56話・そう、お仕事。
ものっそい短くてすいません。これも全部、電灯ってやつの仕業なんだ。
―武元曹駛―
ライセンス取得。やったね。
ということで、俺は受け付けのお姉さんから傭兵証明書を受け取った。まぁ、免許みたいなものだ。ちなみに、奇遇ではあるが、この受付のお姉さんは、一昨日書類をピラピラさせていた例のお姉さんである。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「せっかくですし何か依頼を受けて行かれませんか」
「そうですね、どんなのがあるのですか?」
「ええ、おすすめはこちらになっていますが、他にも掲示板の方にいくつか貼ってありますので、そちらの方もご覧ください」
と言いつつ、数枚、依頼内容が記された紙を差し出してきた。
えーと、どれどれ……。
『ソードバードの大量討伐 20体~』
一体につき80ギジェお支払いしますが、必ず20体以上は討伐してください。討伐後、ソードバードの死骸はどうぞご自由に。ただし、必要のない方は一体10ギジェで買取しますので、どうぞお売りください。
『中型ドラゴン(タイラント型)の討伐、もしくは撃退』
タイラント型のドラゴンが東の森に降りてくるのを見ました。森の中を見てきてください。そして、ドラゴンを発見した場合、ぜひとも倒してください。
見つからなかった場合も300ギジェお支払いします。撃退、もしくは討伐をしていただけた方には2000ギジェをお支払いいたします。
『シールドフライの撃滅』
シールドフライが大量発生したので、駆除してください。400ギジェお支払いいたします。
駆除しきれなかった場合でも、駆除の進行度合いによって少しばかしではありますが、報酬をお支払いいたします。
『盗賊団を壊滅させてください』
町はずれの廃墟を、盗賊が住み着き始めています。どうか壊滅してください。
報酬は2500ギジェお支払いします。どんどんと盗賊団は成長しているようなので、壊滅時の規模によっては報酬を追加で星払いします。
『暗殺依頼』
十月の五日、深夜二時、既定の場所で待つ。
なお、既定の場所依頼の受託を確定してから渡してもらうようにセンターの職員に言ってある。先着一名。集合場所は内密で。もしも漏らした場合、どんな不幸が降りかかろうとも、一切の責任を負いません。
「こんな感じなんですけどどうでしょうか~?」
「どうでしょうかって……」
いや、最初のソードバード狩りはまあいいとして、タイラント型のドラゴンとかシールドフライ大量発生とか、盗賊団の壊滅とか個人でやるもんじゃないだろう。それと、最後のは何だ。すごく怪しいし、なんか受けたやつも殺されそう。なんでそんなもん勧めるんだよ。
「いかがなさいますか」
と、言いつつも、暗殺依頼の紙をずずいとこちらに向けて押し出してくる。
なんですか? 受けろと。
「で、ぜひ受けてくれますよね」
「なんですか? 強制なんですか?」
「いえ、そんなことはないですよ」
そうだよな。そうであるはず。
傭兵センターは依頼の強制はしないはず。そう、しないはず。
「でも……」
今度は、自分が乗り出して、俺の耳元に口を寄せてきた。
そして、甘ったるい声でこう囁いた。
「受けてくれるなら、私がいいことしてあげる」
俺の思考は、そこでピタリと止まった。
受付のお姉さんは、そんな俺から、「ふふっ」と笑いながら、離れて行き先ほどと同じ表情を営業スマイルに戻した。
さ、さっきのは一体。
「ですから、どうでしょう?」
と、何事もなかったかのように言う。
いや、だから、さっきのは……。
「あ、信じてませんね」
と、営業モードで言う。
そして、周りをキョロキョロと見渡してから。
ちゅっ……と俺の頬に柔らかい感触が……。
「続きは、依頼が完了してからね」
「は、はい」
なにが「はい」だ。ふざけんな俺。
そんな心とは逆に、身体は勝手に動いて行き、依頼を受けてしまった。
五件とも、全て。
俺は、馬鹿だな。くっそ、身体が言う事を聞かない。これが女性の持つ魅力なのだろうか。
「では、まずは、時間の指定がある暗殺の依頼の方から処理をしていく形でお願いいたします」
「は、はい」
「では、こちらが集合場所となっております」
「はい」
俺は、後悔しながらも、その後のご褒美を期待しつつ、家に帰ることにした。
とりあえずは、睡眠だ。集合は明日の二時、場所は木尾の家からそこそこ離れているし、木尾の晩飯を作って寝るとするか。
帰りに肉と野菜を購入して、麻理直伝の冷めても美味しい野菜炒めを作ってから、『寝るから、起こすな』という書置きを残し、俺は、夢の世界に旅立った。
部屋の電気がぶっ壊れて、色々やることが出来て、短いものになってしまった。




