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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第三章・兵士ですか、お断りします。
35/203

35話・勝負ですか、負けません。

 ―武元曹駛―


「どうだ、まぁ、またまた、俺の勝負は第二ラウンドからだな。よし、じゃあ、行ってみようか、第二ラウンド」


 俺は(あきら)に対してそう言った。

 俺は、一回戦目は負けるのが決まりみたいになっている気がするが、それも不老不死あっての物だ。

 不老不死だからこそ二回戦がある。三回戦がある。

 普通なら勝負は一回勝負。

 負けたら次が有るわけがない。死ぬからな。


「なぁ、お願いばっかりで、悪い気がするが、一旦ギャラリーを離れさせてくれないか、全力で戦いたい」


 初対面の、それも敵に、何度お願いするのかと言う話でも有るし、これを聞き届けてくれるかは分からないが、言うだけ言ってみる。

 こいつは悪い奴には見えない。

 たしかに、やっていることだけでは、俺達に対立しているが、こいつが自ら人を殺しにいく奴とは思えない。

 俺だって伊達に長くは生きていない。人を見る目は有るつもりだ。だが、こいつは人を見る目がない奴でも分かるくらいに、馬鹿だ。

 真っ直ぐな馬鹿だろう。

 善人ではないのかもしれないが、悪人ではないと思う。

 だから……


「ああ、望むところだ、俺も本気を出したい」


 もちろん、(あきら)は、そう言った。

 そう言うだろうとは思っていた。

 まぁ、こいつが馬鹿で真っ直ぐであることはおまけであって、それでこいつが承諾してくれるという確信を得たわけではない。

確かに、先ほどのこいつは強かった。だが、強かったと言っても、全力ではない。そう感じたのだ。

理由は、上手くいえない、だが、あいつもどこか周りを気にしていた。

そう感じたからこそ、きっと(あきら)が応じてくれると確信を持てたのだ。


「おい、(めい)、そいつら連れて安全な場所に連れていけ」


 (めい)が姫様達に「付いてきてください」と言い、姫様達も素直について行った。

 目に入らないところに行かれるのは、実のところ少し心配ではあるが、きっと大丈夫だと思いたい。

 そんな俺の心配が顔から漏れ出していたのか、(あきら)が言う。


「ああ、曹駛、心配しなくてもいい、これは勝負だ。あくまで勝負。もちろんお前が俺を倒して、(めい)の下に行けば、解放してやる、逆に俺がお前を倒して、俺が(めい)の下行ったら、悪いがコイチ姫は殺させてもらうが、どちらかが(めい)の元にたどり着くまでの安全は保障する。もしも、別の誰かに襲われたとしても、(めい)が守ってやる。それに、コイチ姫を殺したとしても、姫以外の奴には手をださねぇ、安心しろ」

「姫様を狙っている時点で安心はできねぇよ」

「ははっ、そうだったな」


 顔から心の中を読まれたと思ったので、上手くできないポーカーフェイスを急遽作り、せめてもの言い返しを試みるが、全く以て意味は無いような気がした。


「じゃあ、行ってみようか、お前の言う第二回戦に」

「そうだな」


 とりあえず、心配なのは変わりない。

 きっと大丈夫とかそんな役に立たない予感や根拠のない信頼などではなく、俺がこいつを倒して向かう。予感ではなく結果で、ちゃんと根拠のある未来を向かう。


「最初から本気で行くぜ、来いっ!! イフリートォッ!!」


 炎のおっさんを呼び出した。

 それにより俺は炎を纏い始める。

 それにより、俺は、熱を放ち、陽炎に包まれた。


「ハッハッハ、今度はそこまで久しぶりというわけでもないのか、曹駛」


 常に陽気な炎のおっさんが、今回も例外ではなく、どこか陽気なまま、笑いながらそう言う。

 


「行くぜ、おっさん」


そう言って、駆け出そうとするも、(あきら)の声に止められる。


「なんだそいつ、精霊か?」

「「ああ、その通り」だ」


 俺と、おっさんは声を合わせてそう返答した。


「なるほど、そりゃスゲーな、つくづく感心させられるぜ、ソウシィ!!」


(あきら)はそう言って、斧を肩に乗せ、腰を深く落とした。


「それなら、俺も、本気で行かせてもらおうか」


ドクンッ……ドクンッ……


 鼓動しているようであった。

 斧が、闘志が、気迫が、(あきら)の全てが大きく鼓動している。

 大気が揺れる。

 それによって、俺の周りの陽炎は吹き飛ばされた。


「大戦斧・解放ッ!!」


 せ、成長していく。

 ただでさえ大きい、(あきら)の大戦斧がさらに大きくなっていく。

 元のサイズでも、曹駛より、使用者の(あきら)より大きい戦斧が、更にでかくなっていく。

 って、おいおい、まだでかくなっていくぞ……それ、本当に扱えるのかよ……。


「よっしゃ、完全開放ッ!!行くぜ、強者の大戦斧」

「それは、ちょっと、大きすぎるんじゃないのか……?」

「なんだ? ビビっているのかよ」

「まぁ、少しはな」


 実際は、結構ビビってたりする。

 いくらなんでも、デカ過ぎる。

 こんな開けた場所で待っていたのは、そのためか。

 いや、この開けた場所は、きっと(あきら)によって作られた場所だな。切り倒された木々とまだ切り口の新しい切り株が点在しているし、間違いないな。

 たしかに、その斧を持ってたら、木に引っ掛って、戦いにくいだろう。

 さて、どうしたものか、こんなにでかいと、躱すどころか、受け止めるのもきついぜ。


「さてと、行くぜ・解放大戦斧・(ザン)


