40話・よし、帰ります。
―武元曹駛―
「みんな、帰るぞ」
無人島生活を一週間した頃の朝。
俺は、4人分の寝起きの顔を眺めながら、そう言った。
「今、大体一週間くらいよね、そんな早くてもいいの?」
「ああ、十分だ」
一週間、追っ手が来ることは無かった事から、きっと、相手は俺達の居場所を突き止められてはいないことが分かる。
行方不明扱いをされている可能性が高いだろう。
だからこそ、今、帰るのだ。
流石にそろそろ、ここに潜伏していることがばれてもおかしくは無い頃だと思う。
灯台下暗し。今こそ、都市に戻る。
もちろん、まだ姫様を城に帰すつもりもない。サキもまた然り。
二人には、どこかに潜伏してもらう。その際、サキには姫様の護衛として、隣にいてもらう。
そして、レフィとテンチェリィには、俺の家族の家に行ってもらう。
俺は、その間、やる事が有るので、古い知り合いに会いにいく。
「さてと、みんな荷物をまとめてくれ」
いやー荷物がものすごい大量。
超大量。
そして、その大半は食料。
理由はご想像通り。俺とサキがちょっとやりすぎた。
でも、獲ったものは仕方ないから、持ち帰ることにしたのだ。
とりあえず、俺が氷系統の魔法を使って冷凍保存。それと、この一週間で新しく作った、熱保存の魔法を使って自然解凍対策。
食べる際は、俺が触れるか、魔力を流せば、勝手に解凍してくれる。
それと、この食材は、潜伏にあたって、お金の面で買い物が難しくなるであろう姫様たちに渡す。
だが、姫様もサキも魔力を流すことは出来ない。
なので、白い棒を渡して置いた。
この白い棒が食材に触れれば、あら不思議、あっという間に解凍されます。
なんと、こちら、非売品で、今回これ一本限り。
とかなんというと、物凄いアイテム作ったな、とか、魔力流せるのか? とかと思われるかもしれないが、そんなことは無い。
実際は、俺の骨を圧縮して作っただけの、言うなれば、俺の骨だ。
まぁ、伝えてはいない。伝えれば引かれるかもしれないし、嫌な思いさせるかもしれないからな。
まぁ、最初は俺の指か腕でも切り落として、それを渡そうかとも思ったが、あまりにもえぐかったのでやめた。めちゃくちゃ見た目がひどいからな。食材に切り落とされた人体のパーツを当てるという、軽く猟奇的な光景が見える。
「よし、まず、帰った後のそれぞれの取るべき行動の説明をする」
俺が、作業中の皆に向けて話しかける。
「まずは、姫様とサキだ。最終的にはサキの家に送り届けるつもりだが、サキの家という事もあって流石に潜伏には向かない。サキはああ見えて、近衛隊の隊長だからな。住居くらい調べられてもおかしくない」
「では、どこで潜むと言うのだ」
「ああ、それについてだが、俺の別荘のようなところに送る。まぁ、ずっと行っていなかったから埃だらけかもしれないけど、きっと大丈夫だろう、あそこはかなり遠くの国だからな、流石にフォルド王国の手が届くことは無いだろう」
「そうか、了解した」
まぁ、あそこなら、きっと大丈夫だ。
実際、あの辺の探索という名目で、向かわせた兵団を一つ潰しているからな。潜伏しているのが分かったとしても、きっと何もしてこないだろう。
「そして、レフィとテンチェリィについてだ」
「私たちはあんたと一緒じゃ駄目なの?」
「駄目だ、危ないし、今度は俺が常に付いていられるわけではない、守ることができない」「じゃあ、どうするのよ」
「ああ、だから、俺の家族の家に送り届ける。ちなみに、俺の家族が住んでいる国は隣の隣だし、こっちも、まぁ、それなりには安全だと思う」
「そう……」
「ああ、大丈夫、別に奴隷扱いする奴じゃないし、そこは安心してもいい。あいつはある意味俺より優しいと思う。俺以外には……」
うん、あいつならきっと突然押しかけても受け入れてもらえるはずだ。きっと金取られるけど。
俺には優しくないけど、きっと、愛情の裏返しなんだ。きっと、そうなんだ……。
「まぁ、とりあえず、お前とテンチェリィには、そっちに向かってもらう」
「うん、分かった」
「で、お前はどうするのだ、曹駛」
サキが訪ねてくる。
「ああ、俺か、俺はな……まぁ、会いたいやつがいる」
「会いたいやつ……?」
「青石 透ってやつに会いに行く」
「誰だ? それは」
「お前と姫様は良く知っているはずだ」
「うん?」
「だれでしょう?」
姫様が尋ねてくる。
なので、分かりやすく、彼の二つ名を言う事にした。
「そうですね、老爀斎と言えば、分かるかも知れません」
「ろ、老爀斎様?」
「ご存じですね」
「は、はい、兵の指南役の」
「そうです、その老爀斎です」
「でも、なぜ?」
姫様がさらに質問を飛ばしてくる。その一方で、サキは、老爀斎の名を聞いて、何かに気付いたようだ。
「サキは、どうやら気づいたようですが、彼もまた、私と同じく、第19期の兵なのです。なので、知り合いと言うか、彼の立場を少しお借りしに行くのです」
そう、彼の立場なら、第二王女に干渉できる。少なくとも、一般人である俺よりは。
それに、彼に会う理由は有る。というより作った。
俺はつい先日、またしても兵士になった。もちろん、一時的ではあるが……。
だから、新入りの兵として、透に会いに行く。
ちなみに23期の兵をしていた時は、一度も顔を合わせていない。だから、本当に久しぶりに会いに行くことになる。
さてと、あいつはどれだけ老けたのかな。




