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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第二章・騎士さん騎士さん、大丈夫ですか?
20/203

20話・姫様姫様、そうじゃないです。

  ―武元曹駛―


「ここは……どこだ……?」


 広い。かなり広い。そして、かなり豪華。

 ただ言えるのは、ここは、俺の部屋でないどころか、俺の家ではない。

 レフィは隣で寝ているあたり、危険な場所ではないのだろう……睡眠薬で眠らされたわけじゃないならば……。


「おい、起きろ、レフィ」

「ん……もう、食べらムゥ……」


 なんかこれ以上言わせたらいけない寝言な気がしたので、途中でレフィの口を手で塞ぎ、言葉を止めさせた。

 理由は分からない。ただ、言わせたらいけない気がした。なんか、かなり古臭い気がする。それだけの理由である。


「………」


 ちょっとしてから、口の上からすっと手を離す。


「むにゃむにゃ……」


 思うのだが、むにゃむにゃとは何の音なのだろうか。言うにしても意味が分からない。いや、意味が分からないこそのむにゃむにゃなのだろうが、何故むにゃむにゃなのかが分からない。

 だが、追及はしない。追及は命に係わる気がする。これもなぜかは分からないが、漠然とそう思うのだ。


「そうしぃ……」

「寝言か?」

「ふふん……」


 まともな返事が無いことからして、夢だろう。

 俺が出てくる夢でも見ているのだろうか。


「もう、入らないぃ……」

「………」


 まだ飯の夢を見ているのだろうか。

 なぜ、飯なんだ。

 寝言の時に成り立つ『夢=飯』の方程式はなんだ。

 「これ以上、食べれない」がまたくるのだろうか。

 言いそうになったら、また口を塞ごう。


この時、曹駛は言いそうになったらでなく言う前に塞ぐべきだったのだ。

なぜ塞いでおかなかったのか、後々響いてくるのかもしれないことを曹駛はまだ知らなかった。


「そ、そうしぃ……そうしぃ……」

「寝苦しいのか?」

 レフィの目に涙が見えた。


「そうか、また、心配かけたようだな」


 そう思い、レフィをそっと抱きしめた……瞬間。


「んっ……あぁ……はぁ、はぁ、はぁ……そ、曹駛ッ、来てッ……」

「………」

「はぁ……はぁ……ふぅ……すぴーすぴー」

「………」


 いったいどういうことなんだ。まったくわからない。どうなっているんだ。

 とりあえずわかるのは、れふぃがよくわからないこえとせりふをいったことだけだ。それも、かなりおおきなこえで。それに、すぴーすぴーもよくわからないが、むにゃむにゃどうようのりゆうで、ついきゅうはしない。