 大戦斧が横に薙ぐ。薙いで行く。

 全てを切り開く。

 後方の森を、左右の木々を、この空間にある空気を、俺を、全てきり払った。

 一撃で、兵器レベルの火力。

 なんだ、こいつ。

 俺は、今、死んでいるだろうが、意識はある。

 これまた、ちょいと特殊な術だ。

 ずっと意識と感覚を持ち続けることのできる術……と言うよりも完璧の不老不死化の状態にする技だ。簡単に説明するならば、今の俺みたいに死んでもすぐに生き返るとかそういうのではなく、肉体が致死量のダメージ、損傷を受けても、意識を保ち続けられるようになるってだけで、過度な痛みを受ければ、気絶はする。

 なので、死ぬほどの怪我の痛みを味わえば、普通に気絶する。強い意志が有れば、そんな状態でも意識を保っていられるかもしれないが、そんなことしていたら、いつか発狂して終わりだ。

 だから、普段はこんなの使っていないが、今回は特別だ、相手が思った以上に手練れだからな。

 相手は……(あきら)は強い。

 油断していたとはいえ、初手一撃で俺を殺したし、しかもそれが本気でないと言う。

 警戒するに値する。

 それに、今の技は本当にヤバい。

 ここまで強い奴にはほとんどあったことが無い。


「てか、まだ生きているのかよ、ほんと、分身でも使えるのかよ」

「まぁ、似たようなものだ、さっさと倒して見せろ、で、ないと、危ないぜ」


 一応、例の術は切っておく、気絶して、生き返った後も意識が戻らないともし、相手が生きていた時困るからな。

 俺は、(あきら)に向かって、走り出す。

 (あきら)は、きっと、馬鹿でかい斧を持っているから、全速力で走れば、きっと攻撃を受ける前に、懐に飛び込める。

 と、そう思っていたんだが……


「甘いぜ、ソウシッ」


 思いのほかと……なんていうレベルの速度ではない。

 解放前よりも早いっ……

 異常なサイズの斧が振り下ろされる。

それを見た俺は、ランスとシールドを投げつけ、右に思いきり飛んだ。

 その結果、俺は、右手右足を切られ。

 俺の武具は、(あきら)の足元に転がった。


「くれるのか?」

「ああ、あげるぜ……爆弾をな……」


 使ったもちろん魔法は、金属爆弾(メタルボム)

 数秒後に起きる現象は、爆発だ。それによって生まれる爆炎は、イフリートにより、強化されている。

 超高温の炎が辺り一面を焼き払い、かなり広範囲を熱波が走る。

 これで、死んでくれれば、一番ありがたいが……。


「なんだよ、これ、やべーじゃねーか」


 だよな、無傷とは行かないだろうが、流石にこれで死ぬような奴に、短時間で二回も殺されたりはしない。

 俺は、もう既に走り出していた。

 腕も足もとっくに治している。

 そして、タックルを決め込み。


人間爆弾(ヒューマンボム)


 爆発した。

 爆発中、意識は無くなったが、きっと先ほどの金属爆弾(メタルボム)以上の火力が出たはずだ。

 イフリートが間接的に宿っているに過ぎない。武具よりも、直接的に宿っている俺の方が、その辺の強化も大きい。

 それに、この技は、半憑依しているイフリートごと爆発する技だ。

 熱量は馬鹿にならないはず。

 まぁ、俺なりのお返しだ。開放状態の(ザン)の……な。


「ぐ……」


 死なないにしても倒れるかと思いきや、(あきら)は、まだ立っていた。

 鎧のところどころが融解し、それに身体を焼かれながらも、立っていた。

 ただ、あの大戦斧は、まったくの無傷だ。

 それに、あいつの纏う黒いオーラも気になる。

 もしかしたら、あの黒いオーラが身を守っているのかもしれない。


「お前、まだ生きていたのか、分身でも使えるのか?」


 とりあえず、皮肉を含めて言い返しておく。


「そんなわけねーだろ、全身あちーし、いてーし」

「まぁ、そうだよな」

「じゃあ、何故訊いたんだよっ」


 ああ、こいつ、皮肉が効かないタイプの人間か。

 というか、ただの馬鹿か?

 と思っていたら、あきらが、大戦斧を地面に置き、両手を上げた。


「くっそ、降参だ、第二回戦は、俺の負けでいい」

「そうか、じゃあ……」


 俺の勝ちだから、あちらに向かわせてもらうと言葉を続けようとはしたのだが。


「ああ、これで、一対一、同点だ。次でファイナルラウンドにしよう」


 (あきら)が、まるでどこかの元兵士が言いそうな台詞で、俺の言葉を遮って来たのだ。


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