199話・復讐と結末
―武元曹駛―
「貴様……貴様だけは……」
目の前の男エルフが震える。
その声色からにじみ出る怒りが肌を逆立たせる空気を創り出す。
「貴様だけはッ、この手で殺すッ!」
岩や土で作られた様々な物がこちらを
「ああ……なるほどな。古株ってことだよな。うん、いや、関係ないか。まぁ、でもあの時に里にいたって事だよな。いや、まぁ、俺が悪いわけだし、はぁ……でも、申し訳ないがやられてやるわけにはいかないな……、気持ちとしてはやられても良いと言えばいいんだけど」
回避をしながら、ちらりと麻理の方を見る。
「今はやることがあるし、俺は死ぬことだって先約があるんでね、お前の言うことはきいてやることはできない」
ポケットから金属片などを掴みとり、ばら撒く。
「金属爆弾」
あらかじめ媒介を用意する分、使用魔力が少なく使いやすい魔法だ。
一斉に爆破し、相手の魔法を防ぎながら土煙と爆破音で身を隠しながら追加の金属片を掴み、エルフの男がいた方向に投げつけた。
バツッ、バツッ、バツッ……
何かに当たる音が耳に入るとともに魔法を起動した。
「一旦退くぞ」
「ええ」
麻理に接近してから声をかけ、戦場を離脱しようとした。
「逃がさんッ」
強風が吹き、視界が開ける。
それをしたのは間違いなく、風によって道が出来るや否や、目の前まで距離を詰めて来た男の仕業だ。
「殺す」
「させてやる訳にはいかない」
突き、蹴り、土魔法、杖による斬撃、風魔法。
その全てをぎりぎりでかわした。
「くそ、忌々しい、忌々しいっ!」
「まぁ、見逃してはくれないか……じゃあ、やっぱ戦うしかないな」
ここまでのやり取りで分かったが、何を考えているか鷸はあまり手を出すつもりはないようだ。
強いには強いだろうが、麻理と俺の二人でならば、問題なく倒せる範囲だろう。
「本当に悪いな。また……またエルフを殺すことになるのか……」
レフィの顔が頭にちらつくが、だが、ここは倒さなければどうにも動くことができない場面だろうし……きっちりとどめを刺さなければ、今ここで出会ってしまった以上、ずっと付きまとって来ることは間違いないだろう。
「なに?」
「本当に悪いな。だが、お前を殺すのが現状では最善だ」
鷸は……魔法を見せてやれば動いては来ないだろう。本当に何を考えているつもりなのかは分からないが。
「そして、多分この状況であるならば、それは安定して、かつ、成功確率の高い選択肢だ」
「舐めるなぁっ!」
土魔法、物理攻撃、そして風魔法。どれも堅実な攻撃で、精度も高く、かなり強いことが分かる。
だが、彼には致命的な弱点がある。
「お前は、戦いになっても俺への憎しみと怒りを持ち続けている」
「それがどうした」
返答を返してきながらも、攻撃の手は止むことはなく、むしろ苛烈さを増していく。
「ああ、それ自体には問題ないさ、でもな」
触れれば瞬時に鳥もちのようなものに変化する液体を作りだし、攻撃に合わせ浴びせかけるそれと同時に、俺自身も大量に浴びる。
「兵士の中にもいたけど、お前の戦い方は優等生タイプだ。天才タイプでも、豪胆タイプでも、奇天烈タイプでもない。だから、その感情とは相性が悪いんだ。せめて戦い方を変えられるなら、もっと厄介だったかもしれないけど」
液体は強い粘着性を持って俺とエルフの男をその場に縛り付けた。
「麻理、余りケチらずにでかいの撃ってこい」
「……なるほど、では」
こちらの考えていることが伝わったようで、麻理は詠唱を始めた。
鷸は妨害ができるはずだが、してくる様子はない。
「お前、俺と死ぬ気か」
「まぁな、だが、俺とお前の違いは生き返れるかどうかだ」
「な、くそ……」
抜け出そうとするがさせるはずがない。
「逃がすかよ、何のために自分をまきこんだと思ってるんだ」
「貴様……」
「悪いな、俺達の命も痛みも安いんだ。高速復活は結構高いんだけどな」
どうやら古株ぽかったし、レフィに恨まれるかな……。まぁ、そうなったら、麻理と心中する際の介錯を頼むという形にはなるけど、本当に殺されてもいいかもしれないな。
「……天焦弾」
麻理の手元に現れた白い塊から高熱の強風が放たれる。
あれは、膨大なエネルギーを圧縮した球だ。それが突然現れた事によって、空気が急激に熱せられた結果の爆風にも近い風だろう。
ここまですれば鷸も動くかとは思ったが……動かない。
「魔法の開発、改良は、私の方がお兄様ではなく、私の領分ですものね」
そして、エネルギー球が放たれる。
超圧縮されたエネルギーを崩壊させないためかその速度は緩慢で、普通なら絶対に当たらないものであるが、動かない相手に当てるのならば全く問題はない。
そして、その魔法が当たった途端、俺とエルフの男性の肉体はこの世から消滅した。
そして、寿命の消費は痛いが鷸がいる以上やらざるを得ない瞬間復活で俺だけが生き返った。




