38話・サバイバルですか、久しいです。
―武元曹駛―
俺は、今、先と共に、森の中にいる。
こうしていると、昔を思い出す。
「ふむ、こうしていると、昔を思い出すな、曹駛」
「まぁ、そうだな、あの時のお前は、グルックって呼んでたけどな」
「そうだな」
「あんときゃ、大人を呼び捨てにするって、生意気なガキだと思っていたよ」
身分が良かったのだろうか、それは分からないが、最初にサキを見た時、確か、汚れてボロボロであったが、それでも元が良いものだと思えるくらいの服装をしていた気がする。
「仕方ないだろう、あの時は、私もまだまだ右も左も分からぬ子供だったのだ」
「そうやって謝らないところとか、全然変わってないけどな」
「そうか?」
「ああ、実にお前らしいというか」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておく」
「そう言うところもな」
成長しても、中身は大して変わらないような気がする。
そんなサキを見ていると、どこか安心する。
俺のいる世界はまだ変わっていないと。
俺だけが変わらないこんな世界で、変わらないでいてくれる奴もいるって。
「私も、お前に追いついたのだな」
確かに、あの時はあんなに小さかったのに、もう俺と同じくらいになるのか。
まぁ、見た目だけの話だが。
「まぁ、そうなるな、中身は置いておくとして……」
「そうだ、中身は置いておくとしてだ、私は私を変えるつもりはない、お前の気持ちもだ……」
「また、告白か? やめておけ、振られるだけだ」
俺は、サキと付き合うつもりは更々ない。
なんというか、パートナーとして見れたとして、そう言う目では見れないからな。
どっちかというと、娘だ。彼女とか嫁ではない。
そして、良くて親友だろう。
決してそう言う関係には慣れないような気もする。
「そうか? 私は密かにお前の心変わりを期待しておるのだぞ」
「有り得なくはないけど、それを信じて待つお前は、やっぱり変わらず馬鹿だと思うぞ」
可能性だけで言えば、心変わりは有り得るかもしれないが、それでも、その有るかもしれないという僅かすぎる可能性を信じ、待ち続けるのは馬鹿だ。
こいつは、別に見た目もいいし、収入もいい。
それに、それなりの地位も持っているし、超優良物件だ。
なのに、その辺の実質無職の男を待ち続けるのはどう考えても馬鹿のやる事だ。
「馬鹿で結構、自分の気持ちも真っ直ぐに信じられないような奴よりはマシだ」
「そうか? じゃあ、俺は馬鹿じゃないし、お前は俺の事を本当は好きじゃないんじゃないのか?」
俺は、そこまで我を通すことは出来ない。
きっと諦めるさ。
自分の身の丈に合ったことをする。上へも下へも行かない。
同じ高さをずっと見ているだろう。
上を見るのはまだわかる。それは、向上心かもしれないし、羨望かもしれない。
それなのに、サキは、ずっと下を見ている。
下にいる俺を見ているんだ。
確かに、あの時こそ、俺の方が上にいたのかもしれない。
けど、今はもう違う。
それでも、サキは俺を見ていると言うのか。
それはもう、筋金入りの馬鹿だとしか言いようがない……。
「そんなことはない。お前は、私よりもがを通しているだろう?」
「そりゃ、気のせいだ、そんな訳が無い」
「まぁ、自分を自分で見ることは出来ないと言うしな、気付いていないのだろう」
と、サキ。
たしかに、自分の事は自分が一番知らないとも言うが、自分の事は自分が一番よく知っているとも言うし、そりゃない。
流石に、俺はそんな凄い奴ではない。もし、そんなに凄い奴なら、とっくにおおやけの場に顔だしているだろうさ、もちろん偽名など使わず、武元曹駛という名でな。
「まぁ、話はこのくらいにしておこうぜ、サキはサバイバル久しぶりだろ?」
「曹駛は久しぶりじゃないのか?」
「いや、俺も久しぶりだが、まぁ、そこはお互い様だ」
自分から言っておいて、その返しもどうかと思ったが、そこは気にしたら負けだ。
そう自分に言い聞かせて、小石を拾った。
そして、それを空に向かって投げた。
「よいしょ」
もちろん、魔法効果を付加させて。
小石は弾丸のように空に飛んで行って消えた。
そして、数秒後、身体の至る所が刃の大きな鳥が落ちてきた。
それが地面に追突する前に魔法で作った水球でキャッチする。
素手で受け止めると、簡単に指や腕が落ちるからな。
「はい、ソードバード捕獲」
「おお、流石だ、で、曹駛がそのポジションをすると言う事は、私は野草取をすればいいんだな」
「ああ、任せた」
