36話・最終決戦ですか、勝ってみせます。
この後活動報告にて、特段大事でも何でもないけど、それなりに知らせたいことが、岩塩龍と明から有ります。
―武元曹駛―
「一対一、同点だ。次でファイナルラウンドにしよう」
明が、そう言う。
「最終決戦には、最終決戦に相応しいだけのド派手な演出が欲しいよな」
「そうか?」
「ああ、そうだ」
明の周りの黒いオーラが、更に黒くなっていく。
戦斧の方は、完全な闇に包まれているようで、もう元の形が分からないくらいに黒く塗りつぶされている。
それに、その戦斧は、元の大きさと比べて一回りも二回りも小さくなっている。
「さてと、究極解放、大戦斧。黒気体現」
戦斧が、生きている。
戦斧がまた、鼓動しているのだ。
それに、武器のはずなのに、生気を感じる。
まるでなんかじゃない。生きている。
比喩でなく、あいつの武器は生きている。
「さてと、さっさと、終らせるぜ、このモードは、俺でも、長くは使えないんだッ!!」
明が……消えた!?
いや、後ろかっ!!
頭では反応が出来ても体の反応が間に合わない。
ランスを投げ捨てるように下に置き、盾にサンダーオーラ、イフリートエナジーによって、全力強化はするが。
バッサリ切られた。
もちろん死ぬことはない。
だから、まずは距離を取ろう。
俺は、色々と治りきっていない体のまま、明を蹴り飛ばした。……が、全く手ごたえが無い。すり抜けた感覚。
俺が、蹴ったのはどうやら残像のようだ。
だとしたら、本体は……。
後ろ……は、流石に二連続で芸が無さすぎる。
と、すると、上か。
瞬間世界が遅くなる。
風に飛ぶ木の葉も、揺れる草木も、明も、俺も。
モード・スーパーハイスペックブレインに入ったのだ。
俺は、ランスを拾いつつ、思いっ切り、後ろに飛んで明の一撃を躱そうとはしてみるも、どう考えても無理だ。
確かに、この全てが遅い世界でも、俺は、最高速度で移動するならば、少し鈍い程度で動くことが出来るのだ。もちろん、そんな最高速度が常に出せる訳では無いのだが、通常の行動は止まって見えるような世界で、その速度が出せれば、十分なはずなのだ。
だた、今回は例外。
明の速度が、この超低速の世界になって、やっと普通の速度なのだ。
ちょっと鈍い俺が、普通の速度で迫ってくるあの一撃を躱せる通りは無い。
だから、仕方ない。
躱せないのなら、喰らってしまえ。
それが、俺流の戦い方。
だが、ただではその攻撃を貰ったりはしない。
俺も、少し、本気を出させてもらおう。
「喰らえッ!! ソウシッ!! 大戦斧・覇王断ッ!!」
地が割れる。
空間が引き裂かれる。
理解不能な力だ。
その圧倒的な威力は、俺を跡形もなく消し去るが、俺は、今の俺なら、一瞬で復活できる。
「イフリート、完全憑依。武具融合」
俺は、半憑依だったイフリートを完全憑依させた。それに、武具融合。
これは、明がやっている事と本質的には同じだ。
きっと、明は今、武具融合に近い状態にある。本人がそれに気づいているかどうかは別として。
明のやっているのは、きっとあの戦斧の力を最大に引き出すための供物として己を捧げているのだろう。
それは、あの戦斧が生きているから、あの戦斧が特別だからそんなことが出来るかもしれない。もちろん、あれはまだ、完全には融合出来ていない。先ほど本人が言っていた、短時間しか動けないと。それもそうだ、 武具融合は、武具と使用者がお互いに力を与えあい、一体化し、互いに進化しなければいけないが、明は、戦斧に一方的に力を与え、戦斧の生み出した力を奪い取っているに過ぎない。
だが、俺は違う。
左手に持つ槍は、形を変え左肩から下を全て覆うような形になり、腕の先から波状型に突き出ている。
右手に持つタワーシールドは大量の輪となり、右腕を覆う。
そして、鎧は体に張り付くような形になり、重みを感じないほど軽くなり、防御力も上がる。
