6話・街中、出てみました。
今回も短くて済みません。
20150316:編集いたしました。
今回も短くは無くなりました。
―武元曹駛―
街へ買い物に行くときは、いつもは俺もレフィも一人で行っている。それは、俺達二人はそれぞれ欲しい物も違うし、食材に関しても、基本料理に関してはレフィにまかせっきりだから、二人一緒に出掛ける理由が無かったからだ。
でも、今日は、二人で来た。そして、それにはちゃんと理由がある。別に俺たちが愛し合い始めたからでもなければ、俺がレフィをデートに誘ったからでもない。
まぁ、物凄いデートっぽいけど。ぽいけど。
傍から見れば、美男美女カップルに見えるだろう。
美男美女。
美男(に見えないこともないと思う、うん、ほら、元兵士だし、微妙に筋肉あるよ、その力こぶとか出せないけど、筋肉はあるよ、最近ちょっとトレーニングとかしてないからそうでもないかもしれないけど、少なくとも、並にはあると思うよ、うん、それに、顔もその、大丈夫、少なくとも、ぶ、不細工ではないし、だ、大丈夫、か、かろうじて美男といえなくもない、うん、そう、大丈夫。遠目から見たらきっと美男。うん。お金もあるし、大丈夫、俺、美男)美女(文句もなく、美女。このレベルの女の子はそうそうそういないくらいの美女)カップルに見えるはず。
脚色は無い。うん、美男美女カップル。
まぁ、実際は、奴隷と主人でしかないんだけど。最近、本当に奴隷なのかどうか怪しく思えてきたけど。
で、俺達が、一緒に出掛けている理由だけど。それは、昨日の夜の会議で、『無駄遣いを抑えるには』という議題で話し合った結果、これから買い物をする時は、二人で一緒に出掛け、片方が無駄遣いしそうになったら、もう片方がそれを止める。ということになった。
そうなるのも当然だろう。俺たちは、毎度毎度、出掛ける度にいらない物を買っていたからな。それも、高価な物ばかり。虫の化石とかどうしろって言うんだよ。なんで買ったんだよ。あれ、ただキモいだけじゃん。くっそ、過去の俺が恨めしい。
レフィもレフィで、謎の剣とか買って来たし。なんだあれ。鞘にラム酒って刻んであったけど、意味不明すぎる。なんだあれ。しかも、物凄いなまくら。ほんとなんだあれ。その上、めちゃくちゃ高い。マジでなんだあれ、何のために作られ、誰向けで売っていたんだ。
まぁ、俺もレフィも、家に帰って指摘されれば、無駄遣いしてしまったことに気付く辺り、まだ救いようがあるはずだ。まだ衝動買いの域を出ないから、お互いがお互いに注意し合えば、そう言う無駄遣いは無くなる、きっとな……
それにしても、本当にデートみたいだな。
なんか、ちょっとドキドキする。女の子と、今まで、二人で街中に出るなんて……無かったわけじゃないけど、その、妹だったり、幼女だったりして、こう、こういう風に、デートとはまた違うものだったからな。すげぇ、ドキドキする。だって、こいつめっちゃ可愛いし。
隣を歩いている、レフィは、奴隷には見えない。主人である、この俺でも……
首輪は、チョーカーと言われても違和感のないほどのデザインだし、服装だって、安っぽいものではなく、むしろ高級品だ。
そして、何よりも、その振る舞いが、奴隷のそれとは違う。
それが良いのか、悪いのかは置いておくとして、彼女は、奴隷に見えない。
まぁ、彼女が奴隷に見られないようにしているのは、俺の意図通りでもあるのだが。
奴隷扱いされなければ、彼女は基本自由の身だからな。首輪は逃げられないようにつけているだけで、その、別に彼女を拘束するつもりはない。むしろ、自由に生きてほしい。
まぁ、たとえ首輪を見られたって、奴隷と思われるかどうかは怪しい所だな。確かに、名前は刻んであるけど、こんな高価な首輪奴隷に付ける奴なんかいないと思うのが普通だし、精々、変わった趣味の人だなぁ、程度にしか思われないかもしれない。
「何見てるの?」
俺に見つめられていることに気付いたレフィが、こっちを向いてそう言う。
「い、いや、なんでもない」
俺は、なぜか気恥ずかしくなり、正面を向いた。
気恥ずかしくなることなんてないんはずなんだけどな。俺とこいつは、奴隷と主人。その関係はどこまで行っても、無くなることは無い。どんなに仲が良くたって、どんなに信頼し合ったって、分かり合ったって、その関係は変わらない。
だから、他人からどう見られようと、俺達がお互いにどう思っていようと、奴隷と主人である。その事実はあらゆる根幹には存在し続けるだろう。
それだけは、俺も、レフィも、きっと理解している。
でも、まぁ、気にすることでもないかな。そんなことを常に考えていたら、人生を楽しむことは出来ない。人生は長いようで短いなんて言われるけど、実際、短くなんかない、物凄く長いものなんだ。だから、せめて飽きないように、楽しまないとな。
「ふーん、意味もなく女の子の事をじーっと見ていると、気持ち悪がられるからやめた方がいいと思うよ」
「べ、別にいいだろ、お、おまえだし」
「まぁ、ね。私だし……」
そう言う彼女の顔は、別に沈んではいない。それが普通であるというように、いつもの顔で、いつもの口調で、そう言った。
「そんなことより、お腹空いたし、なんか食べて行こう」
彼女が俺の手を引き、飲食店街の方に引っ張って行く。
無駄遣いは……と言おうとしたが、もう太陽も真上にある。確かに、俺もお腹減っているし。まぁ、これくらいはいいだろう。別に、飲食だって度を超えたものでないなら、無駄遣いではないし。
「あ、これ美味しそう」
レフィは、ある飲食店の前で足を止め、ショーケースの中を指しながら、嬉々とした声でそう言った。
どれどれ、そんなに美味しそうなものなのか?
