2話・奴隷屋さん、行きました。
世界観については、そのうち分かるかもしれません。
名前、宝くじの存在とか、エルフ、魔法、現代の常識とかからは未だ分からないかもしれませんが、いずれ本編内でちょぴちょぴと書いていくつもりですので、推理はそこでしていただいて、いまはそんなもんかと思っていただければ……。
20150208。編集しました。
―武元曹駛―
ということで、やって参りました。
この私、武元曹駛がいるのは、そう、ここ奴隷市は西区です。
西区にある店では、高級な奴隷……簡単に言うと、よく調教されたもの者や、見た目がいい者、珍しい者、女の子に関して言えば、その、そういった経験をしていない娘も売っているらしい。
まぁ、それは聞いた話なので、よくは知らないんだけど……。
それもそのはず、奴隷市など一度たりとも来たことはないし、この手の情報に興味もなかったので、少々疎いというか、大分疎い。
持っている情報といえば、だいたい人から聞いた情報しかないから、その情報に正確性はほぼほぼない。
どの店にどんな奴隷が売っているかも分からない。
だから。
店は勘で選ぶ。
これに限る。
最終的に頼るべきは自分の勘だ。
勘は大事だと言っていたやつもいたし。
せっかくだから、俺はこの店を選ぶぜ。
俺が入った店は、最近出来たような、新しい看板を掲げていた。
まぁ、新しく出来た訳では無くて、ただリニューアルしただけの可能性もあるが。
看板には『Jakirall`sShop』と書いてある。ジャキラルが何を指しているかは分からないが、おそらく、それが店名だろう。ショップって書いてあるし間違いない。
店の中に入ると小奇麗なフロントに初老の男性が一人立っていた。
胸に付けたネームプレートから、この店の店主であることが分かった。
名前はジャキラル=オオヤナギ。
店名のジャキラルは店主の名前から来ているのか。
なんだそのどストレートなネーミング。
などと思っていると、その店主がこちらの入店に反応して、近づいてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような御用で……」
「御用も何も、奴隷に買いに来たんだ。それ以外に何が?」
奴隷は基本的に一度購入したら、どんな苦情も受け付けなければ、返品も受け付けない……らしい。
ちなみに奴隷の売りつけの場合は、普通店に直接売るのではなく、この奴隷市の中央にある総合統括所や東区にある売買統括所のほうに売るか、もしくは、月に一度のオークションに出品するのが一般的だ……たしか。
だから、店に来る理由に、奴隷を買う以外は、基本的には無い……たぶん。
「なるほど、お客様、こういった店に来るのは初めてですね」
「あ、まぁ、そうですが」
「やはり……こういった店でどのような御用か尋ねる場合、大抵は何に使用するかを尋ねるもので、本当に用件を尋ねるものではないのですよ。まぁ、稀に例外もありますが……それを知らない様子でしたので、初めてなのだと判断いたしました」
「なるほど」
「以後は、お気を付けください。こういった売買に慣れていない事に気付くや否や、ぼったくりにかかるお店も多いので……」
「は、はい……」
そうか、そう言う意味だったのか。
奴隷の用途を尋ねる……ねぇ……。やっぱり、夜のお供用とかもあるのかな……。
ま、まぁ、べ、別に、今日は、か、家事用だし、ふ、普通のお世話用だし、夜のお世話用じゃないし、ほ、ほら、昼と朝のお世話用だし……。
誰に対する物かも分からない言い訳を永遠と心の中でし続けた。
良く考えてみると、かなり見苦しいというかなんというか、ここまで来ると、むしろみっともないな。……かなり。
「では、お客様、もう一度尋ねますが、本日はどのような御用で?」
「ああ、今日は家事とかできるやつ……」
じゃ、分かんないか。なんて言えばいいんだろうか。
ああ、そう、なんでも出来るやつ。
「そうだな、えーと、まぁ、万能なやつ」
「万能……?」
「ああ、うん、その、えっと、メイドの代わりになるやつというのかな……」
まぁ、こうなら伝わるだろう。というか、メイドが欲しかったんだから、最初からこう言えばよかった気もする。
「それではメイドをやとわれた方がよろしいのでは? きっとそちらの方が安く済むと思いますが」
「それもそうか……」
まぁ、そう言われるわな。
普通、奴隷を買うより、メイドを雇った方が安いのだ。通常、奴隷はそう言った事をさせるのはおまけに近い物であって、基本そういった事をさせるためには、主人が自ら教えるか、高い金を支払って教育してもらうか、もしくは、少々値は高く付くが、最初からそう言うことが教育されているのを買う……らしい。
だが、目の前にいるジャキラルの話を聞くと、そういった事を教育されたものは専門の店に行かないと取り扱ってはいないらしい。
