200話・情報と帰路
誤字報告ありがとうございました。非常に助かります。
毎度短めで申し訳ないです。
―武元曹駛―
メルメストローは何とか倒したが、思った以上に寿命を使ってしまった。
見た目の上では互いに無傷。だが、実際は違う。こちらは使える寿命はそこまで多くはない。一方で鷸は今のところ全くモンスターを呼び出していない上、麻理の魔法を学習されている。
戦況は圧倒的に不利。
だが、鷸は相も変わらずやる気を見せず、ぼけーと突っ立っているだけである。
「それで、お前はどうするんだ?」
とりあえず構えは取りつつ、鷸の方を見てそう尋ねる。
「ん、どうするってどういうことだ?」
鷸は賢者の石を撫でながらやる気のなさそうな声でそう返してくる。
戦闘の意志は疎か、あらゆるやる気が感じられない。
「戦うのかって聞いてるんだが。明らかに手を抜いた様子だったし、まだ続けるのか」
「そうだな……やめていいのならやめるが」
「は?」
想定外の台詞に思わず呆けてしまいそうになったが、どうやら会話自体は出来そうだし、交渉するだけしておくのは悪くないかもしれない。
「あ、いや、あまり、戦いたくないってのは本当だが、こっちは情報が欲しいんで戦わざるを得ないとも思うんだが……」
「ふむ……」
鷸は顎に手をあてて、考えるようなそぶり見せる。
どう出る……戦わないで済むならそれに越したことはないが、何も情報が得られないのは困る。
上手い事やって寿命を節約しながらもある程度情報を手に入れられれば一番いいのだが、普通に考えて難しいだろうな。
「なるほど……情報か……」
そう言った鷸の手にいつぞや見たナマコが表れた。
「何をするつもりだ」
鷸は返答の代わりにナマコを放り投げるようにしてこちらに渡してきた。
「受け取れ……」
「なっ、ちょ……」
受け止めたあと、落としかけたが、何とかキャッチすることに成功した。いや、こんな脆そうな生物投げて渡すなよ。キャッチに失敗しただけで死にそうなんだけど。
「お前、こいつは……」
なんだ……という言葉を続ける前に、鷸が話す。
「おおよそだが想像はつく。あのエルフのことだろう」
こちらの言葉には興味もなさそうにしながら、彼は賢者の石を仕舞いこちらに背を向けた。
首だけ傾けて視線だけこちらに向け、話を続ける。
「お前の探しているエルフの娘は、今、本部にいる……と、思うが。どうだろうな、上が何も行動に移ってなければではあるからな。行くなら急げ」
「本部って言われても……」
「位置はその投影ナマコを通してみろ。ある程度は分かるだろう。魔法のラーニング代としてそれくらいは教えてやる」
鷸はそう言って視線すらもこちらから外した。
「な、おまえ、ちょっと待て」
「それじゃあな」
「ぐっ……」
風が吹き、巻き上がる土埃で一瞬視界が隠れた。
「そいつ、あまり寿命が長くないから気をつけろよ。長持ちさせたいなら海水にでも着けておけ。使い方は……まあ、その辺を押してれば多分反応する」
そう言う鷸は、いつの間にか現れたドラゴンの背に乗って空にいた。
「待ちなさいっ!」
麻理はそういうも魔法を放ったりはしていない。攻撃が無駄であると分かっているからだろう。生半可な攻撃じゃ通用しないし、強力な攻撃で倒したとしてもまた呼び出されたらそれで終わりだ。
「お前、何のつもりだ」
「何のつもりだと言われてもな。何のつもりでもない。強いて言うなら気まぐれだ」
「待てッ、というか、その辺を押すってなんだ、おい、待てって」
「じゃあな」
鷸はそう言い残し、その場を去って行った。
「あー、くっそ、まったく……」
遠ざかって行く鷸を見ながら、ナマコをどうしようか考える。
「こいつどうしようかな……」
「とりあえずは何か容器に塩水と一緒に入れておきましょう」
「いや、まぁ、そう言うつもりの言葉じゃないんけど……でも、やっとかなきゃか」
こういったことに寿命を使うのはもったいないような気もするが、けちって手に入るはずだった情報を落としたら勿体ない。
土魔法で容器を作り、水魔法で容器を満たす。
「塩はどうするかな……というか、どれくらいの濃さにすればいいんだ」
「あの人が召喚したという事は一応はモンスターでしょうし、適当でも大丈夫では?」
「ま、それもそうか……どっちにせよ、塩ないんだけど」
淡水につけて大丈夫なのか分からないが、モンスターだし、水の外に置いておくよりはマシだろうととりあえず容器の中に入れておくことにした。
「とりあえず、拠点に戻るとするか……テレポートをしたい気持ちはあるけど、寿命の消費も抑えたいし、こいつがテレポート耐えるか分からないから、気持ち急ぎ目で帰るとするか」
「召喚には耐えるようですし、大丈夫だとは思いますけど、そうですわね。」
エルフの里に近づかないように大きく迂回して街まで戻ることにして、森の中を走っていた。
途中、モンスターを見かけもしたがナマコの事もあるし、気付かれないように隠れながら通り過ぎて行った。
容器の中の水がちゃぷちゃぷ揺れて、運びにくいったらありゃしない。こぼれたり飛び跳ねたりした水で結構服がぬれてしまった。
「そう言えば、どうだった」
「何がですか」
麻理が呆れたような声で言う。
「悪い、内容を省きすぎたか」
「いえ、なんとなくは分かりますわ。里で得られた情報の事でしょう」
「ああ」
大きな木の根っこを飛び越えて、飛び跳ねた水と容器で、ナマコを手でふんわりと受け止める。ナマコはそっと容器に戻してやった。
「残念ながら、有用な情報はありませんでしたわ。里について少し詳しくなった程度ですわね」
「なるほどな……まぁ、レフィ以外のエルフとは、能動的に関わることはないだろうし、無用の長物か」
「……鈍らないでくださいね」
麻理が事も無げにそう喋る。
「今更だな。暇があれば考えることはあるかもしれないけど、それで思い悩むようなことはしない」
「お兄様は変なところで考え過ぎる気がありますから。あれは、あくまで戦闘をした結果、彼が負けて、私達が勝っただけ。戦えば普通はどちらかが死ぬ。ただそれだけですわ」
「知っているさ。知ってるだろ、俺は元兵士だぜ。お前より良く知っている。シェイクに会うときは気まずくなるだろうし、レフィと話すときに奴の顔がちらつくこともあるかもしれない。だけど、それで行動を変えることはない。そうじゃなきゃ、さっき、あいつを殺したりはしなかった」
「そうですか……」
「なにより、さっきも言ったけど、今更なんだよ」
「……そうですね」
そこからは言葉を交わすこともなく、ただ足を動かす速度を上げるだけだった。




