31話・救出ですか、もちろんです。
―武元曹駛―
主立った敵は三人。
姫様を囲むように立っている。
その他諸々は姫様から結構距離が開いている。
まずはあの三人だな。
「貫け、土よ」
両手を地につけて、詠唱。
「メタルランス、バージョングラウンド」
足元から、鋭い鉄の棒。
姫様の周囲にいた3人はそれに貫かれる。
串刺しだ。
「て、敵かっ!?」
「ああ、そうだ、お前らにとっては敵だ」
「い、いいのか、姫がどうなってもよ」
「良くない」
「だ、だろ、じゃあ、それよりこっちに近づくな、こっちにくるなっ!!」
「良くない……けど、お前らが姫様をどうこうすることは出来ないぜ」
俺の左腕に抱かれているのは、コイチ=キ=フォルジェルド姫。
先ほどまで姫様がいたところには、誰もいない。
姫様はこちらまでテレポートさせてもらった。
姫様がこちらへ来たのを確認したサキとレフィが、敵を蹴散らしていく。
レフィには、魔力を与えておいた。
もちろん俺の魔力を直接レフィに送り込んだとかではない。そんなことできない。流石に無理。
そんなことしたら、破裂して死ぬ。冗談じゃなくて死ぬ。
だけど、魔力はちゃんと渡した。
どうやったかと言うと、レフィの首輪に詰め込めるだけ魔力を詰め込んだ。
レフィに渡してある魔封じのアイテムは吸収タイプだ。魔力を吸収し魔法を吸収する。
そして、吸収タイプの魔封じアイテムは実は魔封じ以外にも別の使い道がある。それが、皆さんご察しの通り、魔力の保存、引き出し。たまに、こういう性質をうまく扱って魔力を持ち運びしている奴とかいるのだが、かなり少ない。
まぁ、あまり知られていないと言うのが正しいのかもしれない。魔封じは魔封じ。それくらいにしか普通は使わないのだから、それが別におかしい事とは思わないけどな。
「お前で最期だ」
気づけば、一面まっかっか。
残るは一人。
サキが槍を突きつける。
「さてと、終わりだ」
そこまではいいのだが……。
「く、くそ、撃て」
槍を突きつけられたそいつが、そう言うと、銃をもった野郎たちが、いたるところから出てくる。そんなに隠れていたのか。
「モード・スーパーハイスペックブレイン」
おう、この技を使うことになるとは、
これは、脳を異常なまでに働かせ、数倍の速度で物事を考えることが出来る。まぁ、簡単に言えば、周りがかなり遅く見えるようになる技なのかもしれない。ただ、脳に負担が異常なまでにかかる。正直俺じゃなければ、死んでもおかしくない。なので、こんなにすごい技が有っても俺以外使えないし。
俺もたまに死ぬから、実はあんまり使いたくない。
けれど、今はこれが最善策。
それで、ちょっと状況確認してみたが……。
これはちょっと厄介だな。
これじゃ、全滅かな。
さてと、どうしたものかな。
敵の数は、正面に見えるだけでも、35人。本当にどこに隠れていたんだろうか。
後ろに気配を感じることから、後ろにも数人もしくは数十人いることが分かる。横もまた然り。
本当にどうしたものか……。
あっ……。
でも、あれだ。
大丈夫か。全滅は無いな。
その理由は、銃口の向き先で分かる。
それらは全て、姫を狙っていた。
士気を落とす為なのか。せめて一矢報いるためなのか。依頼を達成するためなのか。
それは分からないが、ある意味有り難いかもしれない。
守る対象が一人なら、まだ何とかなるかもしれない。
でも、どうやって守る。
守るのが一人と言っても、サキとレフィの元にも流れ弾がたくさん来るだろう。
この二人も姫様ほどではないにせよ守らなければ行かないが。
テレポートは間に合うか?
………。
大丈夫。
恐らく間に合う。
(テレポート)
二人の足元に現れた魔法陣は、ゆっくり二人を飲み込んでいった。
超低速で世界を見ても、「ゆっくりしているな~」程度の遅さでしかない。
実際はかなり早いんだろう。
よし、これで二人は大丈夫かな。
それと……姫様か……。
まぁ、あれしかないよな。いくらなんでも、姫様のお体に傷を付ける訳にもいかないし。
許してください、姫様。
「身代わりの契約」
俺は、姫様と唇を重ねた。
その時間は実際の時間ならほんの一瞬だったのだろう。
だが、俺にはかなり長く感じられた。
ただ軽く触れ合っているだけなのに、それでもここまで長い時間くっつけ合っていると、変な気持になってきそうだ。
今が、戦闘中で本当に感謝したい。
いや、感謝は無いか。その戦闘の所為でこういったことしなくちゃいけなくなったんだし。
「モード、終了。一般化」
俺の世界が戻ってくる。
時は普通に動き出す。
大量のマズルフラッシュ。
俺たちは、ハチの巣にされた。
その数秒後、奴らは八つ裂きにされた。
サキの槍と、レフィの風魔法によって……。
待った土曇りの中。
現れるのは、穴だらけの俺の死体と無傷の姫様。……あと、下に落ちている大量の弾。
うん、まずは、状況の説明をしよう。




