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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第三章・兵士ですか、お断りします。
30/203

30話・無人島ですか、死にそうです。

  ―武元曹駛―


 はい。

 武元曹駛です。

 今、拘束されています。

 誰にかって? さぁ、そんなの知りません。

 まぁ、恐らく、姫様を暗殺しに来たやつらでしょう。

 いや、抵抗も試みたかったんですけどね。

 無理でした。

 いやいや、物理的には可能だったよ。

 でもねー、人質がいるとねー、ちょこーと難しいかな。

 そうですよ、なんたってテンチェリィが人質に取られてしまったんだよ。

 うん、今大ピンチ。



 数時間前―――ダイジェスト。


「それにしても凄いわね、本当に治るんだ」

「そうだろ」


 ちなみにこの時点で、レフィに一回殺されたあとです。

 その辺の草むらに連れていかれて、「後ろ向いてて」って言われて、後ろ向いていたら、布の擦れる音が聞こえて、ドキドキしていたら、頭蓋骨を破壊されていた。

 最後に見た光景は、血濡れの大きな石を持ったレフィだった……。

 最初に見た光景は、何事もなかったかのように辺りを見渡すレフィだった。


「それで、姫様とサキはどこだ?」


 二人の姿が見当たらないので、レフィに尋ねてみる。


「それなら……」

「姫様ならここだ」

「はい、ここに」


 そしたら、後ろからそう声がかかる。

 サキが姫様を連れてきたみたいだ。


「ありがとうございます、グルック様」

「いえ、そんなことは」

「本当に有り難うございます」


 姫様の瞳に涙が見えた。

 サキのこと、そこまで心配してくれていたんだな。


「あれ? そう言えば、テンチェリィは?」

「それなら、島の人を呼びに行かせたけど」

「島の人? ああ、そうか、まだ気づいてなかったのか?」

「なによ」

「ああ、ここは無人島だ」

「どういうことよ、グルック」


レフィが尋ねる。


「ここはセーアイランドじゃない」

「それは、どういうことですか? グルック様」


 姫様も尋ねてくる。


「姫様も、お気づきでないようで……」


 姫様、セーアイランド行った事なかったんだな。


「その、ここはバブルアイランドでございます、姫様」

「それは、あの、バブルアイランドですか? あの、無人島の」

「はい、ですので、ここは無人島です」


 うん、そうか。

 なるほど、気づいてなかったか。

 というか、テンチェリィを止めろよ。意識の無いふりとかやってる場合じゃないだろ。止めろよ、マジで。


「じゃあ、これから、捜索か?」

「まぁ、そうなるわね」

「じゃあ、探すか」


 と、探しに行けたらどんなに良かった事か。

 まぁ、個別に探して一人一人やられるよりは良かったんだけどさ。


「その必要は無い」


 男性の声。

 俺よりも低いその声は、森の中から聞こえた。


「お前らが捜してるのはこいつだろう?」


 そいつの右手には剣が握られている。確か、ククリってやつだっただろうか。

 まぁ、それに関しては問題ない。倒せば済む話なのだ。

 問題は、そいつの左手。

 左手には、テンチェリィがいた。

 正確には左手で押さえつけ、右手のククリを首にあてていた。

 テンチェリィは両目に零れそうなほど涙をためている。


「へい、ブラザー」


 馴れ馴れしく接してみる。


「なんだ、ブラザー」


 おっ、ノッてくれた。

 よし、交渉だ。


「なぁ、ブラザー」

「ああ、何だ」

「降参だ」


 俺は静かに手をあげた。




 現在―――


 と、大体こんな感じだ。

 いやー、分かっていたけど、人質って怖いね。

 異常なまでの戦力差でもないと、勝てなくなるよ。

 全員に魔封じの腕輪が付けられている。

 これは、レフィの付けてる首輪に近い感じで、着脱は取り付けた者しかできなくて、付けられた側は何もできない。そして、付けた人物が死ねば自然に外れる。

 なんとか、こいつら殺せば外せるんだが。まぁ、武器もないし、無理か……。


「なぁ、俺たちをどうするつもりだ?」

「まだ決まってない」

「まだ決まってないってなんだ」

「姫を殺してからだ」

「はあ……」


 今ここには、姫様がいない。

 きっと処刑かなんかするんだろ。

 ああ、どうしようかなー。

 なんか、みんな死にそうだな。

 俺以外。

 もしものことがあったら、文字通り皆死ぬことになるぞ。

 なんせ、俺が殺すからな。


「なぁ、どうにか見逃してくれないか」

「無理だな」

「そうか」

「おっと、変な真似はするなよ」


 首元に嫌な感触。

 また首元刃物だ。

 今日二度目だ。


「なぁ、お前の連れている女は随分と可愛いな」

「そうだろ」

「へっ、こんな状況でも自慢が出来るのか……」

「まぁな」

「じゃあ、これでどうだ?」


 ビリビリィッ。


 布の裂ける音。

 ああ、そうか、確かに。

 それはちょっと許せないかな。

 でも、どうしたものか。


「なんだ? 冷静だな」

「そうか?」

「ああ、そう見える。まぁ、所詮奴隷といった所なのか」

「そんなことはねぇよ」


 内心では、かなり焦ってるけどな。

 表に出したら駄目だろ。

 表面所要は常にクールな曹駛さんだ。


「それに、お前だけじゃねぇな、こいつらもやけに冷静だ、なんなんだ? お前ら」

「なんだろうな。俺にもわからない」


 その後も色々と煽られたが、適当に受け答えする。

 そうしていたら、ある時、突然、蹴られた。


