32話・おかしいですか、そうですか?
結局、人間皆本質的にはおんなじようなことを考えているのかもしれません。
―レフィ=パーバド―
違和感が一つ。
その違和感はどんどん大きくなっていく。
「お前は何人殺した?」
笑顔でサキがそう尋ねてくる。
笑顔で言う事でもないだろう。
何人殺したと笑顔で言えるあたり、おかしい。
曹駛にも同じことを言っていった、そして、曹駛はそれに対して、「あー、今回俺は3人だけだな、あんましいい成績じゃない」と言っていた。
もちろん、笑顔で。
おかしい。
「私は、10人かな……」
盛っているというのとは逆で、掘っているような、埋めたような感じで、実際はもっとたくさんの人の命を奪ったのだろうけど、私は少なめの人数を言った。
まさか、自分が人を殺めることになるとは。
確かに曹駛の事は何回か殺したけど、生き返るし、そこまで気にしていなかったのだが、実際はそんな訳が無い。死んだら生き返ることは無いのだ。
目の前に広がる光景は、戦場跡のようなものだった。
もしかしたら、私は、曹駛を殺すことが当分できないかもしれない。
それはそれでいいことなのだろうけど。
「じゃあ、今回は私が一番でいいな、二位はレフィ、そして最下位がグルックだ」
「仕方ないだろ、姫様の事守ってたんだから」
まるでゲームをしていたかのような発言。
それが、怖い。
この二人は、もはやこの程度の事は慣れっこなのだろうか。
姫様は私と同じ考えなのか、少し気分が悪そうに見えた。
「よし、とりあえず、テンチェリィを探そう。何故かあいつだけ、別のところにいるみたいだしな」
曹駛がそう言う。
そういえば、あの子がいない。
本当になぜか、別のところに連れていかれている。
「す、少しお待ちください、グルック様」
姫様が小さくそう呟いた。
けれども、その声は、ちゃんと曹駛には届いていたようである。
「どうかなさいましたか、姫様」
「そ、その、こ、腰が抜けてしまって、力が入らないのです」
「そうですか、なら……」
曹駛が、姫様をおんぶした。
「では、いきますよ、姫様」
「は、はい……」
「まぁ、とりあえず、森の中とか探そう」
「いや、待て、グルック」
「なんだ」
「いきなり森の中で、テンチェリィを探すのは駄目だ。まずは、建物を探そう」
「まぁ……そうだな、それが一番手っ取り早いかもしれない」
「あっ……それと、一応レフィに魔力を渡しておこう。もしものことが無いとも限らないし……」
曹駛が、片手で姫様を支えながら、もう片方の手で私を呼ぶ。
確かに、まだ残党がいないとも限らないし、それがいいだろうと思い、曹駛のところまで歩いて行く。
そして、外した首輪を曹駛に手渡した。
「よいしょ……これで良し」
「ありがとう……」
そして、曹駛から、どう見ても首輪に見えない、金属の弧を受け取り、首に付ける。
「さてと、じゃあ、行きますか」
そう言って、曹駛は歩みを進めた。
「ねぇ、そう……グルック」
「なんだ」
危なかった。気を抜いていると、つい曹駛と呼んでしまいそうになる。
「その、グルック、気になる事があるんだけど」
「なんだよ」
私は、一つ、曹駛に質問をしてみることにした。
「その、さっき、詠唱魔法を使ったじゃない、それも、かなり難易度の高い武器の瞬間精製」
「ああ、難易度はともかく、してたな」
難易度を知らずにしていたのだろうか。
驚きだ。
あそこまで、早く武器を精製、そして、敵を貫くと言う事は、かなり難しい。きっと、土系の魔法の中でもかなり難しい部類に入るだろう。
だからこそ、気になった。
「それで、気になったんだけども……なんで、あんなに詠唱文が短いの?」
「……ああ……それね……うん?」
質問の意図が伝わっていないのだろうか。
