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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第四章・俺、ですか?
41/203

41話・はい、着きました。

 ―レフィ=パーバド―


 日は沈み、もう既に夜である。

 荷物の大半であった食料のほとんどを姫様達と一緒に送ったので、先ほどと比べて、随分とスッキリしている。

 突如、光りが現れる。


「よし、姫様達送り届けてきた」


 汗をドクドクと流しながら、曹駛がテレポートで帰って来たのだ。


「次は、お前たちを送る」


 やっぱり汗を流しながら、そう言った。


「よし、集まれ、俺の付近に集まれ」

「はいはい」


 あらかじめまとめておいた荷物を持ち、曹駛に近づく。ちょっと汗臭い。


「じゃあ、飛ぶぞ」


 世界が光り始める。

 そして、一度完全な白の世界を迎える。

 その白の世界が崩れた時に、現れた世界は、湿気の籠った、湯気の世界と全裸の少女だった。

 見た目からすると、姫様と同じくらいの歳だろうか。

 で、一つ疑問。

 この状況は非常に不味いのではと。


「その、どなたですか?」


 感情も何も感じられない平坦な声でそう言葉が飛んできた。


「ああ、俺だ」


 それに対し、曹駛がそう答えた。

 

「そうですか、変態さん」

「いや、変態じゃない」

「いえ、変態です」


 変態だと言い張る少女に対し、変態じゃないと言い張る曹駛。

 だが、この状況では、どう考えでも曹駛が変態である。

 むしろ、逮捕待った無しの状況。

 曹駛が疲労で息を荒くしているのが、犯罪臭をより濃くしている。


「いやいや、違う、そうじゃないだろ」

「いえ、そうです、あなたは変態なのです」


 まだ、言い合いは続いていた。

 よく見れば、ここはお風呂だ。それも、かなり広い。まるでどこかの銭湯のようだ。

 それにしても、とても可愛らしい少女である。曹駛の親戚か何かだろうか。全く似ていないけど、ここにいると言う事は、きっと曹駛の親族だとは思う。けど、もしも、個々がもう既に、曹駛の家族の家ではなくなっていて、別の人が住んでいるとかだったら、私たちは間違いなく逮捕である。

 そうでない事を祈ろう。


「いや、聞き分けないな、俺は変態じゃないと昔から言っているだろう」

「そんなことはありません、いい加減にお気づきください……グルックお兄様」


 ん?

 お兄様?

 家族?

 もしかして……


「そちらの方は、変態お兄様に買われた可愛そうな奴隷さんたちですか?」


 不意に少女がこちらを向いてそう言ってきた。


「お兄様に酷い事をされていませんか? 本当に申し訳ありません、レフィさん、テンチェリィさん。(わたくし)はあの変態の妹のメアリー・フィンと申します。これから数日よろしくお願いしますね」


 やっぱり。曹駛の妹さんだった。

 名前はメアリーさんと言うらしい。

 セカンドネームも何もあっていないが、本当に兄妹なのだろうか。顔立ちもほとんど似ていないし、見た目から判断するに歳もかなり離れているはずだ。


「ああ、そうそう、その名前をそのまま受け取るなよ、そいつの名前は……」


 と言った所で、メアリーさんが走り出し、両手で曹駛の口を塞いだ。

 そして、ここは風呂場なので、足を滑らせてそのまま、壁へ、床へ、かなりの速度で突っ込んだ。


「いってぇ……」

「い、痛い……」


 二人とも涙目。

 思いっ切り頭を強打したようだ。


「あ、今がチャンス」


 曹駛がそう口にし、立ち上がる。


「紹介しよう、こいつは、俺の妹で、武元(むげん)麻理(まり)だ、さっきのメアリー・フィンというのは、俺と違って、偽名でも何でもなく、流行に乗りたいと言う理由で使っているだけで、なんでもない」

「ああ……言ってしまいましたか……もういいです……」


 言葉遣いこそ、まだ綺麗であるが、どう見ても拗ねているように見える。


「なんで、その名前使いたがらないんだ」

「漢字の名前で、しかも、セカンドネームから始まる名前なんて時代遅れですわ、お兄様」

「いや、これはこれでいいだろ、奥行き深くて」

「絶対に適当に言っているだけでしょう」


 まぁ、うん。

 今回の言葉に関しては、多分、適当に言っているだけだろうと私も思う。


「それにしても、頭がまだヒリヒリしますわ」

「そうだな」


 メアリーさん改め、麻理さんは、頭を曹駛の方に向けている。


「ヒリヒリしますわ」

「そうだな……ああ、そういうことか」


 曹駛が何かに気付いたのか、麻理さんの頭を撫で始めた。


 なでなで。

 なでなで、

 なでなで……


 うん、こう見ると兄妹みたいだ。

 だけど、一つ違和感。

 まぁ、違和感を感じない方がおかしいよね。

 麻理さんは、全裸。お風呂に入っていたのだからそれ当たり前である。

 一方、曹駛が鎧を装備。場所は風呂。違和感満載。

 まぁ、麻理さんは全裸なのを気にしていないのか、それとも、兄と女の人には見せても恥ずかしくないだけなのか。


「その、曹駛、とりあえずここから出ない?」


 と、言ってみる。

 もちろん善意。

 早く荷物を片付けようとか、その辺の意味合いも込めて行ったつもりだったのだが。


「何故だ?」


 と、聞かれたので。


「いや、ここお風呂だし」


 って言ったら……


「あ……」


と、一言。麻理さんがそう呟いた。

 赤面。

顔が真っ赤である。


 パチンッ!!


そして、湿気の溜まったこのお風呂に、乾いた音が響いた。


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