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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第三章・兵士ですか、お断りします。
33/203

33話・そうですか、またですね。

 ―武元曹駛―


「誰だ、お前……」


 目の前に立っている少女は、今や古い本でしか見ることのない着物という服を着ていた。

 それに刀。

 格好だけは、侍だ。

 侍と言うのは、まぁ、簡単に言って剣士の事だ。詳しいことは俺も良くは知らんが、侍という単語自体知らん奴はいくらでもいるからな。

 とりあえず、何故そんな服装をしているかは置いておく。

 ただ、気がかりなのは、こいつが言った「居る」と言う言葉だ。

 居る。

 つまり、テンチェリィはこいつ……らの下にいる。きっと、ここにテンチェリィがいないと言う事は、少なくとももう一人はいる。

 じゃあ、そうなるとして、こいつは敵か味方か。


「付いて来い」


 目の前の少女はぶっきら棒にそう言って、歩いて行く。

 置いて行かれて、テンチェリィ探しが面倒になるもの嫌なので、俺たちは彼女についていくことにした。たとえ敵だとして、倒してしまえばいいからな。

 そして、しばらく歩いて、森の一角、開けた場所に辿り着いた。

 そして、そこには、テンチェリィと、馬鹿でかい斧を持った男がいた。


「よう、お前がコイチ姫一味か?」

「なんだその言い方」

「いや、俺、姫以外の名前知らんからそう呼ぶしかないんだよ」

「……まぁ、考えてみれば、知ってる方がおかしいかもな」

「だろ」


 といって、目の前の男は笑った。


「ほら、こいつは返してやる。それと、お前らは帰りな。俺達の用があるのは姫だけだ」


 男は、テンチェリィの背中を押して、こちらに歩かせた。

 テンチェリィは、無事みたいだな。

 これで、帰るという手もないわけだが……


「そりゃできない相談だ」


 まぁ、断るな。

 姫様は守るべきお方であるには違いが無いからな。


「そうか、なら戦うしかないな。ただ、面倒だし、被害者を増やしたくない。一対一だ」


 まあな、俺だって、少女相手に本気は出したくないからな。

 それに無暗矢鱈に女の子に傷をつけたくもない。


「それは都合がいい、そうしようか」

「ああ、なんだ、気が合うな」

「そうだな」

「敵でなければな、まぁ、敵でも好敵手になるかもな」

「そうか?」


 俺をあまり舐めないでほしいな。

 流石に、普通の奴に負けるほど弱くは無い。

 まぁ、こいつがどんなに強かったとして、結局は人間だろう。俺に勝てるものか。

 満身創痍に、気は付けるから、油断はしないが、負ける気もしないな。


「とりあえず、自己紹介だ、俺は雀林(じゃくりん)(あきら)それと、こっちは俺の妹で」

雀林(じゃくりん)(めい)です」

「と、まぁ、こんな感じだ。よろしくな」

「ああ」


 こいつら兄妹だったのか。似てないな。

 華奢な妹に対して、兄の方は結構筋肉ムキムキだ。もちろん見せるための筋肉じゃないな、あれは。あの斧を使っているうちに、自然と付いたのだろう。

 さてと、名乗られたからには、名乗り返さないとな。


「俺の名前は、グルック……いや、もういいや」


 俺は、姫様をチラッとみる。そして、起きているのを確認した。

 結構大きな声で会話していたからな、起きたのだろう。


「姫様、そこに座っていてください」

「ふぁ、ふぁい……」


 眠そうだ。

 まぁ、寝起きだしそんなもんか。

 サキが、姫様を比較的新しい切り株の上に座らせた。


「そうだな、名乗るさ、俺の名前は武元曹駛。元・国軍第19期兵団所属、武元曹駛だ。覚えておけ」


 俺は言ってやった。

 まぁ、半分はこいつに向けてだが、半分は姫様に向けてな。

 もう仕方ない。ここまで来たら、隠して行動するより、姫様にも全て話して、秘密にしてもらった方がいいだろう。

 実はこの島に来た時からそうは思っていた。

 そっちの方が無駄な心配もかけないし、隠れて行動する必要もないわけだから、いろいろと動きやすいだろう。それに、国の王族を味方に付けることに成功すれば、もしかしたら、一部を除いては武元曹駛と言う名のままで、公の場に出られるかもしれない。

 もちろん、元19期兵というのは、内緒だが。

 俺のその発言へのリアクションは様々だった。


「じゅ、19期兵団? それは、消滅したはずじゃ……それに、武元……曹駛……様?」


 最初の反応は、姫様の戸惑い。

 そして、次に来たのが……


「はぁ……結局あんた……自らバラすのね」

「秘密じゃなかったのですか」

「グルック、いや、曹駛らしいな」


 と、いうような呆れた声々。

 それと、一番気になったのが最期にぼそりと聞こえたこれ。


「……ほう、かっこいいな……それ……」


 いや、待てよ。

 おい(あきら)、まて、おかしい。

 お前の感想が予想の斜め下。


「よし、お前がそう言うなら、俺も俺の2つ名を教えてやろう」

「いやいや、そんな流れじゃないだろ」

「お前だけにそんな恰好のいい自己紹介されたんだ、特別に俺の2つ名を教えてやる」


 ドヤ顔の兄の隣で、(めい)が「……別に今に限ったことじゃないでしょ」と小さく呟いたのを俺は見逃さない。

 それでも、「いや、特別でも何でもねーじゃん」とも、口には決して出さない。


「俺は、『強者』だ、強者の大戦斧。覚えておけ。生きていたらな」


 (あきら)はそう言った。

 強者……ねぇ。

 実際どうなんだろうか。でも、それも戦えばわかるか。


「そんで、自己紹介も終わったし、そろそろ始めねぇか」

「俺以外の奴の紹介はいいのか?」

「あ……そうだな、忘れていた……が、ま、いいや、面倒だし、始めよう」

「そうか、じゃあ、始めるか」


 ここで、気づいた。

 今更。

 本当に。本当に今更。

 俺、気づくの遅いな。本当に。


 俺、手ぶらだ……つまり……武器がねぇ!!


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