だが、さっきの1件もある。ただでさえ慣れていないのだ。そんな店行ったら、絶対ぼったくられる。とりあえず、今回はよしておこう。
「えっと、じゃあ、そうだな、あれだ、そいつ一人でも生きていけそうなやつ、環境さえあれば暮らしていけそうなやつ」
まぁ、自分で暮らしていけるやつなら、俺があと少し教えれば、メイド代わりにはなるだろう。と、いう打算的な考え。これなら、教育費を払う必要もなくて、安上がりだしな。
まぁ、金は十分あるし、本音を言えば、別の店行くのがちょっと怖いだけなんだけど……それは、ちょっと格好悪いから、建前上はそういうことにしておこう。
「一人でも暮らしていけそう……ですか……」
「ああ、それでお願いしたい」
「ふむ……はい、分かりました、ご案内いたします」
店主はそう言って、歩いて外に出た。
俺も、それを追って外に出る。
外に向かったという事は、先ほどまでいた建物とは別の場所に奴隷が集められているという事だろう。
確かに、奴隷市には建物が多く建っているのだが、看板の付いていない建物も多かった。
最初は、名もなき店か、こんな場所ではレアな、一般の住居かとも思っていたのだが、今になって分かった。あれらは、奴隷たちが用途に分けて集められている所なのだ。
それに、多分この店の規模は大きいはずだ。
なぜなら、店主が立ち止り、手を差し向けている先にあるのは、丸々一軒の建物だからだ。
「一応お聞きしますが、メイド代わりとおっしゃっておられましたので、女と判断しましたが間違いは無かったでしょうか」
「ああ、女で間違いない」
俺にそっちのけは無い。
ないよ。
本当だよ。
「では、建物にいる首輪を付けた者の中からお選びください」
「こっちも、一応聞いておくが、この建物全部か?」
「いえ、その建物とその両隣を合わせた三軒です、どれも1階から3階まで全て奴隷の部屋となっておりますので、そこからお選びいただければ」
「決まったらどうすればいい? 見たところ、この店の店員はかなり少ないみたいだし、あんたも俺に付きっ切りってわけにもいかないだろ」
「それに関してですが、決まりましたらお客様が最初に来たあの建物のフロントにまたいらしてください、そして、買いたい奴隷がはめている首輪に書かれている番号をお教えいただければ、値段を提示させていただきます」
「ああ、分かった」
店主は俺に説明を終えると、来た道を引き返して行った。
さて、選ぶとするか。
まずは、中央の建物からだ。
建物に入ってみると、中はアパートのような構造になっていた。長い廊下の両隣に扉がいくつかあり、その先が部屋になっているようだ。
内装も綺麗で何よりだ。
どんな奴がいるんだろうな。
まずは手始めに、この扉を開けるか。
建物の奥から三番目の東側のドアを開ける。
部屋の中は……蛻の空だった……。
最初の部屋には、どんな娘がいるかと思い開けてみれば、ここにいた娘は最近購入されたのか、この部屋にあるのは藁と毛布だけだ。
藁の上に毛布が積んであることから、それが布団代わりだったことが分かる。
なんだよ、初っ端から蛻の殻……じゃ、ないっ!
さっき藁の上にある毛布の中で何かがもぞもぞと動いたぞ。
隠れているのか……。そっちがその気なら……。
「誰かいないのかー」
「………」
「ほんとうにいないのかー」
「………」
「モウイチドキクケドイナイノカー」
何一つ反応を示さない。だが、それも分かっていたことだ。
だが、俺にだって考えがある。
「いやー、ここは誰もいないのかー、時間の無駄だなー、次は間違ってこの部屋に入らないようにしないと―」
「………」
わざとらしく大きな声でそう言ってから、一旦扉を閉める。そして、その辺で足踏みを始める。最初は強く、だんだん弱く。デクレシェントだ。
足跡がフェードアウトして、部屋の中に聞こえないくらいの音になったところで、足踏みをやめ、扉に耳を当て、部屋の中の音を聞くことに集中する。
すると、薄らとだが、中から声が聞こえてくる。
「いや、危なかったです。今回もなんとか乗り切れたです」
いや、まだ乗り切れてはいないぞ。というか、最初に動いた時点で、乗り切れてなんていないぞ。
俺は、そーっと扉を開けた。
「今日は本当に危なかったです。本当に見つかるとおもったです。昼寝は危ないですね。次からは気を付「ハロー、ガール」……うわぁあああ! 見つかったああぁぁ!」
よし、してやったり。
部屋の中には、青い髪をした少女がいた。
高級店の集まる西区の店だけあって、顔はかなり良いが、少々やせ気味なのと、歳が若過ぎるのが気になる。見た目だけでいえば、10歳前後に見える。実際見た目と歳は大きく違う場合もあるからな。見た目だけで判断するのはあまりよくないのだが、この少女はどう考えても10歳前後だろう。