 曹駛は驚きのあまりひらがな以外の文字を忘れてしまったようだ。

 だが、それもつかの間、次なるショックで全てを思い出す。そして、もはや寝起きでも何でもない正常に動く脳で、状況判断及び、次にするべき行動を決定する。


「えっと……誤解です……」

「そうか……」


 向けられているのは、信じてもらえていないであろう視線であった。

 まるで詐欺師を見るような目だ。絶対に信じてない。


 曹駛の見る先はこの部屋の扉であった。

 その扉は開いており、そこに立っているのは、街まで運んでくれたあの女騎士が立っていた。


「あの、その、何時から立っていらっしゃったんですか?」

「ついさっきだ、私が扉を開けた時、既にお前はそのエルフを抱いていた」

「いや、その、違わないけど違うと言うか……」


 確かに抱いたけどさ、抱いたけど、多分騎士さんが言う抱いたの意味は違う。

 俺はそっと抱きしめただけだって。


「その、なんだ、見てしまってすまんな」

「いや、だから誤解ですって」

「ああ、そうしておこう」

「違うんですって」

「大丈夫だ、この事はそのエルフには黙っておいてやる、心配するな」

「だから違うんですよ、別に眠っている隙を襲ったとか、そんなんじゃ……」

「大丈夫、大丈夫、だから黙っておくと言ったはずだ。約束は守る」


 約束云々の前に話を聞いてほしい。

 別に、なんかしたわけじゃないっての。

 くそ……なんでこんなことに。


「ともかく、そういった事が出来るということは、もう体の方は大丈夫なのだろう」

「いや、身体の方は確かに大丈夫ですけど、誤解を解きたいと言うか……」


 女騎士さんの言う「そういった事」とは、そういった事である。詳しくは言えない。

 実際は、ただ抱き締めただけなのだが……。


「廊下で待っているので、服装などをちゃんと整えてから、部屋から出るんだな」

「いや、あの、ちょっと待っ……」


 バタン。

 大きな扉は閉められた。

 その扉のしまる音は、弁解時間のタイムオーバーを知らせる音にも聞こえた。




 暫くして、レフィを起こし部屋を出た。

 それと、レフィがベットを出る際に気付いたのだが、何故か下半身だけ下着だった。なんか、非常にエロかったのだが、本人はなにも気にせず着替えていたので、下着姿は別に恥ずかしくないのかもしれない。

 全裸は未だに恥ずかしいようで、たまに着替え中に入ってしまったりすると蹴られたり殴られたりする。

 部屋から出ると、先ほどの言葉通り女騎士さんが待っていた。

 もちろん弁解する時間は無い。それは先ほどタイム―バーを迎えてしまったからだ。


「付いて来い」


 俺たちが部屋から出たのを確認すると、そう言って女騎士さんは歩き始めた。

 置いて行かれるわけにもいかないので、俺たちもそれに付いていった。


「なぁ、女騎士さん」

「なんだ」

「俺たちをどこに連れて行くつもりなんだ?」

「お嬢様……いや、お前たちにはちゃんと言わないといけないな」

「なに?」

「姫様の元へだ」

「な、なにを言っているだ」


 動揺した。

 ちょっと言葉がおかしくなるくらいには動揺した。「ん」が言えなかったくらいには……。

 実のところ、曹駛は姫様を助けたとは思ってなかった。せいぜい、金持ちのお嬢様ぐらいだと思っていた。

 金持ちは実力のある国直属の近衛兵を雇う事がしばしばあるのだ。だから、今回もそういった感じだろうとは思った。

 けど、違った。

 本当にお国のヒトだった。

 正直なところ。不味い。実に不味い。曹駛は公的な場に出れる人間ではないのだ。

 それに、今の姫様とは会ったことがある。その時の姫様はまだ幼かったので、俺の事が記憶になければ嬉しいのだが……というか、あったら不味い。本当に不味い。

 一体どうしたものか……できれば会いたくはないのだが……。

 などと考えているうちに謁見の間についてしまった。


「膝を付け」


 女騎士の言葉に従い、俺とレフィは片膝をついた。


「いえ、そんなことはしなくてもよいですよ」


 その声は、上から聞こえてくる。

 きっと姫様の物だろう。


「立ってください、むしろ私は救われたのです、そんな膝をつかせるなど……」


 この姫様、よく分かってないようだな。この膝をつくのには、忠誠心を表す意味があるのと同時に名誉あることでもあるんだ、昔の俺は随分と喜んでたっけ。今はそんな状況じゃないんだけどな……。