「ガハッ……」


 目に映るは、半裸のレフィ達と俺たちを捕らえた男たち。

 うん、かなりストレス溜まるね。

 ストレスで、今すぐ死にそうなくらいだ。

 で、実際死にそうかな。

 もうひとつ目に映るものがある。

 それはククリ。


「じゃあな、お前を殺せば、あいつらも、ちったぁ泣くだろ」


 ククリは振り下ろされた……が、それが俺に到達することは無かった。

 安堵と同時に疲労感。魔力が底を尽いた時とも似たような感じだ。


「これは、お前がしたことか?」

「何を言っている?」

「だから、この草は、お前が生やしたのか」

「だから何を言っている、魔法は使えないんだろ」

「だが、これは、魔法じゃないか、それも、なんだ、この魔法は」


 ククリを持った男の脚は木の根っこのような植物と蔦のような植物で覆われていた。

 それに、俺の首元には、木の板が伸びたかのような植物が。

 ああ、これが出来る奴は一人。


「ううん、それをやったのは、ご主人様じゃなくて、私だよ」


 ドリアード。

 それは、間違いなく、俺の精霊の一人だった。

 だが、召喚だって、魔力を使う。この腕輪があるうちは無理なはずなのに。

 というか、そもそも召喚自体した覚えはない。


「あ、ご主人様、私の名前決まったよ」


 こんな時に言う事じゃないだろ。


「くっそ、なんだお前、いいのか、こっちには人質が……お、お前ら……」


 ぶちゅり、ぶちゅりと、音が聞こえる。

 見渡せば、木に潰されていく男たち。

 忘れてたし、俺とイフリートの陰に隠れてあまり目立たなかったけど、こいつ(ドリアード)もめちゃくちゃ強い奴なんだよな。

 イフリートがいなければ、俺も勝てるかどうか分からなかったし。


「お、お前なんなんだ」


 ククリを持った男は、急に怯えだした。

 まぁ、無理もない。あそこまで有利な状況が、ここまで不利な状況に一転したのだ。

 目の前にいる幼女がどれほどの力を持っているのか、それを知っただけで恐怖してもおかしくない。


「お、お前は一体なんなんだ」


 男が震えた声でそう言う


「通りすがりの……じゃなくって」


 訂正。

 なんか言いかけていたが、ドリアードはどこか誰もいない個所をなぜか向いて、舌を出して頭を右手でこつん。その時左手は腰に、そして少し前屈みに。


「てへっ……間違い間違い」


 と、言った。

 一体、何を意識しているんだ。


「わたしの名前は、シュツルーテル=クリムになりました、よろしくお願いしますね、ご主人様。私の事は、これからシュツルーテルとお呼びください」

「呼びづらいから、クリムで」

「ええっ、セカンドネームですか、やめてください」


 ぶちゅり。

 クリムが両腕を前下に、無い胸を挟むようにして突出しながらそう言った。その時、その裏で、ククリを持った例の男が圧死した。


「じゃあ、いいです、クリム=シュツルーテルにします」

「それでいいのかよ……」

「はい、それでいいです」


 いや、名前の良し悪しを聞くために言ったんじゃないが、本人がそう言ってるしいいか。

 クリムに、縄を解いてもらう。

 そして、解いてもらっている間に疑問を解消することにした。


「なぁ、クリム」

「なんですか、ご主人様」

「おまえ、俺が呼んでないのになんで出てこれたんだ」

「ああ、それですか、それはですね」


「私、自由に出てこれますよ」


「は?」

「だから、私、自由に出てこれるんですよ」

「それは、どういう」

「いや、わたし、ご主人様の魔力を勝手に使って勝手に出てこれるんです。ご主人様の意志は問わず、私の意志で出てこれるんです」

「じゃあ、今までなんで出てこなかったんだ」

「それは、ご主人様が私の事を長い間呼んでくれなかったからです。簡単に言うとご主人様の位置が分からなくなっていたと言うか、ご主人様との契約が切れかかっていたというか」

「マジか」

「はい、だって、ご主人様があまりにも呼んでくれなかったので、私から向かって行けるようになったんですから。そしたらですよ、ご主人様がどこにいるかもわからないし、契約は切れかかっているしで、本当に泣きそうだったんですよ」

「ご、ごめん」


 ああ、もうちょっとで契約解消のところまで行っていたのか。

 でも、呼び出しなしであっちからこっちに来れるとすると、もう、契約解消はないな。絶対にない。

 くそ、島流しにさえならなければ。

 なんて思っているうちに、縄は解けた。

 うん、やっぱり、縛られているのは良くないな。体が伸ばせないからな。

 と、伸びをする。


「さてと、じゃあ、腕輪も外しますか」


 実は、まだ腕輪が外れてなかった。

 つまり、この中に俺たちに腕輪をはめた奴らがいなかったと言う事だろう。


「よいしょ」


 腕輪を外した。というか、壊した。というか、壊す必要すらなかった。

 外したら、その直後にそっちの腕をクリムに食われたからな。

 まぁ、今回はあいつのおかげで助かったから、特別によしとしよう。

 クリムは、俺を存分に堪能すると、帰って行った。


「ねぇ、私のも外して、グルック」


 レフィがそう言ってきた。


「ああ、そうだな」


 そう言って、俺は右手でレフィの腕を持つ。

 そして、左手で腕輪に触れて、魔力を流し込む。

 すると、腕輪は崩れた。

 膨大な魔力量に耐えられなかったのだ。

 なんといっても、俺は、寿命と引き換えに魔力を精製できるので、実際はほぼ無限にあると言っても過言ではない。無限魔力の武元。なんちって。

 冗談はさておき、姫様を助けに行かないとな……。


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