それに、イフリートを完全憑依させたことにより、俺の体からは炎が漏れ出してきている。
今の俺は炎さえあれば、そこから肉体を復活させられる。
だから、粉微塵に体が吹き飛ぼうが、何かにひき潰されて挟まれようが、封印させられようが、近くに火元が有れば、そこで復活できる。
だから、今の俺は、本当の意味での不老不死に近いのかもしれない。
「行くぜ、明」
俺は、その辺の土を浮遊させ、融解させた。
もちろん、熱によって、融解したので、それは赤く熱せられドロドロになっている。
それを、操り、明に向かって飛ばした。
「お返しだ、喰らえ、溶岩球」
「当たらねーよ」
もちろん、明はそれを躱すが、それが、どうした。
そいつはホーミングする。
熱を保ちながら、追いかけ回す。
それが、土や石や岩に触れれば、それを解かし、更に大きくなっていく。
それに、それだけではない。
その溶岩球の数はどんどん増えていくぞ、俺がどんどん発射しているからな。
躱せば躱すほどつらくなっていくはずだ。
「くっそ、なんなんだよ、これ」
明は、そう言いつつも躱し続けている」
「本当に降参したらどうだ?」
「そうか、お前を倒せば、溶岩球も止まるんじゃ……って無理か、お前を倒す自信がなくなって来たぜ」
「そうか、なら、降参するのか?」
「いや、それは無いな、俺は、決めさせてもらうぜ、この技を」
明が戦斧を地面に突き立てた。
「喰らえ、黒気。もっと喰え。そして、もっと強くだ」
な、なんだ? 辺りが暗くなっていく、その原因は、その暗闇の発生源は間違いなく明だ。
「黒気粉砕斬断」
おもむろに、戦斧を振るう。
それによって、溶岩球は全て薙ぎ払われる。
黒い風が全てを消し去っていく。
もはや切っても断ってもいない。
消している。
消し去っている。
「これで……ッ!?」
そして、その後に、明は静かに両手を上げた。
「降参だ」
その理由は、俺が、鋭く先のとがった、左手の甲の鎧を明の喉元に突き付けていたからだ。
「いつの間に、移動したんだ」
「さあな」
テレポート。
黒い風の合間を縫うようにテレポートを発動させた。
そして、俺は、明が大技を放つ時を待って居た。
その時、流石に、隙が出来ると思ったのだ。
武具融合が完璧じゃない故に。
だから、あえて、追いつめるような技を使った。
そして、明は、俺の思い通り、大技を使ってくれた。
その結末にあるのは、俺の勝利だ。
「じゃあ、俺の勝ちだな」
「ああ、俺の負けだ」
明の戦斧が見る見るうちに元の姿に戻っていき、いつの間にか、最初に見た時の馬鹿でかい斧に戻っていた。
それに対する、俺の鎧、ランス、シールドも元に戻り、イフリートも半憑依の状態に戻っている。
「あーあ、負けたか、仕方ない、ほら、行け、俺は明を連れて帰る」
「ああ、言われなくともそうさせてもらうぜ」
「ああ、それと、曹駛、一ついいか?」
「なんだ?」
姫様の元に向かおうとしたところ、明に呼び止められた。
「なぁ、姫さんは、本当に悪人なのか? お前が悪い奴をそこまでして守るとは思えないからな、気になるんだ」
その言葉は衝撃的だった。
「は? なんだ、それ、姫様が悪人?」
姫様が悪人とは思えない。
つまり……
「ああ、俺は、この姫様暗殺の依頼の時にそう聞いた、コイチ姫が王座に就けば、民は苦しめられ、国が崩壊するんだか、なんだかってな。だから、殺せって」
やはり、そうか。
明に姫様殺害を依頼した主がそう言ったんだ。
「それは、誰に頼まれたんだ?」
なんとしてでも、情報を掴みたい。
俺は、明に依頼主が誰なのか尋ねたが。
帰って来たのはテンプレートもテンプレート。
普通過ぎる答えだった。
「ああ、それは第二王女のスミ=キ=フォルジェルドだ」
第二王女が、第一王女を排除する。
それは普通過ぎて、普通過ぎた話なのに、一般人では全く抗いようのない話であった。




