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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第十二章・これからとここから
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194話・答えと戦い

 ―レフィ=パーバド―


 ROJFOHCの本部。本部というと施設のようだが、その実態は一つの国のようなそんな大きな場所の端にある訓練場。他にも訓練場はあるがこの訓練場はあまり人が入ることが無い。

 この訓練場は試した事のない魔法や兵器の試験運用くらいにしか使われることが無い。いくつかある中から、そんな場所にを選んだのには理由がある。

 突如轆轤が消え去ったその後、いつの間にか手に握っていた紙切れには「街の端」とまるで器械によって印刷されたかのように綺麗で整った、でもなぜか人の手で書かれたものだと確信できる、そんな不思議な文字でそう書かれていた。

 その文字を確認するや否や、その紙切れも最初からなかったかのように消えていた。

 そんなことが出来るのは、彼本人以外に心当たりはない。確かにあった感触が違和感なく突如消失するなどどうやったら出来るのか、まるで見当すらつかない。


「ここね……」


 別に訓練場だけではなく他の部屋でも使われている物と同じ、ここに住んで居れば一日で数えようと思わない回数は見かけるであろうその扉。その前に立って、ゴクリ……唾を飲んだ。

 ある程度近づけばセンサーが反応して自動で開くその扉を前にあと一歩で開く距離にありながら、その一歩を踏み出せない。

 もう一度唾を飲み覚悟を決めてから一歩を踏み出す。するといつも通りの扉が開いた。そう、いつも通り。そのはずなのに、それをひどく遅く感じてしまった。開いてほしいような開いてほしくないような、そんな時間は実際には一秒もないはず。それが十秒にも二十秒にも感じられた。

 扉が開くとその先にはぽつんと一人の男性が立っていた。


「さぁ、入ってきたまえ。君が知りたいことを一つ教えてやろう。まぁ、何を聞いてくるかは分かっているがね」


 威圧感を感じているのだろう。いや、感じていないのか。自分は威圧感を感じているはず、そうでなければこの訓練場に入るのを躊躇ったりはしないはず。

 でも、驚くほどに何も感じない。ただ人がいるそれだけ。ただ、それだけしか感じられないことが、物凄く異様だ。ここには入って少ししたら戦闘が始まる。間違いない、その予感は間違いない物だ。だからこそ異様。故に不安。

 だが、ずっとここに留まるのもおかしな話だ。意を決し、足を進め彼と向き合う。


「さてと、君の聞きたいことは何かね?」


 その言葉に秘められた感情は全く読み取れないが、ここであなたの事が知りたいというのは、余りにも無謀な気がする。それを言ったら戦いが始まる。それを知りたいと思いそれを知られた時点で、遅かれ早かれ戦いは避けられないと分かっている。だが、今ここで戦うの? でも、本当に戦いを避けられるの? いや、無理だ。

 こうなった時点でどうしようと、戦うことにはなるだろう。


「さぁ、質問を」


 抑揚のない声が広い防音の訓練場に響く。

 異様なるものと対面して、カラカラとなった喉を唾でうるおして、口を開く。


「あなたはいったい何者?」


 聞いてはいけないことだが、聞かなくてはいけないこと。

 それは処刑される覚悟が決まった者が最期に発する言葉のようであるといった直後に思ってしまった。


 彼は何の感情もない笑顔で右手をポケットから拳銃を取り出した。

 拳銃……昔はよく使われていたものだと資料などで知ったが実際に見るのは初めてだ。

 今の銃は大きい物が多く。あのように小型化されたものはほとんどないらしい。


 目の前の男はそれが当然かのように拳銃を少しいじってから、こちらに銃口を向けた。


「ああ、その答えは、戦いの中で教えよう」


 その指は既に引き金にかけられた。

 そして、光りと共に弾丸がこちらに飛んで来たのだろう。

 掠めたのか鋭い痛みが頬に走り、焼き切れた髪の毛が宙を舞った。


「これが私の武器だ。今や旧式もいい所だろうけどね。中遠距離の性能ならいちいち弾を用意しなくてよい魔法の方が使い勝手が良いかもしれんが、こちらはそれよりも出が早い」


