23話・島流しですか、準備します。
意外と間違って伝わったことが後世では正しくなってたりするものです。
実際後の世になってしまえば、何が正しかったのなんて分からないですからね。過去の遺産に記してあることがどの程度嘘であって、どの程度事実であろうと、それを事実として考えるしかない訳であって、他に推理材料があるパターンはあまり多くないですからね。
―武元曹駛―
はい、島流しになるらしいグルックさんです。流罪です。とても重い罪だそうです。と、言ってもはるか昔の刑なので詳しくは分かりません。どうやら姫様も詳しくは分かっていなかったみたいですが……。
姫様は、一人で来てくださいと言っていたのですが、道具の持ち込みはOKらしいので、レフィとテンチェリィを連れて行こうと思います。
奴隷は道具という一般論を何とかすればきっと連れて行けるはず……。
後は、装備とかだろうか。もしものことを考えたら、そういった物は持っていった方がいいだろう。
えーと、たしか流され先は……この国から一番近い沖の方にある島だった気がする。
確か大きい島と小さな島があるんだよな。
で、今回流され先の島は大きい方で、確か、名前が……セーアイランド、だっけ?
ちなみに、今回行かない方の小さな島はバブルアイランドだった気がする。
俺はどっちも言った事が無いので詳しいことは分からないが、俺たちの行く方の島は無人島ではなく、普通に人が住んでいる所だ。それも、王族・大貴族御用達のリゾート地だ。
最早、刑でも何でもない。あの姫様、完全に楽しむつもりである。
さて、それはおいておくとしても、この事をこの二人にどう説明すればいいのだろうか。
とりあえず、こう言おう。
「おい、レフィ、テンチェリィ、リゾート行くぞ」
間違ってはいないはず。
「え、そ、曹駛、お金は節約するんじゃないの?」
「そうですよ、そんなお金有るんなら、もっと食べ物をくだせーです」
二人がそう言う。
確かに、ごもっともだ。
それと、テンチェリィがそう言ったのは、間違いなく、今まで食べ物を大量に与え続けていた俺の所為なので、少し心が痛んだのだが、ここは落ち着いて対処しよう。
あと、ついでに言うが、なぜかテンチェリィの体型も見た目も変わっていない。
摂取した栄養素は、一体、彼女のどこに行っているというだろうか。
「それについては大丈夫だと思う」
「なにがよ」
「そうです、なにがです」
「いや、説明不足だな、俺は昨日罪を科せられた」
「あ、あなた一体なにしたのよ、そう言えば昨日、『姫様が俺を呼んでいる』、とかなんとか突然叫んで飛び出していったし、はっ……まさか……」
「ち、違う違う誤解だ、レフィ、それはお前の誤解だ」
「誤解ですか? そうですか、じゃあ、昨日はなにしてたんです? 私のご飯も用意せずに一日中家を空けておくなんて、ひどいです」
「いやいや、犬じゃないんだから、飯ぐらいは自分でなんとかできるだろ」
「………」
「え?」
「………」
「で、出来るよな?」
「………」
「う、嘘だろ」
「いや、しかたないでしょ、その子、料理だけはからっきしダメなのよね」
「ま、マジかよテンチェリィ」
「はい」
そう小さく呟いたテンチェリィは大きく頷いた。
あんなに食べるのに、まさか料理が出来ないなんて……。
この子を買ったのはもしかして、ミスだったのだろうか。
まさか、まさか、奴隷の癖にごく潰しだというのか……、食べている姿が可愛いから食べさせまくっていたけど……ご、穀潰しなのか……。
ど、どうしたらいいんだ。本当にどうしたら……
「まぁ、でも掃除は物凄く得意だから助かってはいるわよ」
「そうなのか、ならよし」
前言撤回。
うん、一つ得意なことが有れば十分だろう。
穀潰しじゃない。そもそも、あんなに可愛い姿を見せてくれている時点で穀潰しではないだろ。うん。
テンチェリィは俺に癒しを与えているんだ。その対価がどれだけの物だとしても、それは穀潰しではない。
どっちかと言うと天使に近い。
ほら、神様になんか願うときだってお供え物するだろ。そんな感じで、なんか食べ物を捧げるとむしゃむしゃと食べて、俺に癒しを施してくださる感じに近い。
でも、ほら神様と言うよりは天使みたいじゃん。だから、テンチェリィは天使。異論は認めない。その異論の唱え主がだれであろうと俺は説得してやる。テンチェリィは天使だと……。
この可愛い姿はテンチェリィが天使である内しか見ることは出来ない。この子は成長したら、きっと女神になるだろう。でも、それは天使じゃない。あの光景は今しか見られない。だから、節約するためにこの子の食糧費を削るなんて間違いだったんだ。
