34話・戦闘ですか、分かりました。
曹駛は慌てていた。
これ以上ないくらいに慌てていた。
(負けないけどっ……勝てねぇッッッ!!!!)
そう、きっと、死ぬことのない曹駛が負けることは無いに等しいのかもしれないが、決め手がない。
ギャラリーがいる今、広範囲攻撃はあまりできないが、だからといって、範囲の狭い魔法で明を捉えられるとも思っていない。
つまり、魔法は単体では決め手になり得ない。
じゃあ、物理はどうかというと、もちろん素手で、鎧を装備した相手とまともに戦えるとも思っていない。
じゃあ、どうするか。
その時曹駛がとった行動は……
「待った」
待った、だった。
そして、それに対して、明は……
「なんだ?」
待ってくれた。
「そのな、そっちが不利になるかもしれないから、断りたかったら、断っていいのだが……」
「なんだよ」
「その、俺の武器を探してきてもよろしいでしょうか……その、心当たりはあるんで」
「……そういや、お前、武器持って無いな」
「でしょ」
「………」
明が考え込む仕草をした。
「なぁ、お前の武装って、ランスとシールドの組み合わせだったりする?」
「ああ、そうだぜ」
明がまた考え込む仕草をする……
「なぁ、鎧は持っていたのか?」
「ああ、ランスとかとセットだ」
「……なぁ」
「ああ」
「明ちょっと、あれ持ってきて」
「はい」
明は明に何か指示を出した。
「ちょっと待ってろ」
「ああ」
「持ってきました、お兄上」
そう言って、明はどこかで見た事のあるものを、持ってきた。
「おう、ありがと、っで、これに見覚えは?」
「……ああ、ある」
それは曹駛が良く知っている物である。
「それが、俺の装備だ」
「やっぱりか」
「えっと、返していただけませんか?」
曹駛は、敬語でそう言ってみた。
それで、装備が返って来るとも思っていなかったのだが……
「ああ、もちろんだ」
返事は意外。
好意的だった。
「じゃあ、さっさと装備しろ」
「はい、そうします」
敬語モードは続行。
それも、装備を付け終わるまでではあるが。
「よし、準備完了だ、今度こそ始めよう」
「ああ、待ちくたびれたぜ、昨日から待ってたからな」
(昨日から?俺たちが来ることを知っていたと言う事か。それに、他の連中を倒して、俺たちがここに来ることも分かっていたのか?)
「ここで人質と共に待ってれば、お前らが来るって聞いたからな、ずっと待ってたんだ」
(聞いた? つまり、別に人がいる。指令のような人物が。それに、こいつは、あまり味方の事を気にかけていない。単騎での雇われか? だとすると、こいつはもしかして、現代に珍しい、本質的な意味での傭兵なのか?)
「じゃあ、始めるぞ、明開始の合図を頼む」
「はい、お兄上、じゃあ、始めっ」
ダッ!!
初めの合図と共に、明が間合いを詰めようと、地面を蹴り、前に飛んだ。
それに対し、曹駛は、ここまで身軽であるとは思っていなかったのか、躱すには時間が足りず、タワーシールドを構え、受けることにした。
しかし、それが、間違いだった。
「行くぜっ!!大戦斧・斬」
大戦斧は横に薙いだ。
その威力は凄まじいものであった。
曹駛の頭と体を切り離したのだ……タワーシールドごと……。
その光景をもろに見てしまったコイチ姫は嘔吐した。テンチェリィも吐きそうにはなってはいたものの、奴隷になる前の時に似たような光景を何度か見ているのもあり、すんでのところで止まった。
「あっけないな、俺の勝ちか?」
「そうですね、お兄上」
明がそう言い、明もそれに同意するような言葉を言った。
明が、姫様の元に向かおうとした。
が、後ろからの気配に気づき咄嗟に大戦斧を構える。
ガキィンッ!!
ランスと戦斧がぶつかり合い火花を散らした。
だが、火花を散らしっているのはランスだけである。
かなりの硬度であるようだ。
「負けだって……いや、そんなこともないぜ……」
「……どんな手品を使ったんだ?曹駛」
「さあな、秘密だ、明」
カンッ!!
お互いにお互いの武器をはじき合い、二人は距離を取った。
「さてと、さっきは油断したが、次は、そうはいかないぜ」
「そうれはどうかな、どうせ、また、すぐに決めてやるさッ!!」
明が、また地面を強く蹴り、曹駛に向かう、が、今度は曹駛も反応し、すんでのところで、斬を躱す。
その際に、ランスを真っ二つにされるが、すぐにそれは修復した。
「なんだ? その武器、自己再生機能でも付いてんのか? それにしても、めっちゃ早いな、ちょっと羨ましいぜ」
「へへっ、いいだろ、誰にも渡すつもりはねーぜ」
曹駛は、羨ましがられたので、調子に乗っておいた。
この速度での自動修復機能は、かなり凄いのだが、元となっているランスとタワーシールドが旧式のタイプなのもあって、褒められたり、羨ましがられたりすることがあまりないのだ。
だから、今の明の台詞が少し嬉しかったりしていた。
「電覇気ッ!!」
雷属魔力を纏い。
雷撃を宿す。
曹駛の体からは電気が発せられる。
「自己強化か? まぁ、そんなことしても、無駄だけどなッ!!」
「それはどうかな」
「喰らえッ!! 大戦斧・斬ッ!!」
バチィッ!!
曹駛は、受け止めていた。
タワーシールドで、斬を受け止めたのだ。
「どうだ、変わっただろ」
「そう……だな……」
明が随分と辛そうな顔をしている。
それもそのはず、曹駛に触れているならば、その間電流が走り続ける。それがたとえ、直接触れていようが、間接的に触れていようが、感電してしまうのだ。
あまり長く触れていると、身体が麻痺をしてしまい、動けなくなる。
明は舌打ちをして、後ろに飛び退き、曹駛から離れた。
「どうだ、まぁ、またまた、俺の勝負は第二ラウンドからだな。よし、じゃあ、行ってみようか、第二ラウンド」




