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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第十二章・これからとここから
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198話・ピンチと助っ人

 ー武元麻理ー


 メルメストローから攻撃は土人形で受けて、鷸の周囲に展開している黒からの攻撃は私の魔法で打ち消す。


「さて、いつまで持つかな」


 そう言った鷸はやる気のなさそうに欠伸をしながら本を取り出して読み始めた。

 普通の戦いの場においては、非常に苛立たせるような相手を侮辱した行為ですが、この場においては、状況的にも私個人の感情的にも非常に助かるところだ。


「おい、お前、真面目に戦え」

「これでも真面目なつもりではあるが」

「真面目な戦闘で本を読むやつがどこにいる」

「そんなことを言われても、俺の戦闘スタイルでは共闘はあまり向かないのでな。出来る範囲ではこれが一番人に合わせられる戦い方だろう」


 鷸はちらりと一瞬だけメルメストローに視線を向けたが、すぐに手元の文字に目を落とした。


「里の干渉にそこまで積極的じゃないから、伝達役にはちょうどいいと思っていたんだが、共に戦うとなると、話が別だな。戦意に関わってくる」

「戦意の有無なんて大して影響しないだろう。せいぜい引き際が変わるくらいだ」


 意識を本に向けたまま鷸がぶっきらぼうに言葉を返した。


「まぁ、いい、どうやら、警戒するほどには強くないようだしな。俺一人でもなんとかなるか」


 メルメストローはそう言って杖を構えた。


「あら、随分と舐められたものですわね。確かにお兄様ほど私は強くはないですが、あなた一人くらいなら何とかなりますわ」


 そう言って、土人形に剣を向けさせる。


「かもしれんが、残念ながら、そうはいかないな。俺がいるからな。お前一人では何ともならんさ」

「文句を言いたいところですが、その通りなので言い返せないのが非常に悔しい所ですわね」


 未だに本を読み続ける鷸に杖を向けた。


「油断していると、足元を掬われますわよ」


 地面から槍を発生させ鷸に向けるが、鷸を守るように黒が展開され、すべてをへし折られる。


「大丈夫だ、俺が油断していても、グノーメが何とかしてくれる」

「それは随分と心強いパートナーですわね」


 そう言いながら様々な魔法を放ったが、全て同じ魔法で相殺されてしまう。

 先ほどから何度も見ている光景だ。

 土人形でメルメストローにせめて出ても、私に向かって放たれた魔法や、強力な魔法を受け止めているせいで、なかなかその剣が彼に届くことはない。


「厄介ですわね」

「それはこっちのセリフだ。さっさとやられてくれれば楽なものを」

「それはお互い様でしょう」

「違うな……」

「がっ……ぐっ……うっ……」


 隙を突かれて、ソードメイクで作ったであろうその刃で腹を貫かれる。すぐに離れるが傷が深い。血の気と意識が薄れていく。この二人を相手に気を失うのは非常に不味い。

 死んでしまえば復活するまでに時間がかかる。急速蘇生は無駄に寿命を食ってしまう。なので、意識が持つ限りは致命傷は修復しないといけない。

 鈍くも鋭い痛みが気絶することを許さない。苦痛にはとうに慣れている。だから、この感覚は非常に助かる。気絶しないで済む。


「くっ……」


 風魔法で見えない刃をメルメストローに飛ばすが、地面から生えて来た土の壁で阻まれた。


「本当にやりにくい相手ですわね」


 この壁を作ったのは賢者の石だ。せっかくの隙を突いたというのに、防いで来るとは非常に厄介な相手だ。しかも、あれがある限り不用意に魔法も使えない。

 今、私の土人形の魔法をコピーしてこないのは温情か何かの奇跡か分からないが、これを真似されたら終わりだ。


「それこそこっちに台詞だ。明らかな致命傷。なのに、なぜ死なない……どころか倒れもしない。傷は既に治ってると来た。もうこれで三度目……いや先日の村での事を含めたら四度目か……」

「あら、覚えていらしたの?」

「忘れるものか、仕損じたとは思えないのにもかかわらず、お前は躱したという。明らかに胸を貫いたはずなのに、怪我しているのは肩だけときた。注意しないはずがない」


 まだ、大丈夫ではあるが、このままではジリ貧……

 攻撃はこちらが一方的に受けるだけ……この状況を何とかしなければ……負けるのは必至。


「出でよ、たった一人の姫しかいない国のおもちゃの兵隊」


 使わざるを得ない。この術をコピーされるのは怖いが、しかし、姫に忠誠を誓いし最強の騎士を既に見せている以上、これは誤差だろう。だが、寿命の消費が手痛い。ここまで三回も殺されているとすると、このまま戦うよりはましかもしれないが、それでもていたい消費ではある。