俺もショーケースの中に浮き出ている料理のサンプル幻像を見る。こういうサンプル幻像を設置するには、魔法を使える人を呼ぶ必要があるから、結構金掛かるんだよな。これ見ると、毎回、飲食店でアルバイトしていた時の事を思い出す。結構大変だったけど、なかなか楽しかったぜ。まぁ、辞めたけど。
で、そのレフィの指の先を視線で辿ると、その先には、リザードマンのテールスープと書かれた、サンプル幻像があった。いや、どっかで、指差す先と俺の視線がずれたかな、と思い、もう一度、指先からその果てまで見てみるも、そこにあるのはリザードマンのテールスープと書かれている料理のサンプル幻像。
というか、ここの店のサンプル幻像を見渡して気づいた。
ここ珍味店専門店かよ。
えーっと、これは、無駄遣いに入るのでは? こういう珍しい食材を使った料理を出す店は、高くなかったとしても、安くはないはずだし、何よりも、俺がそういうの食べたくない。
「さ、入りましょ♪」
やけに上機嫌なレフィが、俺の手を引き店の中へ入る。
ああ、いい笑顔だ。最高にな。でも、その笑顔で俺を店の中に引っ張って行くのはやめてほしいな。
断るに断れないじゃないか。
店入り、店員にテーブルに案内されるや否や、レフィはメニューを開き、厳選するような目つきでそれを見る。
メニュー表は一テーブルにつき一つなので、俺は、ウエイトレスさんが運んできてくれた水を飲みながら、メニュー表を食い入るように見ているレフィを眺めていた。
「何見てるの?」
俺に見られていることに気付いたらしいレフィは、メニュー表越しに俺にそう言った。
さっきは、直接目と目を合わせていたから、なんか恥ずかしかったけど、今はメニュー表越しだし、そうでもないので、俺は、レフィを見続けた。
「おまえ」
俺は、少し、悪戯をする気持ちで、そう答えた。
「ふーん……別にそう言う意味で聞いたんじゃないけど……まぁ、いいか、あんまりじろじろ見られると、ちょっと気持ち悪いからやめてほしいな……ま、まぁ、み、見ていたいなら、見ててもいいけど……わ、私だし……た、ただ、恥ずかしい……だけ……」
レフィが顔をよりメニュー表に近づけたせいで、ちょこっと見えていた顔が完全に見えなくなってしまったため、一体どういった表情をしているかは分からないけど、まぁ、きっと不機嫌そうな顔をしているんだろうな。最後の方とか震え越えで、かなり小っちゃい声で言っていてなんて言っているか聞き取れなかったし。まぁ、どうせ悪口だろうな。
レフィが嫌なら、わざわざ見る必要もないか。嫌がらせをしたいわけでもないし。
俺は、視線の向く先を変えて、この店のウエイトレスさんを見ていることにした。
一人、とても可愛い、俺好みの子を見つけたので、そっちの方を見ている事にした。
後でチップでも渡そうかな。それで、連絡先ゲットしちゃったり?