そうだ、だから、今を、今だけの癒しを得るために、今、この子への食べ物規制を解禁する。
俺は、心の中でそう決心した。この決心は揺るがない。揺るがせない。
「そ、曹駛、顔気持ち悪いわよ……その、なんて言うか、気持ち悪い」
「そうですか? 私がご飯の食べているとき、お兄ちゃんはいつもあんな顔していますけど……」
「げっ……マジで? そ、曹駛、やめた方がいいと思うわよ、そのロリコンなのはわかったけど、それを外に出すのは良くないと思う」
「ロリコンじゃねぇよ、何言ってんだ」
くそ、人が黙っていりゃ好きかって言いやがって。
「じゃあ、私の事好きじゃねーんですか?」
テンチェリィが涙目でそう訴えかけてきた。
……無理、ここで嫌いって言えない。
「そんなことないさ、好きだテンチェリィ」
「お兄ちゃん……」
俺は、テンチェリィを抱きしめた。強く強く、逃げられないように、逃がさないように、もう離さないくらいの気持ちで、抱きしめた。
「い、痛いよ……」
「わ、悪い」
「ううん、いいです。むしろ、嬉しかったです」
「そうか、俺も嬉しいよ」
「ロリコン……」
その一言は、この俺とテンチェリィだけの世界を一瞬で崩壊させるだけの威力があった。
「ぐはっ……」
俺は吐血して、その場に伏した……。
「まーた血糊? どうでもいいけどそれ綺麗にするの私たちなんだからやめてよね」
「お、お兄ちゃん……」
「あんたも乗らない、この曹駛が調子に乗るだけだからね、それ」
「大丈夫だ二人とも、本当は血糊なんか持ち歩いていない」
「え、じゃあ……まさか……」
「お、お兄ちゃん?」
「おう、思いっ切り舌を噛んで血ブッシャ―しただヴぇ……」
再度吐血。
理由は喋っている途中にレフィに思いっ切り頭を叩かれたからだ。
小休止。
「いや、死ぬかと思った、やめろレフィ、死ぬだろ。ていうか死んだだろ」
「あっそ、これ案外ハマるかもね、私の知らないところで知らないやつに殺されるのは否やのに、私が殺す分においては、なんかこうスカッとするというか、妙に快感を覚えるわ」
「な、なんだそれ、お前狂ってやがるぜ」
「いや、まあ冗談よ」
ぜ、絶対に冗談じゃねぇ……。
だって、顔がマジだもん。なんか恍惚の笑みを浮かべていたもん。本人隠しているつもりだったかもしれないけど、全然隠しきれてなかったもん。八割方表の方に出てたもん。
テンチェリィもビビッてちょっと涙目になってるし。
「そ・れ・よ・り」
「「ひ、ひぃ……」です」
怯える俺とテンチェリィ。
「なにそんなに怯えているのよ、まさか、さっきの事?だから、あれは冗談だって、間に受け取らないの」
「う、うん」「は、はいです」
「よし、じゃあ、質問するけど、さっき罪を科せられたって言ったけど、あんた、姫様に手を出したわけじゃないわよね、姫様はなんかまだ幼さを残していたし、あんたが手を出すのが分かるほどの容姿だったけど、まさか手は出していないわよね」
「いや、俺はろ……いえ、なんでもないです」
ロリコンじゃないと否定しようと思ったが、レフィの視線がそうはさせてくれなかった。
てか、こえーよ。これじゃ、どっち主人でどっちが奴隷か分からねぇよ、奴隷同士で一発やってそれがばれたみたいな関係になってるじゃん。え、これ実際に立場が逆だったら俺一体どうなっていたんだよ。
「その、つ、罪は、えーと……」
「なによ、なにをしたの?」
「いや、その、えーと……」
良く考えたら、この流刑の原因は姫様の裸を見た事が原因だった。実際はいろいろとあって、俺はほとんど悪くないんだけど、強いて言うなら「うん」って言いまくったことが悪いくらいなんだけど、実際に罪の根源にあるものを事細かに話したら、俺はロリコンになってしまう。くそ、違うのに……。
と、とりあえず、誤魔化そう。
「その、ですね、特に何もしてはいないんですよ、実際のところは濡れ衣みたいな感じなんですけど……その、罪で言えば、島流しです」
「へー……で?」
「で?と、言いますと?」
気づかぬうちの敬語モード。
「だから、何をしたの?」
「いや、だから冤罪でございまして」
「で?」
「いや、えんざ「で?」……」
「そ、その「で?」……」
誤魔化させてくれない。
え、これ、言わないとなのかな。
あの、大規模ロールプレイングとかで村人Aとかの役に選ばれてしまった人みたいに、正しい答えを出すまでずっと同じことを言ってくるあんな感じなのかな。
だとしたら、言わないと終わらないよね、これ。
え、じゃあ、俺は今日からロリコンデビューになるの?