 寿命自体もそうだが、ここで虎の子の札を一枚使わされたのも手痛い消費だ。

 ちらりと鷸の方を見る。気を見ているのか手を抜いているのか、同じ魔法を使ってくる気配はない。

 いや、もしかしたら、私を圧倒しない程度に追いつめておいて私の魔法をあの賢者の石にコピーするのが目的かもしれない。

 その思惑に乗っかるのは非常に不本意だけれども、このままじわじわと追いつめられていくと私は手持ちの強力な魔法を切らざるを得ない。


「本当に厄介ですわね……」


 土人形の兵隊たちはメルメストローにどんどんと破壊されていく。

 鷸、いや、そのパートナーのグノーメも近づく兵チアを魔法で破壊していく。


「そんな大規模に作ったものではないとはいえ、この速度で削れるとは、やりますわね」

「そりゃ、当然だろ。そんな意志の人形、それも精度も微妙な数だけのものに、苦労はずがないだろう」

「かといって本を読まれながら対処されると、非常に腹が立ちますわね」

「別に俺が対処している訳じゃない。基本的にグノーメがやってくれているだけだ」

「なお、むかつきますわ」


 それは本来三対一になっていたところを、彼が手を抜いているおかげ二対一で済んでいる。しかも、それに随分と助けられているということが更に苛立たさせる。


「弱いとはいえ、数がいると大変だな」

「まぁ、多分そういう魔法なんだろうしな。雑兵相手にするなら強さは十分、普通に使うなら随分と有用性は高そうだがな」

「やはり、私の魔法を引き出すのが目的でしたか」

「まぁ、副次的にはな……」

「副次的……? ッ……もう⁉」


 こちらに攻撃するだけの余裕が出来たのかメルメストローが岩を飛ばしてきた。

 あわてて回避をしたが、読まれていたのか、もう一つ飛ばしていた岩に足を砕かれた。


「くぅ……あっ……」


 立ち上がろうとするも、足に力が入らない。

 ぐらついて膝をついてしまう。そこを隙と捉えられたか、メルメストローが迫ってくる。

 対応するために残った兵の大部分と騎士を向かわせる。

 いくら近接も強いとはいえ、魔法タイプ。数の暴力で押さえてしまえば時間稼ぎくらいは何とかできる。

 多くを破壊されつつも兵達がメルメストローを押し返すのを見ながら、足をギリギリ立てるくらいに治療しつつ立ち上がる。

 ある程度は動かなければいけないとはいえ、私自体も魔法タイプ。だから、とりあえずは動ければいい、寿命の節約と速度重視で中途半端な治療をしても、痛みさえ堪えれば問題はない。


「あ……がっ……」


 しかし、また膝を付いてしまった。血液で滑り落ちるように。


「五度目だ、まだ生き返るか、化け物」


 油断。油断も油断。 死角からの一撃。さっき私が打った土の槍。それと同様の魔法で背中から一突き……。生き返るにしてもこの槍を何とかしなければ……

 土魔法で破壊して、無理やりに胸に刺さった土の槍を抜き去った、幸い血でぬめっているおかげで、膝を付いた時と同じように簡単に抜き去った。


「ふむ、傷口を何かで塞がれていては復活は出来ないか……」

「それは分かりませんよ」

「お前の言葉を信じる訳もないだろう。どちらにせよこちらとしてはそう考えてさせてもらう。幸い、その弱点は俺の得意な土魔法と相性がいい」


 傷口がふさがれたとしても生き返ることはできる。だが、時間がかかることには変わりない。弱点であることには変わりない。


「そうだとしても、私はそう何度もしてやられたりはしませんよ」

「そうは言うが兵士はすべて倒したし、鬱陶しかった騎士役の土人形も……これで終わりだ」


 大きな隙を見せていた私を守ろうとしていた騎士はそれが自身の隙になったか穴だらけにされた。


「っく……」

「さて、曹駛の妹は次にどんな魔法を見せてくれるのかな……それとも……」


 鷸は本をしまい、視線をこちら……違う、その上に向けた。


「それともだ……お前が見せてくれるか? 何か物珍しい魔法かそれっぽい何かを」


 鷸は視線を逸らすことなく一点を見つめたままそんなこと言った。


「ああ……お前にはばれていたのか、じゃあ、さっさと降りるとするか」


 どうやら木の上に潜んでいたらしい彼はそういうと私の目の前に着地した。


「……妹のぼろぼろになる姿をずっと眺めているだなんて、異常性癖でもお持ちですの?」

「いや、そういうつもりはなかったんだけど、さっき着いたばかりだし」

「まぁ、そういうことにしておいてあげますわ」

「別に嘘言っている訳じゃないんだけどな」


 最高の助っ人が来てくれた。これなら、逃げるくらいには何とかなる。


「なっ……お前は……」

「ふっ……曹駛、ようやく来たか」

「ああ、これで二対二、ようやく対等、さっそく二回戦目を始めようぜ」


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