「姫様」


 女騎士さんが、姫様の耳元で何かを話している。

 あ、姫様の顔が赤くなった。この姿勢の意味でも教えたのだろうか。


「失礼しました、姿勢はそのまま、顔をお上げください」


 顔を上げろというのは、お言葉を頂ける際に、仰られる言葉である。

 この姫は本当に何も知らないのかもしれない。


「それでは、あなた達、レフィ=パーバド及びグルック=グブン……リシ?」

「どうなさいましたか? 姫様」

「いえ、その、グルック様」

「なんでしょう、姫様」


 あれ、これ不味くね。気づかれたっぽいんだけど。


「その、あなたは、国軍兵士ではないのでしょうか?」


 ……速攻でばれたな。隠す間もなくばれた。

 さて、ばれたなら仕方ない。

 話すとしよう。

「ええ、そうです。と言っても、元……ですが」

「今は違うのでしょうか」

「はい、今は、傭兵をしております」

「なるほど、私が幼かった頃の記憶ですので、曖昧なところがあるのですが、確か、グルック様は……隊長をなさっていませんでしたか?」

「はい、その通りです」

「それほどまでの地位に有りながら、何かご不満でもあったのですか?」

「いえ」

「その、遠慮なさらずに、仰ってください、国からの待遇に問題があるのなら、早急に対処いたします」

「いえ、その必要はありません、不満によって辞めさせていただいた訳ではございませんので、ただ、自分の別の生き方を見つけたかったのです」

「そうですか……」


 嘘である。曹駛が、やめた理由は、不老不死を隠す為。ただそれだけのためである。逆に国軍の兵になった理由も国を守るためなどではなく、お金が欲しかったからだ。

 それでも、隊長になってこうして謁見室来た時は、随分と歓喜したものであったが、今の彼からしたらただただ逃げたい気持ちでいっぱいであった。


「それならば、仕方ありません。ですけれど、十九期兵の隊長が現在不在なのですが、もしよければ、グルック様……もう一度兵士になるおつもりはございませんか?」

「……いえ、お言葉は大変うれしい限りなのですが、私は……私は、既に自分の道を見つけましたので、遠慮させていただきます」

「残念です……」

「申し訳ありません」

「いえ、強制はできませんから……」


 そう言って、姫様は笑顔を見せた。

 それは、始めて見た年相応の表情だったかもしれない。

 前に謁見した時の歳から想像するに、歳は15前後だろう。成長速度は遅い方なのか、見た目はもっと低く見えるが……。


「それでは、あなた達に、褒美を取らせます」

「有り難き幸せ」

「それと、グルック=グブンリシ……あなたには、爵位を授けます」

「なっ……」


 声をあげたのは、女騎士である。

 その反応を見る限り、予定にはなかったようだ。


「ひ、姫様……」

「私がいいと言うのだから、いいのです」

「ですが……」

「グルック=グブンリシ」

「はい……」


 姫は、王家に伝わる剣を右手に、曹駛の前まで歩いてくる。

 そして、その剣を鞘から抜き、曹駛の頭に乗せる。


「フォルド王国第一王女、コイチ=キ=フォルジェルドの名において、これよりグルック=グブンリシを男爵といたします」

「ハッ……」


 姫が頭の上から剣を退けた後、曹駛は姫の手を取り、甲に忠誠の口付けをした。


「えっ……その……えっ……口付けは……」


 姫が後ろに、一瞬で退いた。かなり戸惑っている様子だ。

 それにしても、この姫様、何もわかっていないようである。


「ひ、姫様……」


 またしても女騎士さんが、姫様に耳打ちをしている。いつもこんな感じなのだろうか。

 あ、また赤くなった。


「も、申し訳ありません、取り乱してしまいました」

「いえ、こちらこそ、失礼を……」


 それにしても、かなり気まずいな。

 早く帰りたい。流れに合わせてたら、爵位貰っちゃったぜ。てへっ……で済めばいいんだけどな。済まないんだろうな。不老不死を隠しきれる自信がない。


「それでは、そろそろ失礼します」


 この状況から救ってくれたのは女騎士さんだった。

 俺たちは、女騎士さんに連れられ、謁見室を出た。


「有り難い、実は息がつまりそうだった」などと言うわけにもいかないので。「ありがとう」とだけ言う。


「いったい何の話だ」

「いや、こっちの話だ、いろいろありがとう、女騎士さん」

「女騎士ではない。私の名前はサキ=カムラだ」

「そうか、サキさん」

「さん付けはやめてくれ、今はグルック殿のほうが立場が上なのだ」

「そうか? サキ=フォールスピア=カムラ」

「ふん……久しぶりだな」

「ああ、久しぶりだ、ちょっとはいい女になったじゃないか」


 その二人の間には、強い絆があった。






 それと、先ほどから、曹駛と面識のある姫様やら曹駛の昔の知り合いとやらの会話に、まったく入れないレフィがそこには居た。誰に注目されるわけもないが、ちゃんとそこに居た……。


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