嘘だろ……こんなところで俺の人生は狂ってしまうのか?
でも、この状況見ると……生き地獄かロリコンかの二択のように思える。
なら、俺はロリコンとして生きる道を選ぶ。
要は心の持ちようだろ、周りに何と言われようが、心の中ではロリコンじゃないと自分に訴え続けよう。そうしたら、何時か周りも分かってくれるはずさ。
「そ、その、姫様の、裸を見ました……」
「よろしい、死刑」
「ぐはっ……」
俺、元兵士、死にました。
死因は、撲殺。思いっ切りトンカチで後頭部を叩かれたことにより、脳みそぶちまけながら死にました。
死に際、テンチェリィの目をなんとか手で防げたのは、我ながらよくやったと思います。彼女に見せるにはまだ早すぎる光景ですからね。
それと、俺、元兵士、生き返りました。
「で、曹駛」
「はい、何でしょう」
正座。
テンチェリィにはさりげなくこの場を離れるように言っておいた。
テンチェリィもここには居座りたくないようでどこかに走り去っていった。
よし、これで安心だ。この先の光景はテンチェリィには少々過激すぎるかもしれないからな。
「それで、島流しにあったわけだが、お前はそれでリゾートに行けると言っていたが、どういうことだ?」
「それはですね、姫様が島流し宣言しまして、その島流し先がセーアイランドなのですよ。ただでさえ大昔の刑罰ですのに、その行き先がリゾート地ですし、一人でことまで……あ……」
いかん、言わなくていい事までポロリと……。
「そうか、とりあえず、もう一回死ねロリコン」
ぐしゃり。
セロリの潰れる音。
実際はもっとえぐいのだが、仕方ないだろ。これがソフトな表現なんだから。
それと、俺、生き返りました。
「で、それは分かったから、もういいとして、昨日本当に何もなかったのね」
「は、はい、それは約束します、確かに同じベッドで裸同士で寝まし……た……けど……ち、違うんです、それを、まずはそれを下ろしましょうレフィさん」
口を滑らしたら、死ぬのか。
人間の命って儚いね。
ああ、そのね、絶命する音が聞こえるんだよ。
グシャ、グチャ、ってね。
もう、嫌になっちゃうよ。
あ、それと、生き返りました。
「ふーん、で、曹駛」
「は、はい、お次は何のご用でしょうか」
「そのリゾートに、私たちは連れて行っていいの?」
「あ、はい、大丈夫なはずです。道具の持ち込みがOKだと許可を得てまいりましたので、一般論である奴隷=道具というのを持ち出せば、きっと大丈夫でございます」
「ふーん、そういう時だけは便利なのね、っていってもこんなこと滅多にないどころじゃないんでしょうけど」
「そうでございますね」
「それとね、曹駛」
「は、はい」
あれ? ロリコンって呼ばれなくなった。
た、助かったのか? 俺。
じ、地獄から脱出できたのか。
今日だけで5回死ぬとは思わなかった。それと、平和な日常でもこんなに死ねるとも思わなかった。
とりあえず、たすか……った……?
安堵感がすぐに恐怖に変わっていく。
理由としては、レフィの表情が、俺を殺すときのあの恍惚の笑みに変わりつつあったからだ。
まるで悪魔のようだ。
今のレフィは、そう表現するのが一番しっくりするであろう人に見える。
一般的な奴隷は主人に対していつもこんな想いを抱いているのだろうか……。
悪魔の口がゆっくりと開かれた。
「敬語は気持ち悪いからやめてって、いつも言っているよね、私」
本日6回目の死亡をとげました。
このあと4回ほど死んで祝10回とかなるんですけど、それはまた別の話です。
それと、島流し先に持っていく物とかの準備しました。
レフィさん病み状態から治りきってなかった……。
それと、出来るだけ更新を頑張りたいということと、ここから当分ネタ話になりそうな雰囲気があるということをば。
それにしても、レフィさんは曹駛が好きなのかどうなのか分かりませんね、まぁ、どうせあの態度だからいくら容姿が良くても……ん?来客のようだ。




