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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第四章・俺、ですか?
50/203

49話・過去、ですか。

 ―武元曹駛―


「やれやれ」


 そう、ぼそり。

 ああ、俺はきっと誰かに話したくて、話したくて仕方なかったんだと思う。

 俺の過去の全てを知るのは、俺と、あとは麻理くらいだろうか。

 もちろん、この場で全部を話すつもりはないが、自分の過去を話す度、何かから解放される気がするんだ。

 それが正しいかどうかは別として、人間正しさだけで生きて行けるほど、強くはないさ。

 まぁ、このメンツならある程度話しても大丈夫だろ。


「なぁ、盗聴などの可能性は?」

「そこまで大事な話なのか?」

「ああ、正直な所、あまり話していいものでもないだろう。個人的な思考も含まれるが、姫様の一件と同じくらいには、広めていいものではない」

「それは、お前の恥ずかしさからか?」

「そんな訳が無い」


 そうだ、話したい。けど、話してはいけない。

 そう思い続けて、この過去を隠し続けて、公の場を避け続けてきた理由も、また、俺の過去にある。


「他言無用だ」

「うむ」

「お前らもだ」


 周りの精霊たちも、俺の言葉にうなずく。

 これからは、思い出話だ。

 思い出したくはない。罪の意識にまみれ、埋もれ、恨み辛みの募る、俺の過去の話だ。




 遠征だった。簡単な、遠征。

 内容は、他国の内情調査。まぁ、国があれば。

 それは、実は出来ればとやってこいというものであって、メインとしては、南方に続く陸地の先に何があるのか、というものであり、内情調査のほうは、国が有ったら、そこの軍事力と政治の方針をみて、国同士の関係をどう言った物にするか決めるというものであった。

 俺達は、山を越え、川を渡り、またしても山を越えた先に、国を見つけた。

 山に囲まれた国である。

 その国は、温和であった。環境的にも、内情的にも。

軍事力はほぼない。自衛がぎりぎり出来るかどうかという程度だ。

なぜ、この国がそこまで軍事力に力を入れていないかといえば、その理由はその場にいればすぐにわかるほど、簡単な事だ。

 その国の周りに、他の国は無い。それに、その付近では、驚くモンスターが出ない。全くといってもいいほど。出るとしても、空を飛ぶ鳥型や、武器を持てば誰でも倒せるような雑魚しかいない。なぜなのか、その時点では、まったく分からなかったが、結果的に言えば、それを分からなかったから調査して知ろうとしたことが、壊滅の理由だ。

 悪い。悪かったと思っている。



 と、ここまで話したところで。

 透が口を開く。


「謝るな」

「謝るさ」


 透は、謝るなと言うが、そういうわけにもいかないだろう。結果的に、一番苦労したのは透かもしれない。

 一人、国に帰ってきて、俺達の事をなんと説明したのだろう。

 第19期兵団が、壊滅。国からしたら有り得ないことだろう。

 なぜなら、19期の兵団はフォルド王国史上最強の兵団のはずだったからだ。金もかけたし、腕の立つ傭兵をスカウトもした。そして、予備兵や、候補兵からも、強い者だけが引き抜かれた。

 それが、たったの一回、一回だけ遠征した。そして、壊滅した。

 何があったかなど、誰も想像が出来ないだろう。

 それは透も同じだろう。だから、俺に尋ねてきている。


「そこまでは分かる、忘れてはいない、儂も一緒に居たからな」

「ああ、そうだな、分かっている。お前が気になるのはここから先の事だろう」

「ああ」


そう、ここから先の話こそが、第19期兵団壊滅のエピソードの本編である。




 俺たちは、その後、モンスターの少なさなどの理由などを聞いて回った。もしかしたら、モンスター除けのいい方法があるのかと思っていたからだ。その方法があるなら、国の安全面が強化されるからな。