その後、俺は空を飛ぶ鳥やモンスターを、サキは地に生えている野草を取り、時に地上のモンスターが現れれば、それを狩った。
そして、気づけば、日が沈みかけていた。
「大量だな……」
「そうだな……明らかに獲りすぎた」
リザルト:ソードバード×6、ニセフェニックスモドキ×1、メタリックホーク×2、なんかよく分からないけど大きめの鳥×2、中くらいの鳥×5、小さい鳥×8、破砕牙獣×3、窮鼠×8、ランススネーク×17、野草・俺の装備とサキの装備を合わせた体積くらい、きのこ・その辺の建物から拝借させてもらった背負うタイプの結構大きな籠が一杯になるくらい。
とまぁ、大量、大量。
というか、明らかに獲り過ぎ。食料過多だ。
さてと、どうしたものか。捨てる訳にもいかないし。なんだよ、パーティでも開くのかよ。
「まぁ、どうでもいいか」
「そうだな、食べればいい事だしな」
俺のどうでもいい発言に対し、相槌を打つサキ。
その適当な所は、きっと俺に似たのだろう。
さて、持って帰るの面倒くさいな、仕方ない、アレをしよう。
「サキ、ちょっと、食材まとめておいてくれないか?」
「ん……? ああ、そういうことか、分かった、出来るだけ早めに頼むぞ、また食材が増えてしまう」
そうだな、早く準備を済まさないと、またモンスターが来て、狩って、食材が増えてしまう。
俺は、急いで、レフィ達が待つ建物が点在している個所に向かった。
そして、レフィ達の下に辿り着いてみれば、こっちはこっちで食材を取ってきていたようで、その辺の建物から拝借したであろうバケツの中には、魚が数匹、貝が数個、小さな蟹も数匹。
「あ、帰って来たの? 曹駛……て、サキは?」
レフィがまたしても、最初に反応し、そう声を掛けてきた。
「ああ、まぁ、正確にはまだ帰ってきていないかな、俺も、サキも」
「いや、サキはともかくあんたは帰って来ているじゃない」
「いや、まだまだだ、まだ帰ってきていない、だから、ちょっと帰る準備をしなければいけない」
そう言って、俺は、その辺の開けた場所に手を付け、土魔法を使い整地した。
「よいしょ……ハァ……ハァ……」
もちろん整地に関しては、完全に非戦闘魔法なので、疲労感がヤバい。
「そして、こう」
その後、俺は、その整地された場所に魔力を流し続けた。
その場所には徐々に文様が浮かび上がってくる。
そう、これは、テレポートの魔法陣だ。
つまり、俺が何をしようというのかと言えば、テレポートだ。
あの大量の食材を転送する。それが一番手っ取り早いだろう。
魔力を流し続けて10分くらいした頃だろうか。俺の体感時間では、数時間くらい経っているようにも感じられるのだが、実際にそんなに時が経つ訳では無い。
実際に掘ったり、塗料で書いたりしてものに魔力を流して、作るタイプの魔法陣と違いって、俺のこれは、その地に直接魔力を練りこみ、魔法陣を作るタイプの物だ、かなりの集中力がいるし、時間もかかるところ、俺は例のモードで、世界を遅くして、異常な回転数の脳を使いやっていたため10分くらいで終えることが出来たのだ。
この魔法陣の特徴は魔力を流す元となった魔法陣を消されたら消えてしまう一般の魔法陣に対し、魔法陣が消えることがまずないので、よほどのことが無い限り永久に残るのが利点だ。
ちなみに、俺は、そんなことをしたので死にかけだ。
「よ、よし……ちょ、ちょっと……行って、く、る……」
と、死んだ。
まぁ、そりゃね。
そして、生き返ったピンピンの体で、サキの元に駆けた。
で、サキの元に着いたのはいいが、案の定食材が増えていた。
窮鼠が二匹と破砕牙獣が一匹。
ああ、また死ぬかも、魔力枯渇で。
「よし、やっと来たな、曹駛」
「ああ、じゃあ、転移するぞ」
俺はまたしても、地面に手を付け使い捨ての魔法陣を大きく、大きく展開していく。
そして、全ての食材とサキと俺を乗せられるくらいに広がった頃、その魔方陣は光出した。
「転移」
世界が光出す。
まぁ、光っているのは俺達で、視界が光で何も見えなくなっただけなのだが。
視界が元に戻る頃、もう既にレフィ達の元に辿り着いていた。
「よし、成功だ、安全確認も出来たし、帰りはこの魔法で、きっと大丈夫だろう」
「そうだな」
死にそうな息遣いを何とか元の呼吸のペースにしつつそう言った俺に対し、サキは相槌を打つ。
「おか……えり……?」
レフィはまた最初に反応して、声を掛けて来たのだが……その顔には驚愕以外の表情が見当たらなかった。
姫様もテンチェリィも同じく。
まぁ、そりゃそうだよな、俺だってびっくりだもん。
ソードバートまさかの再登場。
まぁ、前回は料理になってたけど。




