが、それも怨栽を殺す為には必要な事。

 俺の思惑通り、怨栽は、目を見開き、口を開け、まるで信じがたい光景を見ているかのような顔をして、こちらを見ていた。


「うそ……でしょ、なんで、なんで?」

「落ち着け、怨栽、まずはあいつを倒すのが先じゃ」


 ああ、こちらの思惑通り、怨栽はもう平常を保てない。断鬼も、その怨栽を落ち着かせるためか、先ほどと比べると少しだけだが、注意力が散漫している。

 それが、命取りだ。


「おまけだ、死ね」


 俺は、小刀を投げつけた。

 今、断鬼と怨栽は一直線上に立っている。それに、この勢いなら、きっと、両方とも、()れる。


「ふんっ、後ろだからといって気付かぬとでも思ったか?」


 それを断鬼が切り裂くが……


「バカがッ、そんなこと知ってるぜ」


 ボッッ!!


 切られたはずのその小刀は、炸裂した。


「ハハハ、知ってるか? それ、魔法って言うんだぜ」


 金属爆弾(メタルボム)

 金属を爆破させる魔法だ。

 せっかく持ってきた近接武器の小刀だが、背に腹は代えられない。今は、断鬼を仕留めるのが先だからな。

 当たり一面灰色の煙に包まれた。

 その煙の中からは、悲鳴やすすり泣く声が聞こえてきた。

 逃げ惑う者や、その場に座り込んで泣き始める者、中には真っ赤になってその場に伏している者もいる。

 ああ、俺、やっちまったのか。

 人殺し。兵士になってから、始めて殺したのが貴族や富豪か。まぁ、今は兵士ではないんだけど。


「お前も術を使えるのか……」

「なっ……」


 煙がそよ風に乗って飛んでいき、徐々に視界が晴れていく。そして、その煙の中には、ボロボロの断鬼と、その断鬼に守られていたのか、服こそ汚れているものの、無傷の怨栽が立っていた。

 こいつらが経っている事よりも、先ほどの台詞が気になる。お前も……だと……?


「この、無法者がッ!」


 門の前に立っていた兵が、突然槍を構え突っ込んできた。


「ラッキー」


 まぁ、考え事をしている時に攻撃をされたのはムカつくけど、せっかくだから、その槍を貰うことにした。


「よいしょ」

「………」


 ボトッ……


 地面に、首が落ちた。もちろん、その兵の……

 簡単なことだ、この兵は軽装で首の部分を守る物が一切なかったから、隠し持っていた最後のナイフでスパッといらせてもらった。もちろん、魔法によって切れ味は増しているけどな。


「うっ……」

「くそっ……」


 怨栽が、その場で、胃の中身を吐き始めた。きっと、慣れてなかったのだろう。一方断鬼は、見慣れているのか動じもしないがな。

 ただ、隙だらけの怨栽を守るためか、体力が削られているためか、先ほどよりも隙が見える。この俺にもわかるくらいの隙がな。


「行くぞっ」


 俺は、先ほど兵から奪い取った素槍を構え、断鬼に向かって走り出した。

 怨栽を狙っているように見せかけるような動きをしてはいるが、本当の狙いは、断鬼だ。

 見た感じ、あの小娘は何もできない。断鬼さえ殺してしまえれば、あとは楽に始末できるはずだ。

 それにしても、素槍はラッキーだ。俺は、こういった槍は、ランスの次に扱うのが得意な武器なんだ。


「死ねっ!」


 怨栽に向かって、思いっ切り槍を突き出す……断鬼は当然それに反応して、槍を切ろうとしているのか弾こうとしているのか、下から槍の柄の部分に向けて刀を振り上げてくる……が、そんなの分かりきっていたことだぜ、俺は槍を半分突き出したところで一回転させその槍にその斬撃を躱させつつその場を引いてから、今度は手加減して突き出した先ほどとは違い、全力で突き出す。


 ダツッ!


「かはっ……」


 槍の穂はしっかりと断鬼を捉えていた。

 先ほどの少し手を抜いた突きを全力だと思っていた断鬼は反応が少し遅れたようで、振り上げた刀を下ろす暇もなく一突き。まぁ、それでも必死に回避行動をしたのか、狙った心臓からはそれてしまったが、致命傷であることには違いない。


「なぁ、お前、操られているのだろう」

「はぁ?」


 死に損ないのジジイが何か訳の分からないことを呟いた。

 ただ、その言葉に俺はイラついたので、突き刺さっている槍に力を込めて、地面にジジイを押し倒し、ぐりぐりと更に深く槍を押し込み、縫い付けの状態にしてやった。


「もうやめて、狙いは私じゃないのっ!?」


 怨栽が叫ぶ。


「違うな、確かにお前メインだが、断鬼を消せるなら、それに越したことは無い。だって、お前がメインになったのは、断鬼が強すぎて葬るのが容易ではないから、()()おまえが標的になっただけだしな……ははは」


 自然と笑い声が出た。

 まさか、こんなにうまくいくとは、暗殺ではないが、断鬼も仕留めたぞ。

 そこで、右手で抑えている槍に違和感を覚えた。

 妙に……軽い……。いや、軽すぎるっ! 先ほどまで抵抗していたはずなのに、こんなに急に死ぬはずがないっ!

 槍の先を見て見ると、そこに断鬼はいなかった。いや、そもそも槍の先が無かった。槍の柄は途中でスッパリと切られており、その切り口はとてもきれいである。

 つまり……


「ぐっ……」

「なっ……」


 そう、断鬼は立っていた。

 胸に槍を刺したまま、俺の前に立っていた。


「悪いっ!」


 振り上げられている刀が振り下ろされた。

 だがっ! 遅いっ!

 やはり、死に損ないは死に損ない。大した力もない。

 俺は、後ろに飛び退こうとした。

 だが、その足は地面に埋められていたため、飛び退くことが出来なかった。正確には、俺の足が土が被さっていたのだが、その土を崩すことは出来なかった。まるでコンクリートで固められたかのようであった。

 こんなことが自然に起きる訳が無い。

 ま、まさかっ……

 とっさに怨栽の方を見た。

 ッ……!?

 構えていた。

 構えていたのだ。小型の杖を。

 そうか、そういうことか。こいつは、こいつは、こいつがッ……


 魔術師かッ……!


 俺は、その振り下ろされた刀によって両断された……


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