41話・はい、着きました。
―レフィ=パーバド―
日は沈み、もう既に夜である。
荷物の大半であった食料のほとんどを姫様達と一緒に送ったので、先ほどと比べて、随分とスッキリしている。
突如、光りが現れる。
「よし、姫様達送り届けてきた」
汗をドクドクと流しながら、曹駛がテレポートで帰って来たのだ。
「次は、お前たちを送る」
やっぱり汗を流しながら、そう言った。
「よし、集まれ、俺の付近に集まれ」
「はいはい」
あらかじめまとめておいた荷物を持ち、曹駛に近づく。ちょっと汗臭い。
「じゃあ、飛ぶぞ」
世界が光り始める。
そして、一度完全な白の世界を迎える。
その白の世界が崩れた時に、現れた世界は、湿気の籠った、湯気の世界と全裸の少女だった。
見た目からすると、姫様と同じくらいの歳だろうか。
で、一つ疑問。
この状況は非常に不味いのではと。
「その、どなたですか?」
感情も何も感じられない平坦な声でそう言葉が飛んできた。
「ああ、俺だ」
それに対し、曹駛がそう答えた。
「そうですか、変態さん」
「いや、変態じゃない」
「いえ、変態です」
変態だと言い張る少女に対し、変態じゃないと言い張る曹駛。
だが、この状況では、どう考えでも曹駛が変態である。
むしろ、逮捕待った無しの状況。
曹駛が疲労で息を荒くしているのが、犯罪臭をより濃くしている。
「いやいや、違う、そうじゃないだろ」
「いえ、そうです、あなたは変態なのです」
まだ、言い合いは続いていた。
よく見れば、ここはお風呂だ。それも、かなり広い。まるでどこかの銭湯のようだ。
それにしても、とても可愛らしい少女である。曹駛の親戚か何かだろうか。全く似ていないけど、ここにいると言う事は、きっと曹駛の親族だとは思う。けど、もしも、個々がもう既に、曹駛の家族の家ではなくなっていて、別の人が住んでいるとかだったら、私たちは間違いなく逮捕である。
そうでない事を祈ろう。
「いや、聞き分けないな、俺は変態じゃないと昔から言っているだろう」
「そんなことはありません、いい加減にお気づきください……グルックお兄様」
ん?
お兄様?
家族?
もしかして……
「そちらの方は、変態お兄様に買われた可愛そうな奴隷さんたちですか?」
不意に少女がこちらを向いてそう言ってきた。
「お兄様に酷い事をされていませんか? 本当に申し訳ありません、レフィさん、テンチェリィさん。私はあの変態の妹のメアリー・フィンと申します。これから数日よろしくお願いしますね」
やっぱり。曹駛の妹さんだった。
名前はメアリーさんと言うらしい。
セカンドネームも何もあっていないが、本当に兄妹なのだろうか。顔立ちもほとんど似ていないし、見た目から判断するに歳もかなり離れているはずだ。
「ああ、そうそう、その名前をそのまま受け取るなよ、そいつの名前は……」
と言った所で、メアリーさんが走り出し、両手で曹駛の口を塞いだ。
そして、ここは風呂場なので、足を滑らせてそのまま、壁へ、床へ、かなりの速度で突っ込んだ。
「いってぇ……」
「い、痛い……」
二人とも涙目。
思いっ切り頭を強打したようだ。
「あ、今がチャンス」
曹駛がそう口にし、立ち上がる。
「紹介しよう、こいつは、俺の妹で、武元麻理だ、さっきのメアリー・フィンというのは、俺と違って、偽名でも何でもなく、流行に乗りたいと言う理由で使っているだけで、なんでもない」
「ああ……言ってしまいましたか……もういいです……」
言葉遣いこそ、まだ綺麗であるが、どう見ても拗ねているように見える。
「なんで、その名前使いたがらないんだ」
「漢字の名前で、しかも、セカンドネームから始まる名前なんて時代遅れですわ、お兄様」
「いや、これはこれでいいだろ、奥行き深くて」
「絶対に適当に言っているだけでしょう」
まぁ、うん。
今回の言葉に関しては、多分、適当に言っているだけだろうと私も思う。
「それにしても、頭がまだヒリヒリしますわ」
「そうだな」
メアリーさん改め、麻理さんは、頭を曹駛の方に向けている。
「ヒリヒリしますわ」
「そうだな……ああ、そういうことか」
曹駛が何かに気付いたのか、麻理さんの頭を撫で始めた。
なでなで。
なでなで、
なでなで……
うん、こう見ると兄妹みたいだ。
だけど、一つ違和感。
まぁ、違和感を感じない方がおかしいよね。
麻理さんは、全裸。お風呂に入っていたのだからそれ当たり前である。
一方、曹駛が鎧を装備。場所は風呂。違和感満載。
まぁ、麻理さんは全裸なのを気にしていないのか、それとも、兄と女の人には見せても恥ずかしくないだけなのか。
「その、曹駛、とりあえずここから出ない?」
と、言ってみる。
もちろん善意。
早く荷物を片付けようとか、その辺の意味合いも込めて行ったつもりだったのだが。
「何故だ?」
と、聞かれたので。
「いや、ここお風呂だし」
って言ったら……
「あ……」
と、一言。麻理さんがそう呟いた。
赤面。
顔が真っ赤である。
パチンッ!!
そして、湿気の溜まったこのお風呂に、乾いた音が響いた。




