39話・兵士ですか、もちろんです。
飯テロは無いです、ご安心を。僕の表現力では不可能です。
―武元曹駛―
驚愕の視線は、俺とサキの後ろに向けられている。
そりゃ、びっくりもする、目の前には山のような食材があるのだ。
俺とサキだって、まさかこんなに獲れるとは思ってなかったし……。
獲ってきた本人がびっくりしているくらいなのだから、そりゃびっくりする。
「あんた、その……それ、どうしたの?」
「採ったり獲ったりした」
「まぁ、それはそうだろうけど、なに? この量」
レフィが、そう言うのもごもっともなのだが、獲ったものは仕方ない。
食べるほかないだろう。
と言う事で、料理をしよう。
幸い、建物の中には調理器具もあった。
「いやいや、調理の準備するのはいいけど、この量どうするつもりなのよ」
「食うけど」
「食べるって、この量を?」
「いや、命には感謝しないといけないだろ、たった一回の一生奪っているんだから」
たった一回の一生か。俺が言っていい言葉なんだかどうなんだが。
まぁ、俺の場合、本当に命を、一生を、寿命を奪っている訳になるのだから、言葉に重みが出るんじゃないかな。
「さて、料理だ、料理だ」
次々に料理を作っていく。
食材は、大量にある。
焼きとり(ソードバードの)、牡丹鍋(破砕牙獣の)、鼠の丸焼き(窮鼠の)。
鳥鍋、山菜スープ、海鮮汁、きのこスープ。
メタリックホークは、不思議なことに体が金属でできている鳥で、一見食べられないように思えるが、実は食べられるのだ。
まずは、そのまま火の中に放り込む、すると節々から肉汁が溢れ出してくる。
そう、この鳥、全身全てが金属で出来ているように見えるが、金属に覆われているだけで、中身は普通のお肉だったりする。
そして、そのお肉がまた絶品なのだ。
たまらなくジューシーで、蕩けそうなのに歯ごたえがある。それに、溢れ出てくる油はとてつもなく濃く、しつこい油なのに、食べていて飽きることは無く、いつまでも味わっていたいと思ってしまう。そんな不思議なお肉だ。一つ難点があるとすれば、大きさの割に食べられるところが少ない事だろうか。
ランススネークは、もっと食べるところが少ないのだが、こっちのお肉はさっぱりしている。そして、メタリックホーク以上に噛みごたえがある。そして噛めば噛むほど味が出る、まるでスルメようなお肉である。
こちらは、胴を抑え、首根っこを掴み、思いっ切り引き抜く。そうすると綺麗にお肉の部分だけ取り出せるのだ。
それを今回は、素材の味を引き出すために味付けは塩だけで、串焼きにした。
めちゃくちゃ美味しいのに、結構弱いし、全国どこでも生息しているのに、食べるところが少なすぎる所為か、あまり捕獲、調理する人がいない。
そういった面では、サバイバルならではの美味い物なのだろう。
それと、窮鼠はただのでかい鼠だ。一応モンスターだから、そこそこに戦闘能力はあるけど、多分普通の大型肉食獣より弱いと思う。まぁ、猫よりは強いけど。
で、一番困ったのが、ニセフェニックスモドキ。
どう調理したものか。
こいつ、まずニセでモドキでも、フェニックスという名を持つ理由は有って、こいつは常に燃えている。燃え続けている。もちろん不老でも不死でもないし、死ねば火は消えるのだが、それでもこいつの肉が熱を保ち続けている。
数字にすると、大体80度。それでも、生前燃えていたことを考えれば、かなり温度は下がっている方なのだが、常時燃えているのに火が通らないとなると、普通の火で焼くのは無理だし、煮る、蒸す、といった食べ方も無理だろう。
せいぜい考えられたとして、生か揚げるか。
でも80度だ、物凄くチマチマとしか食べられないだろう。
くっそ、俺はなんでこんなやつを打ち落としたんだ。
しかも、こいつかなり長寿なんだよな。100年位生きるんじゃないっけ?
さてと、どうやって調理しようかな。
あ、思い出した、確か、一つ食べる方法があったな。物凄く面倒くさいけど。
まず、ニセフェニックスモドキを細かく切り分ける。そして、俺は、手を突出し、魔力を溜める。
「氷結・ゼロケルビン」
絶対零度を、人工的に作り出す魔法。
いや、魔力消費が激しいね。寿命100年分くらいかな。
でも、ここまで温度を下げれば、流石のニセフェニックスモドキのお肉もカッチコッチに凍る。
そして……
「瞬間解凍」
自然解凍を待つのが面倒だったので、一瞬のうちに溶かす。
残ったのは冷えたお肉だけ。
なぜこんなことをやったかと聞かれて、冷やすためと答えれば、それは50点だ。
俺は記憶を漁って、こいつを食べるための手段を一つ思い出したのだ。もちろん実践したことはないので、保証は無かったが、やるだけやってみたのだ。
フェニックスっぽい奴などの肉は、冷凍させることに成功すれば、肉質が変化し普通に火が通るようになる。
どうやら、その話は本当のようだ。事実、今、串焼きにしているが、肉の色が変わってきている。
「なんか食ったら寿命増えそうで嫌だな」
ぼそりと一言。
まぁ、本心だ。
でも、見た目美味しそうだし、食ったことが無いし、なんか手間暇かけさせられたから食ってみたい気持ちが無いわけではない。
と、まぁ、料理は大体こんな感じだろうか。
レフィは、食べた事のないものが多いとか、なんとか言って一通り食べまわっていた。
まぁ、あいつ結構珍しい食べ物好む傾向があるからな。そのせいでゲテモノ食いになりつつあったが。
ニセフェニックスモドキの串焼きとかに関しては、名前出しただけで目を輝かせていたし。
でも、案の定、かなり余った。めちゃくちゃ余った。
みんな昼ごはん食べてないからお腹減っていたのもあっていっぱい食べたけど、それでもめっちゃ余った。
余ったはずだった。
けど、全部テンチェリィが満面の笑みで平らげた。
可愛かった。
助かった。
可愛かった。
そして、そんな晩餐会も終わりをつげ、皆が眠りについた頃。
俺と姫様はひっそりと、建物の外に抜け出していた。
「グルック様……では、無いのでございますよね」
「はい、我が名は武元曹駛でございます」
「そう、ですか」
「はい」
「その、一体、何の用がおありなのですか?」
確かに、姫様に建物から抜け出して、外に来るように言ったのは俺だ。
そして、その理由は、これからの俺の行動に深くかかわることだ。
「姫様は、確か先日、私に兵士に戻らないかという話をしていただきましたかと思います」
「はい」
「それを、もう一度私にしていただけないでしょうか」
「それは、どういう?」
「していただければ、すぐにわかります」
「そう、ですか」
一呼吸を置く。
深呼吸をする。
そして、姫様の口が開かれた。
「武元曹駛様、もう一度、我が国の兵になっていただけませんか?」
「はい、喜んで」
俺は、姫様のお手をとり、手の甲に口づけをした。
タイトルがネタバレ。
こんな時間の更新ですいません。
ニセフェニックスモドキは普通の鶏肉よりちょっとおいしいくらいであまり大差なかったらしいです。
曹駛さん曰く労力の割に合わない、とのこと。
しかし、実はあらゆる解毒作用に、疲労回復、その他諸々の健康作用があることに曹駛さんは気づいていない。まぁ、気づけない。
ちなみに、レフィさんは、珍しければそれでいいので、かなり味に補正が入り、かなり美味しいと言っておりました。




