43話・え、大丈夫だよ。
―武元曹駛―
身体に激痛を感じ始めてからどれくらい経ったのだろう。
やっと動ける程度には治った。正確には見かけ上治った。外見では全く分からないけど、体の内部は結構酷いことになってたりする。
激☆痛……物凄く痛い。
まぁ、動ければ、大丈夫だろう。
「なぁ、テンチェリィ」
「なんですか? 目覚めて突然。私になにか用ですか?」
「まぁ」
「で、なんですか? 脱ぎましょうか?」
何を?
じゃなくて。
「いや、脱がなくていい」
だぼだぼのTシャツに手をかけていたテンチェリィを止める。
「そうじゃなくて、麻理とレフィは何処にいるんだ?」
「知りません。私も起きたらお兄ちゃん以外いないので、びっくりしました」
起きたって……寝てたのか。
それにしても、お兄ちゃん……ねぇ……最初から違和感は感じてたけど、この家でそう呼ばれると、なんかなぁ……。
だから、そうじゃなくて。
「いや、だから脱がなくていい」
気付けば、テンチェリィがまたしても、みずからのTシャツに手をかけていたので、またしてもそれを止める。というか、なぜ脱ごうとする。
「で、レフィも麻理も帰ってきていないんだな」
「はい」
うーん……あ、なるほど。少し心当たりが。
あれはちょっとな。まぁ、大丈夫とはあるけど、麻理はああ見えて結構抜けている所あるし、もしかしてな……。
って、だから、そうじゃないってば。
「テンチェリィ……脱ぐな」
「なんでです」
「いや、こっちの台詞だ」
「寝起きエッ「あーあー、聞こえません、曹駛は何も聞こえませーん、そんなこと言っちゃいけませーん」……」
なんか、その単語の続きを言わせたら、俺達の物語が終わりそうな気がしたので、理由は分からないけど、そんな気がしたので、少々強引だが阻止させてもらった。
「その、テンチェリィ、ここで少し待って居てくれ、ちょっとショッキングな光景だと思うから」
「?」
「まぁ、なんだ、すぐ戻ってくる」
「わかったです?」
分かってなさそう。
まぁ、でもそんなテンチェリィはこのロビーに置いて、風呂場に向かう。
麻理が、死ぬなら、きっと風呂場。というか、昔から風呂場だった。とても合理的なやつだこと。
すたすたと浴室に向かう。まぁ、軽く大浴場だ。麻理は金持ちだからな。
ガララッ……
「よーす」
そう言って、浴室に入ってみれば、そこには、瞳に涙を溜めた、血みどろのレフィ。そして、麻理の死体がいた。
死体がいたという表現もなかなかにおかしいのだが。
あーあ、やっぱ、麻理のやつ、レフィに中途半端に説明して死にやがったな。
「そ、その、そ、そうしぃ……」
「いや、大丈夫、生き返る」
「………」
雰囲気ぶち壊しの一言。
まぁ、こんなしみったれた空気は嫌いなんでな。そもそも、空気は軽いべきだ。常に。
重い空気とか、誰が得するんだよ。物凄い嫌だよ。
「ほ、ほんと……?」
「うん、ごめん。うちの妹の説明不足でかなり余計な心配をかけた。ほんとごめん」
「よ……よかったぁ……」
ああ、泣き始めちゃった。
「さて、ちょっと待ってろ」
俺は、まず、レフィに抱きかかえられている麻理の死体をお姫様抱っこで、シャワーの元まで運ぶ。
「ジャバ―」
と、口で効果音を出しながら、シャワーで付着している血を流した。
それにしても、成長してないな。
「これで、よし」
洗い終わった死体を再び、抱っこ。
そして、麻理の部屋まで運ぼうとした所、レフィに呼び止められる。
「ねぇ、本当に大丈夫なの?」
「ああ、良く見ろ、傷一つないだろ」
「あれ? 本当だ、胸の穴が……」
「ああ、あと、腕見てみ」
「え? あれ? いつの間に?」
麻理の無傷な死体は、ベッドに寝かせておいた。
そして、テンチェリィがまた寝ていたので、起こして、脱衣所に連れて行った。
「ほら、脱げ」
「え……ろ、ろりこん……」
「違うよ、違うから、脱ごうね」
ああ、なんだこの台詞。
ああ、今回はそれでいいはずなのに。
「いや、なんでさっきまで脱ぎたがっていたのに、今になって急に嫌になったんだ?」