もう一度、少し分かりやすいように聞いてみよう。
「えっと、あれほどの難易度の魔法なら、もっと長い詠唱になるはずなのに、なんで『土よ、貫け』という、異常なまでの短さで済んだの?」
「あー、うん、まぁ、難易度とかその辺は詳しくは分からないけど、詠唱を短くする方法は知っているぜ」
「そんなのが有るの?」
「ああ」
それが、本当なら、魔法技術が一気に発達する。
その技術で、実質的な軍部の指導役までにはなれるかもしれない。
それなら、永続的な金持ちとしていられる……いや、無理か。
そういえば、曹駛は、不老不死……だもんね。
「その、その方法はどうすればいいの」
まぁ、でも、尋ねるだけは尋ねてみる。
詠唱時間の短縮は、出来て得すること沢山はあっても、損することはほとんどない。
「ああ、それな、寿命を、ぐ~ってやって、ぐ~ってな」
寿命と言う単語が聞こえた。
なんかもう既にできそうな気がしない。
「そうすると、寿命一年につき、一文字短縮できるぞ、ただ、詠唱をなくすことはほぼ無理かな、偶にできるのもあるけど、それはレアなケースでほとんどは、最低でも詠む必要のある語句とかがあるからな、それと、寿命を使うコツだが、命を燃やすイメージだ」
「命を燃やす?」
「そう、これは、別に俺みたいなやつじゃなくても、たまにあるケースなんだが、危機的状態に陥ったり、異常なまでに精神が高ぶったり、強い欲望などによってこの力が発現することがある。まぁ、いずれにせよ、強い覚悟や決意有ってのものなんだけど。命の燃える感覚は人それぞれだから、詳しくは言えないけど、燃えているなら、少なからず、能力が向上するから、普通とは思えない力を発揮するんだよ。命を燃やせば燃やす程な。まぁ、一番よく有るのは戦士とか、俺のような魔法を使うやつがな、危機的状況に追い込まれて、知らず知らずのうちに使っちまってるとかだな。で、加減を分からず、全寿命を使ってそのまま逝去という流れが一般的だ。死に際の強さのほとんどはそれだな。危機的状況に置いて、戦う意思を強く持つというのは、多少無茶をしても、などという思いになりやすいからな、発現しやすいんだ。まぁ、端的に言えば、窮鼠猫を噛むだ。ただし、一矢報いるのはいいが、そのあとはぽっくりだがな。まぁ、動物なら、その辺の事は第六感と言うかなんかで分かるんだろうな、初めての使用でも使い過ぎず、上手い具合に使って、そのまま生き延びると言うのがほとんど。その感覚が鈍って、ぽっくりいってしまうのは恐らく人を含む一部の生物だけだろうな」
「そうなんだ」
そういう事だったんだ。
確かに、あらゆる生き物は、ピンチになると、急に強くなったり、賢くなったり、いろいろな成長を見せることがある。それは、自らの命を燃やしていたんだ。
「その、ありがと、教えてくれて」
「いや、別にいいさ、また、なんか気になることがあれば聞いてくれ。知ってる範囲でなら、教えてやるさ」
「うん」
「すー……すー……」
寝息が聞こえる。
見てみれば、姫様が寝ている。
きっと疲れていたのだろう。
先ほどまでいつ死ぬか分からない状況に立たされていたのだ、緊張の糸が切れたと同時に疲労が一気に襲い掛かって来たのだろう。
「うーんテンチェリィいないな」
「そうね」
「そうだな」
曹駛の問いかけに私とサキが頷き、
「いえ、居ますよ」
一人が首を振った。
「誰だ、お前……」
そこには、なんやら随分と古臭い服を着た少女が、腰に刀を二本携えて立っていた。
狂っているように見えて、常識は持っているのがレフィさんです。
自分が普通じゃないとは思いつつも、いつも曹駛さんを殺しているのです。
普通じゃないと言うのが分かってるだけ、まだ常識を持っている方でしょう。




