24話・集合ですか、一人多いです。
―武元曹駛―
ここは港。
1年に一度サント・アンn……(殴り殺されました)
生き返りました。
「いってぇな、何しやがるんだ、朝っぱらから死んだぞおい」
「なんか、危ないこと考えていたでしょ」
「危ない事ってんなだよ」
「知らないけど、世界観の崩壊とか、権利問題とかが絡み合って面倒なことになりそうな事」
「なんだそりゃ」
「いや、知らないけど止めなきゃいけないって、天からのお告げが」
「いやいや、そんなもの有るわけないだろ、有ったらビックリだ」
「本当だって、殺してでも止めろってお告げが……それと、事実がそうならいいけど、嘘で作品を崩壊させるようなこと言わない事」
「は、はーい」
実にメタい会話である。
すごくやめてほしい。
「さてさて、港に着いたわけなんだが、姫様たちはまだいないようだな。船はもう来ているみたいだが」
「そうね、ちょっと来るのが早すぎたのかもしれないわね、この辺をちょっと歩いてみて回りましょ、港にはあまり来たことがないし、なんか市場もあるみたいだし、暇つぶしにはちょうどいいんじゃない?」
「それもそうだな、よし、そうしよう」
先頭にレフィ、それに続いて曹駛とテンチェリィが並んで歩く形で、港の市を見て回っていた。
「それにしても、集まるのはお昼ちょっと前って言ってたんでしょ、なんで朝に来たのよ」
レフィは、後ろにいる曹駛にそう言いつつ振り返ったのだが。
「なんか食べるか? テンチェリィ?」「はい、生牡蠣が食べたいです」「よしよし、いい子だ、いくつ食べる?」「大体6つくらい食べます」「分かった、俺が買ってきてやるからな」
曹駛は、全く話を聞いていなかった。
「テンチェリィ~、買って来たぞ、お前のために買うって言ったら、可愛い子のためならって、1個おまけに貰って7つになったぞ、やっぱりお前は可愛いな~、よしよし」
曹駛はテンチェリィを撫でまくっている。そしてテンチェリィもそれを嫌がる様子もなく撫でまくられている。
この光景を見たレフィは結構イラッときているが、市場のど真ん中で殺人事件を起こすわけにもいかないので、必死に耐えている。
「お兄ちゃん、その1個はお兄ちゃんにあげます、いつものお礼です」
「え、本当にいいのか? だって、これはテンチェリィが可愛いからっておまけに貰った物なんだぞ」
「いいんです、だからこそお兄ちゃんにあげる価値があるのです、買ってもらった物をあげるなんて言ってもそれは返したに過ぎないのです、だからこそ、そのおまけに貰った1個をお兄ちゃんにあげますです」
「あ、ありがとう、本当にいい子だなおまえは」
「そんなことねーです」
まぁ、実際は曹駛の金で買った物に付いて来たおまけなので、それがお礼になるかどうかで言えば微妙なのだが、こういう時こういう気持ちを受けたら嬉しいのだ。
だから、曹駛は人目を気にせずテンチェリィに抱き着いたりした。牡蠣を7つ乗せたお盆を持ちながら。無駄なところで実に器用な男である。
「美味しいな、これ」
「そうですね、美味しいです」
そして二人微笑ましく、生牡蠣を食べていた。
関係性だけ見たら親子のようにも見えるが、テンチェリィが曹駛の事をお兄ちゃんと呼ぶのと曹駛が随分と若若しく見えるので、歳の差のある兄弟に見えたらしい。
周りの人たちからしたら、物凄く仲の良い兄弟に見えたそうな。それに、曹駛も妹想いの良いお兄ちゃんに見えらしいのだが。
だが、一人だけ例外がいた。
そう、レフィだ。
レフィだけは、曹駛の事をまるでゴミを見るかのような目で見ていたらしい。
レフィから見たら、この二人は、気持ちの悪いロリコンと、それにベタベタとボディタッチされてはいるが、奴隷であるから逆らえない少女に見えた。