安っぽい茶色のシャツと、クリーム色のスカートを身に着けており、付けられている首輪には、店名といくつかの数字が刻まれている。
こいつも売り物なのか。売り物がどうして隠れているのか……随分と自由な奴隷だな。
「で、お前はなんで隠れていたんだ? 売り物じゃないのか……?」
「売り物じゃないです。人間です」
「いや、別に人間じゃねぇとまでは言わないけどよ、売り物ではあるだろ」
「違いますです」
いやいや、じゃあ、その首輪は何だよ。
「とりあえず、おまえが売り物じゃないというのなら、その首輪が何なのか説明したらどうだ」
「しまった……」
「………」
おい、しまったって言ったぞ、こいつ。
というか、今更、首輪を手で隠しても意味ないだろ。むしろ、それは隠さないと不味いと思っているように見えるから逆効果だぞ。
「……え、えっと」
「………」
「あ、あはは……」
笑って誤魔化そうったってそうはいかない。
大人の世界はそこまで甘くない。それを教育してやろう。
と、俺の中の加虐心というか悪戯心が働いた。
「で、その首輪はなんだ?」
「そ、その……」
「そ の 首 輪 は 何 だ ?」
「こ、これは……」
「そ れ は ?」
「ふぁ、ふぁっしょん……?」
「………」
「そ、そうです、ふぁっしょん?なんです、これ、最近、流行っているんです」
いやー、それは流石におかしいだろ。
確かにチョーカーというファッションアイテムはあるけど、お前が付けているような、鉄製で奴隷商の店の名前が彫られている生々しい実用性重視の首輪ではない。
というか、自分言っておいて疑問形って、自信持ててねーんじゃねーかよ。だったら、やめておけよ。
「おい」
「はいっ」
「嘘だろ」
「う、う、嘘じゃないです、ふぁっしょん?です」
「じゃあ、その『ファッション』とやらの語尾が上がっているのは何だ?」
「うぐっ……」
「で、もう一回聞くが、なんで隠れていたんだ?」
「くぅ……しかたないです、特別に教えてあげるです。どうせお前なんかが私を買うお金を持っているとは思えねーですから」
なんだこいつ、急に態度でかくなったな。
自分の値段によほど自信があるのか、俺を見下しているのか。もしくは、その両方か……
「ここの待遇って、結構いいです。奴隷相手なのに、一人一部屋を与える奴なんか普通いねーです。大抵は、大部屋に大量の人数押し込むのが普通なのです」
そうか、なるほどな。
ここを離れたくないと言う事か。
「本当にいい人なんです……だから、買われてここを離れなくないのです」
「そうか」
確かにな。
買われた先の主人が、いい人とも限らないし。自分の部屋と自由があるという人の常識が通用するとも限らない。奴隷はよくて家畜。一般常識では物だ。
それを人扱いする者がどれくらいいるか……まぁ、高級店だから、安い店よりかは幾何かは多いだろうが……
それでも、自分がそんな扱いを受けるのが怖いのはあたりまえだ。
だから、買われたくないと思っているのだろう。
「でも、もし、買われたなら。その時はその時なのです。私が買われたことで、誰かが、ここと離れずに済んだと考えることにしますです。だから、もしも私の言葉が少しでもあなたに届いたなら、私たちのことをちょっとでもいいから、人扱いしてくれたら、嬉しく思いますです」
「俺は、別にお前に言われるまでもなく、お前たちを家畜扱いも物扱いもするつもりなんかねーよ」
「え……?」
「人は人だ。それは、奴隷になっても変わることは無いと思っているさ、お前みたいな餓鬼に言われなくても、そんなこと分かっているさ」
「そう……でうか……あなたもいい人なんですね……」
当たり前……ね。
俺の当り前はどこでも通じる訳ではないとは思っていたが、いざこうも考え方の違うやつと会って話すとな……。
こいつからしたら、こういったやつは十分珍しいんだろうな。
どんな扱いを受けて来たんだろう。
まぁ、最後に一言残して去るとするか。
「俺は、そろそろ、別のところに行くよ、じゃあな」
「はい、さよならです」
「あ、それと、俺は、今でかい家に住んでいるんだが、まぁ、大きさで言えば、この建物の4倍か5倍くらいなんだが……本気出したら、もう一個同じような屋敷立てられるくらいには金が有るぜ」
「えっ……えっ……あ、あの、も、もしかして、わ、私を……」
バタン。
扉を閉め、フェードアウトしていく狼狽えた少女の声を後ろに、俺は別の部屋に向かった。
実は、この作品はめちゃくちゃタイトル変更があった。
大体5,6回あった。ビックリ。
20150208。大して変わりませんが、敬語云々の部分を削りました。あと、お店の名前の表記が変わりました。それと、今回も書き増しではなく、打ち直しなため見直しはしましたが、誤字脱字がまだ残っている可能性が有ります。
めちゃくちゃ誤字がありました。むしろ編集前より増えていたかもしれないくらい。