「はい」
不機嫌そうな顔で、レフィがメニュー表をこっちに差し出してきた。
「今、あんた、チップ渡そうかな、とかって考えていたでしょ」
「そ、そんなことないよ」
なぜばれたし。
「はぁ……嘘つかなくってもいいよ、分かるから、でも、無駄遣いは禁止だから、チップは駄目……まぁ、どうしてもっていうなら、私はあなたに文句言えないけど……」
今度は少し寂しそうな顔をして、そっぽを向きながら、レフィはそう呟く。
「ま、まぁ、そうだな、無駄遣いはしねぇよ……」
自ら提案した無駄遣いしない、という目標をいち早く破りそうだった俺は、顔を隠すようにメニュー表を開き、俺でも食べられそうなものを探す。
……メニュー数多いな……かなり……
食べられるかどうかは置いておくとして、物凄いメニュー数だ。これまた食べられるかどうかは置いておくとして、一体何回通ったら、メニュー制覇出来るんだろう。
まぁ、少なくとも、俺は何回雇用が無理だろうな。だって、ほとんど食べたくないし。
ということで、俺でも食べられそうなものをいくつか脳内にピックアップした。
『ソードバードの串焼き丼』
『ドラゴンのステーキ』
『キングバッファローのステーキ』
『破砕牙獣の鍋』
『煮込み窮鼠』
こんな感じだろうか。
ちなみに下に行くほど食べたくはない。
ドラゴンのステーキは、うん。ちょっと、ちょっとだけ悪い思い出がある。まぁ、食べたい食べたくないで言えば、比較的食べたい方なんだけど。まぁ、お値段も高いし。今回はやめておこう。
キングバッファローは、美味しいんだけど。なんというか、普通の牛肉だし。というか、高いし。高いだけで、味普通の牛肉だし。ここで食う必要は無いな。
破砕牙獣は、美味しいよ。まぁ、でも、これも普通に猪肉なんだよな。だから、キングバッファローと同じ理由でパス。
煮込み窮鼠。……なんで煮込んだ。窮鼠の味は悪くないんだけど、煮込みの三文字が怖すぎる。うん。煮込み料理は当たり外れが大きく分かれるからな。
ということで、無難にソードバードの串焼き丼を食べることにした。
ソードバードは普通に旨いからな。それに、この中では、値段もそれなりにリーズナブル。迷う余地なし。
「メニューは決まった?」
「ああ」
俺の視線がメニュー表から離れたのを見てレフィがそう尋ねてきたので、首を縦に振った。
「注文いいですか?」
注文をするため、通りかかったウエイターを呼び止める。
「はい、ご注文お伺いします」
「ソードバードの串焼き丼を一つ」
「ソードバードの串焼き丼を一つ」
俺の注文に対し、ウエイターさんがそれを繰り返す。
俺の注文はこれで終わりなので、手をレフィの方に差し向ける。
「私は、リザードマンのテールスープと、レジェンドスカイモスの幼虫の素揚げ、スライム茶漬けを一つずつ。以上で」
な、なんだ、そのゲテモノ臭漂うチョイスはっ!?
「ご注文繰り返させていただきます、ソードバードの串焼き丼がお一つ、リザードマンのテールスープがお一つ、レジェンドスカイモスの幼虫の素揚げがお一つ、スライム茶漬けがお一つ、以上でよろしいでしょうか」
メニューが異常でよろしくありません。せめて出来るだけ普通のを頼んでください。レフィさん。
テールスープは百歩譲っていいとして、幼虫の素揚げとスライム茶漬けって何?
ああ、想像したくないんですけど。
「はい、以上で」
俺が、なんか文句を言う前に、レフィは注文の確定をした。
「お、おいおい、そんなに食えるのか?」
「もちろん、これくらい食べれて当然よ」
「お、おう、ならいいけど……」
うーん、レフィに対して強く当たれないな、俺。だって、こいつの笑顔、なんか壊したくないんだもん。笑顔で言われるとな。ついつい、なんでも認めちゃいそうだ。
逆に、笑顔じゃない時も、笑顔にするために、なんでも許しちゃいそうだな。結果、俺は、こいつに弱いんだろうな。
その後、ソードバードの串焼き丼が運ばれて来たのだが、レフィの料理がグロテスクだったので、食べてて美味しくなかった……えっと、まぁ、いっか。レフィは満足そうだし。
ご飯を食べ終えた俺たちは、生活必需品を買い溜めするために、再び街に出た。
今までは、買い溜めなどせず、欲しい物を欲しいときに買っていたが。なんせ浪費癖の強い俺達だ。買い物に出たら、どうせまたいらない物を買うだろう。だから、極力金は持ち歩かない。小切手は論外。そして、買い物自体控える。そうすることで、節約を図ろうとしていたのだ。
だから、買い溜めである。
買い溜めをして、これから出かける時に持ち歩くお金は少しだけにする。昨日の会議で決まったことである。
その買い溜めをするために、今日は二人して街に出て来たのだ。
だが、買い溜めは結局出来なかった。
別に途中で遊んだり、無駄な物を買ってお金が無くなったからではない。いくら、浪費癖が強い俺達でも、そこまでではない。
買い溜めが出来なかった理由。
それは、大型スーパーに向かう途中、俺達は、ある人物に出会ってしまったからだ。
できれば、次話は早めに更新するかもしれません。
大型スーパーは皆さんが思っているアレとは若干違ったりしますが、あえて触れません。
食品サンプルは、実際の料理の3D映像みたいなのを魔法術式で映し出しているだけです。
そうそう後は余談ですが、今回の料理のスライム茶漬けなのですが、この世界のスライムは加熱すると半液体状から、完全に液状化するんです。もちろんその状態では死滅しているので襲われる心配はありません。そして、その液状化したスライムをお茶漬けの水分として使うと、スライム茶漬けの完成です。
気持ち悪いですね。
レジェンドスカイモスの幼虫は全長12㎝太さ7㎝くらいの幼虫を想像していただければ結構です。
他の料理はまぁ、見た目は結構普通なので、ご想像にお任せします。
20150316
レフィの態度を変更しました。
あと、七話のあとがきを、こっちに持ってきました。
それと、レジェンドスカイモスの幼虫の唐揚げ → 〃の素揚げ に微妙に変わっております。なお、物語には関係してこないと思われますが、一応。
それと、ドラゴンのステーキに関しては、曹駛さんから、少しコメントが入りました。