37話・帰宅ですか、いえまだです。
―武元曹駛―
明と別れた後、俺は、姫様たちの元に向かった。
すると、姫様たちは、何やらコソコソと話し合っているようだった。
レフィが、俺に気付いたのか、こちらに向かってきた。
「一体、なんの話をしているんだ?」
コソコソ話の内容が気になったので、レフィに尋ねてみる。
「まぁ、色々よ。でも、大きく分けると二つ。一つはあんたの事、もう一つは帰る手段」
「ああ、そんなことか」
「そんなことって、両方とも大事な事でしょ、まぁ、あんたの事は、なんとか説明しておいたし、秘密にしておくようにも言ったけど、帰りの手段は、まだ話途中よ」
「まぁ、帰りの手段は大丈夫だが……って、このことはみんなに伝えるべきか」
俺は、レフィと共に、姫様達のすぐ近くまで行き、口を開いた。
「ああ、その、帰りの手段は大丈夫だから安心しろ」
三人は驚きの表情を見せるが、サキは、少し考えて、その手段が分かったようで落ち着きを見せ、テンチェリィは別に驚いても何ともいなくて、ただリアクションを取っただけのようであったが、姫様は、未だに少し戸惑いが見える。
「ど、どうやって帰るというのでしょうか?」
「はい、それは、テレポートでビューンって、帰ります」
と、なんか、微妙に砕けた口調で答えた。
「でも、テレポートは、長距離移動が難しいんじゃ?」
レフィが、そう疑問を口にする。
まぁ、そりゃ魔法の知識があるやつなら分かる。
長距離テレポートは、無理だ。
目に見えないところまで移動するんだ。下手したら、上空に出たり、地中に出たり、水中に出たりと、何が有るか分かったものではない。
「ああ、だから、出来ない」
「どういうことよ」
「いや、まぁ、普通にやったらできない。けど、転移先に魔法陣が有れば、話は別だ、まぁ、魔法陣を設置するのに物凄く時間が掛かるから、俺が魔法陣を設置してある個所は10カ所もないくらいだけど、俺の家に一つ設置してある」
まぁ、目に見えなくても、魔法陣さえあれば、話は別だ、その付近の安全なところに自動的に召喚してくれるからな。
転移のサポート器具のようなものだ。
「それに、サキ、お前、まだあの家に住んでいるんだよな」
「ああ、そうだ」
「それなら、お前と姫様はそっちに届ける。そっちの方にも魔法陣が設置してある」
「そうか、それなら、何時でも私に夜這いをかけれるな」
サキの最後の言葉は無視するとして、ひとまず、帰る方法の説明を終えたが。
「じゃあ、今すぐ帰りましょ、曹駛」
「いや、それは出来ない、ここから数日間、俺達は無人島生活をしなければいけない」
こっちの説明をしないといけない。
「理由としては、行方を暗ますためだ」
「どういうこと?」
「まずは、姫様には酷な話かもしれないが、事実を伝えなければいけない」
「どういうことでしょうか」
「姫様は、今、命を狙われております、そして、その首謀は、スミ=キ=フォルジェルド第二王女です」
姫様は動揺し、ふためく。
きっと、悪意に触れてこなかったのだろう。
しかし、それも、王位継承の4文字が見えてくる歳になってくれば、話は別だ。
スミ=キ=フォルジェルド派閥の貴族たちはきっと、殺ししてでも王座を奪いたい。
スミ=キ=フォルジェルド第二王女は、きっと派閥の頭が切れる奴に言いくるめられでもしたのだろう。
「そんな……スミが……なぜ……」
姫様の瞳が潤む。
「姫様……」
俺は、本当はしてはいけないことだし、国にばれたのなら、最悪打ち首だってあり得る行為なのだが……
姫様をそっと抱きしめた。
まぁ、気分としては、父親の気分だろうか。
年齢的にも、姫様くらいの子を持っておかしくはないし。
「曹駛……さま?」
「大丈夫、スミ=キ=フォルジェルド様もきっと本意ではないはずです、きっと、過激派の誰かに、言いくるめられでもしたのでしょう」
「………」
姫様は、静かに泣いていた。
姫様の瞳が乾いた頃。
「さてと、話の続きだ」
俺は、話を切り出した。
「今、スミ=キ=フォルジェルド様を説得しようとしても無理だし、なにせ、第二王女であるからにして、一般人である俺から何かを仕掛けることは出来ない」
「まぁ、確かにな」
サキが相槌を打った。
「まぁ、干渉できるのは、私と姫様くらいだろうが、私一人で同行する自信は無いし、姫様が、行くのは身を危険に晒すだけだ」
「ああ、そうだ」
今度は俺が相槌を打った。
「だから、今、俺達が行方不明の間に作戦会議をする。これからどうするかの……な……と、言っても、俺は何をするか大体決まっている訳だが、それはまだ言えないもう少し後になってからだ」
「そうか、では、そのための無人島生活というわけだな」
「ああ、幸い敵は全滅、それに雨風凌げる建物まで残してくれている」
「そうか、まぁ、ここで暮らすと決めたからには、食材を取りに行かなければな」
そう言って、サキはどこかに向かって歩いて行った。
「まぁ、サキの言うとおりだ、だから、俺も食材を取ってくる。レフィは、一応、念のため、テンチェリィと姫様を守っていてくれ」
「解ったわ」
まぁ、食材探すなら、サバイバル経験のある俺とサキが一番いいだろうし、姫様とテンチェリィを守る人がいないと、姫様が知らぬ間に暗殺されてしまったり、またテンチェリィが捕まったり、するかもしれない。
それに、俺とサキはこう見えてサバイバルの知識はすごい。数年はサバイバルして過ごしたからな。
という事で、俺達の無人島生活が始まった。