「その、いざ本当に脱がせられそーになると、ちょっと……こえーです」
仕方ないので、テンチェリィのダボダボのTシャツを引っぺがした。
「……そ、その、初めてなので、優しく」
「いやいや、何の話をしているかは触れないけど、テンチェリィ、お前は勘違いしている」
「もしかして、いつの間にか初めてじゃなくなってるっ!?」
「ちげーよっ!! まず、そっから離れろっ!!」
ああ、この子、たまに俺たちの物語を崩壊させに来るよね。
「まぁ、それは、置いておいて、風呂だ、風呂。俺達、何日まともに風呂入ってないと思っているんだ?」
「そう言われてみればそうですが、お風呂自体、今まで、あまり入っていなかったので……入るようになったのも、お兄ちゃんのところに行ってからですし」
「うーん、やっぱりそういうものなのかな」
それにしても、やっぱ、お兄ちゃんと呼ばれるのは、違和感が凄まじいな。慣れるしかないのか。
「さて、風呂に入ろう」
「あ、脱ぐんですか?」
「いや、脱がずにどうやって入るんだよ」
「そもそも、一緒に入るんですか?」
「いいだろ、別に」
「まぁ、私はお兄ちゃんの物なので、あまり強く文句が言えませんけど」
「そうか?」
結構言われてる気がする。
俺、主人に向かないんじゃない?
「あ、そういうこと……なんですね……」
「なんだ?」
テンチェリィが、何かを思いついたようなので聞くだけ聞いてみる。
「その、石鹸を潤滑油代わりにエッ「聞っこえまっせーんっ!!!!!!」
怖い。何この子。怖い。
「まぁ、その、じゃあ、入ろうか」
「え、ええ」
テンチェリィが、先ほどから俺の事をチラ見してくるのは気のせいだろう。
ガララッ
「よーす」
そう言いつつ入る。
「な、な、なんで、あんたたち裸なのよ」
「いや、ここお風呂だし」
「で、でも」
「そう言うお前だって、裸で浸かってるじゃん」
「まぁ……そうだけど」
レフィがお風呂に入っていることは、脱衣所にあった血みどろの服で分かった。
まぁ、先に入っていなかったとしても、一緒に入ろうぜとかなんとか言って風呂に入れるつもりではあったけど。
「とりあえず、混浴だ」
「いや、まってよ」
「そうですね、待ってください」
俺の混浴という発言に対し、テンチェリィとレフィが反論。ほら、普通に文句言ってきた。
「べつにいいじゃん」
「良くないわよ」
なんでだよ、別に減るもんでもないだろ。
「テンチェリィも、そう思うよな」
なんとなく、テンチェリィに振ってみる。
「いえ、その、初めてなので、二人きりで……」
ああ、そうじゃないって。
もういいや。
「さてと、お風呂に入る……か?」
「ねぇ、どういうこと?」
あ、死んだ。
レフィから黒いオーラが……。
あ、そうか、テンチェリィの言葉を否定せずにスルーしたからこうなったのか。
レフィの手には白い大型ナイフが……ああ、あれ、俺の骨で作られた奴だ。麻理のやつ、まだ持っていてくれたのか。
たしか、この家を出て行くとき、俺の骨製の物を大量にプレゼントしたんだよなぁ……。というか、プレゼントさせられた。まぁ、あの時は俺もおかしかったんだ。そもそも自分の骨でできた物を大量にプレゼントするって、頭おかしいよな。それを欲しがる麻理も麻理だけどさ……。
「で、そのナイフ下げてくれない」
「うんっ」
元気な一声。
振り下ろされる手。
グサリッ☆
痛いっ☆
「いや、下げてって言ったけど、その速度で振り下ろしてとは言ってない」
「そう?」
「うん」
最後の言葉は、「うん」だった。
俺は、俺の骨に貫かれそのまま死亡。わーお。
まぁ、最後にレフィの裸をじっくり見られたし、良しとしよう。いや、俺もだんだん度胸が付いてきたなー……なんて考えてたら、頭を潰されました。
いや、テンチェリィもいるんだから、控えてほしいんだけどなぁ……と思ったけど、気づいたらテンチェリィはすでに風呂に入っていたし、そこからは死角になっていてここは見えない。
安心。
じゃない。
俺は、こいつらに愛されているのかいないのか分からないなぁ……。