 だが、聞けども、聞けども、返答は分からないという一言ばかりであった。

 そんな返答の中、一人の老人が気になることを言った。


『北の洞窟には竜が住んでいると』


 それは、俺達を動かした。

 恐らく、その竜がいるから周りにモンスターが寄ってこないのだろうと。ただ、その竜が人を襲わないのも疑問に思った。

 なので、その洞窟を調査することにした。もちろん、その時、竜の機嫌を損ねて戦いになったら、荷物を持ったまま、戦うのは無理だろうということで、武器以外の物はその国の町に置いて行くことにした。そして、その荷物番をしていたのが、透というわけだ。

 その日、透は幸か不幸か、体調があまり良くなかった。だから、荷物番をして。一人助かった。いや、この表現は有っているのかどうか分からない。

 俺たちは、その北の洞窟を目指し歩いた。

 その途中、深い霧の中に入った時である。


『立ち去れ、死にたくないのなら』


 と、声が聞こえた。

 空気は振動していない。

 テレパシーのような物だったのだろう。そして、その声は、全員に聞こえていた。

 それでも、俺達は去ろうとはしなかった。すると、またしても声が頭の中に響いた。


『去らぬか、ならば、試練を受ける者か?』


 試練。

 それが何か分からなかった。その試練が何かを気にしていると、まるでこちらの心を読んだかのように、三度声が響く。


『命を懸け、力を望む者達で間違いないな』


詰まる所、試練を乗り切れば何か力が与えられる。それが、そのたった数秒の一方的なメッセージから読み取ることが出来た。きっと、そのテレパシーに乗せられていたのは、言葉だけでは無かったのだろう。だから、理解できた。


 それで、俺達は、皆で深い白い霧の中、見えにくくなった顔を見合って、頷いた。

 それからである、霧がより深く深く白く白く。

 何も見えなくなった。

 そして、また、その霧は元の濃さに戻る。

 一人、消えていた。

 そして、数分後。また霧は濃くなり。元に戻る頃、一人消えている。

 そうして4人ほど消えたあたりで、誰かが提案した。もしかしたら、俺だったかもしれない。ただ、その記憶は定かではない。そもそも、その時、誰がいたのかもよく覚えていない。恐らく、その理由は、あの霧の所為だろう。あの霧の中にいたメンバーの顔と名前だけが、俺の記憶からすっぽり抜け落ちていたのだ。兵士の後輩、先輩、そして、街に残った透の顔も名前もしっかり記憶しているのがその証拠だ。

 そう、話を戻そう。

 その誰かがした提案とは、手をつなぎ、輪になろうという、極々普通で、かなり効果的な物であった。

 ただ、その意味は無かった。

 輪になったのがいけなかったのかもしれない。

 霧が濃くなって、その霧が、元の濃さに戻った時。またしても一人消えていた。もちろん誰一人として手は離してない。だが、一人分、詰められていた。消えたその両隣のやつらが何故か手をつなぎ合っている。そいつらも、手を離してはいないと言う。

 そして、また一人、一人と、消えていく。そして、気づいたら、俺一人になっていた。

 次は、確実に俺だ。

 そう思わざるを得なかった。その時、俺には死の恐怖があった。もう、俺には無い感情だ。今思い出そうとしても無理な感情だ。いまや、過去の恐怖が渇望とまでなっている。人は何があるか分からない。

 誰一人として、消えた者が返って来ることは無かった。

 そして、俺は、最後の深い霧に包まれた。無意識の内に目を瞑ってしまった。

 数十秒。じっとしているが、何も感じない。痛みも、恐怖も。

 俺は、余りにも何も感じないがために、おもむろに目を開けた。

 すると、俺は岩に囲まれていた。いわゆる洞窟だ。

 そして、その目の前には、大きな銀色のドラゴンがいた。つまり、ここが竜の住む洞窟と言う事だろう。

 だが、俺は分からなかった。なぜ、俺がそこに居るのか。

 そこで、俺は、その竜が助けてくれたのではと、思ったが。……それは違った。むしろ逆だ。

 なんで、俺の希望的観測は全て逆の方向に転ぶのか。

 そんなことまで思った。

 竜の口が開かれたとき、頭にまたあの声が響いたのだ。

 だから、分かった。こいつが試練を与える者であることと、俺が試練を受ける者という立場から抜け出せていないことが。


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