「あのね、グルック、テンチェリィに沢山食料を与えるなって言うのはもう諦めるとして、せめて私の話は聞いてね」
「あ、そうかレフィもいたのか、すまんお前の生牡蠣ねぇから」
(イラッ☆)
レフィがこう思うのもごく自然な事で、なんらおかしなところはない。
「………ちょっと付いてきてね」
「え、ちょ、ま、まって、まってぇ~」
曹駛は、レフィに人目のつかないところまで引きずられていき、5回ほど撲殺されて、2回刺殺されて、1回轢殺されたらしい。しかも、その間、レフィはずっと例の笑みを浮かべていたらしい。しかもどんどん息も荒くなっていったらしい。
女って怖いね。というか、レフィって怖いね。
そして、曹駛は生き返った。
「あ、お兄ちゃん戻ってきましたか」
「ああ」
「そうです。そうです、さっき、お姫様が船の前で待ってますって言っていました」
「もう来ていたのね。どうやら、やりすぎちゃったみたい」
「ああ、少し反省してくれ」
「ごめんってば」
「いや、ごめんって一般人相手ならそれじゃすまないぞ……普通な……」
「ま、まぁ、それは謝るから、今は姫様の元に行きましょ」
「そうだな」「そうですね」
「すいません、姫様、遅れました」
「いえいえ、いいんですよ、元はと言えば、私よりも早くいらっしゃっていたようですしね」
「ありがとうございます、あ、それと、一つよろしいですか」
「はい、どうぞ」
曹駛は、自分の中に有った素朴な疑問を問いかけてみた。
「その、姫様、姫様がいない間、国の方は一体どうなるのですか?」
「心配ありません」
「それはどういう?」
「私は、王位継承権をここで破棄します」
「は?」
思わず敬語でなくなる。
それもそのはず、フォルド王国第一王女であるコイチ=キ=フォルジェルド姫がとんでもないことを宣言したのだ。
そりゃ、曹駛も敬語を忘れてしまうというものだ。
その場の全員が硬直。
そして、少しして。
「ひ、姫様?それは、つまり次期女王にはおなりになさらないと言う事ですございますか?」
「ええ、そうです、グルック様」
「じゃ、じゃあ、姫様は……」
「そんなことはどうでもいいのです」
またとんでもないことを抜かしてきた。
自分の王位継承権をそんなこと扱い。
「それよりも、グルック様、その後ろのお二人は何者なのですかっ!!私は、一人で来てくださいって言いましたよねっ!!」
凄い剣幕である。
どれくらい凄いかと言えば、先ほど数回死んだ、過去、何度も死線を潜り抜けてきた曹駛が押されるくらいに凄かった。まるで殺しに掛かって来るんじゃないかというくらいの勢いであった。
「いや、姫様。姫様は道具はもちこみOKと言ったではありませんか」
「ま、まさか、その女性たちは、道具だと……」
「いや、そうは言いませんが、一般論で言えば奴隷は道具です。それに、この二人は私の奴隷ですので、道具という判定でよろしいでしょう」
「っく……反論できませんわ……」
「なので、この二人は連れて行きます」
「わ、分かりました……では、点呼を摂りましょう」
「点呼?」
「はい、ちゃんと人数がいるかどうかの確認です、では、1」
そう言った姫様に続いて、曹駛、レフィ、テンチェリィの順で番号を言っていく。
「2」
「3」
「4」
「5」
よし。
ちゃんと全員いるようだ。
と、曹駛は思った。
俺で一人、姫様で二人、レフィで三人、テンチェリィで四人……むしろ多いくらいいる。
これで大丈夫。
と曹駛は思いかけた。だが……
「待て待て待て、5ってなんだ。誰だよ」
と、曹駛は言った。
そう、五人いると言うのはおかしいのだ。
それに対して、答える人物がいた。
「私だ」
そう、そう答えて物陰から出てきたのは、自称女騎士である近衛隊隊長である、サキ=フォールランス=カムラであった。