 その銃を腰のホルスターに刺したあと左の手をもう片方のポケットに突っ込み、何でもないように拳銃をもう一つ取り出した。

 そして、また少しいじってからそれを左手で握り直し、轟音がなる。


「それに、拳銃は魔法と違って誰でも扱える」


 どうやら今度は右腕を掠めて行ったらしい。

 出血しただろうところをちらりと見て、視線を相手に戻すと、いつの間にか右手にもホルスターに刺したはずの拳銃が握られていた。


「資料で見たわよ、拳銃は両手で撃つものなんでしょ。そんなふうに二つも持っていいものなの」


「なるほど勤勉だな。そうだ、確かに拳銃は片手で撃つものではない」


 二つの銃口がこちらに向けられる。

 相手の指が動く前に真横に飛び退く。


 瞬間、銃口から放たれる光と共に、床に穴が2つ作られた。


「だが、私も男性なのでな。かっこいいのが好きなんだよ」


 まるでそんな子とは思っていないように感じられる口調でそう言いながら、銃口を再びこちらに向ける。


「そう、それで、あなたの上方はそれだけ? 今のところ性別と武器くらいしか教えてくれていないけれど」


「それは君が戦闘の中で知っていくことさ」


 射線から外れるように走りながら杖を抜く。


「エアショット」


 弾丸には弾丸だ。

 空気の弾を高速で放つ。


「新旧中距離対決と言うわけだ。いいだろう。まだまだ負けるつもりはない」


 タンッ、タンッ、タンッ。

 光と音。肝心の弾は当然見えず。ただ当たらないことを祈りながら走る。


 一方こちらも風魔法は放っているはずなのだが、どういうわけか相手に当たっていない。

 一歩も動いていないにもかかわらずだ。


 何かで逸らしている? それとも純粋に外しているだけ?

 どちらでもいい、もっと大きいのなら当たるはずだ。


「その風は、速く」


 は知ってはいるがこちらの動きに合わせつつあるのか、何発か体を掠めている。


「その風は、鋭い」


 左腕に直撃した。

 変なところに当たったのか、持ち上げようにも持ち上がらない。


「故に、強く屈強な戦士を屠らんとする刃となりうる」


 風の流れる音がする。飛んできた弾丸が風の刃に弾かれたのか。金属音がする。


「その刃を我がもとに……疾風の刃(オウカーンクリンガ)……発射(アップファイアン)っ!」


 相手のコートが大きく揺れた。

 そして、光と音、それに大きな衝撃がやって来た。


「……いっ……あぁっ……」


 腹部の違和感、下半身に伝っていく液体の感触。そして、遅れてやってくる壮絶な痛み。


「あ、あれっ……」


「ああ、そうか、まだ察していなかったか。私のコートは特別でね。残念ながら魔法は効かない」


「あ、あなた、その銃……インチキじゃない……」


「おっと、そっちは気づいていたか」


 途中から違和感はあった。相手は弾を込めるような動作を一度たりともしていないのに、何発も弾を撃って来ていた。


「まぁ、弾だけさ。今回は。本当はもっと凄いんだよ。見せては上げないけどね」


 轆轤は戦意を感じさせないままこちらに向かって来る。

 そして、その銃口はずっと私の頭に向けられている。


 このままでは間違いなく。死ぬ。

 何事もなく処刑され、死んでしまう。


 それは避けなければいけない。


 何をすればこの状況を打開できる。

 痛みが思考力を奪う中。必死に考える。


 私に出来ることは魔法位なら。何か、無いか。


「それでは、さよならだ」


 いつの間にか目の前に轆轤の靴が写っていた。

 何か深く考える間もない。そんな中思い浮かんだのは。


 全てを薙ぎ払い横転させるほどの荒れ狂う暴風。


 あの日見た。神風。


「吹け……カミカゼ……」

「なに?」


 死の際に立ったからか、二度目だからか、それは即座に発動した。


 床、壁、天井。全てを抉り弾け飛ばしていく。

 魔法の効果自体を受けなくても、それによって飛ばされた物は弾けないのか、捲れ返った床に押しやられ轆轤が飛ばされる。

 私も、一か八か風によって飛ばされる大きな訓練場の一部に捕まりその場から脱出を試みた。

 暴風は訓練場を完全に倒壊させ、私をこの施設から少し離れた場所の上空まで押し出した。

 どうやら賭けには勝てたようだ。だが、このままだと死にかねない。

 枯渇しかけている魔力で何とか着地をして、ここからさらに遠くへ離れなければいけない。

 口から溢れる血で上手く詠唱が出来ない。だが、そんなことは言っていられない。

 痛みをこらえ、訓練場の破片を蹴り、宙に飛び出す。そして、風魔法を地面にぶつけてなんとか着地した。

 魔法の力加減を間違えたから、少し浮き上がってしまい、バランスを崩し背中から地面に叩き付けられてしまったが、何もなしに着地するよりはマシだろう。


 痛みをこらえながら、右手だけで這うように前に前に進んでいく。

 少しだけ分かった轆轤の事。それを曹駛に伝えなければいけない。それに、なにより……


 生きてもう一度、曹駛に会わなければ……



 近くの木に寄りかかり、上着を何とか脱いで、それをお腹に巻くようにしばりつけた。

 右手で木を掴み立ち上がって見て分かったが、どうやら右足も怪我してしまっているらしい、酷い鈍痛がする上に上手く動かない。

 こんなところで止まっているわけには……


 少しずつ、前に。


 少しずつでも前に進まないと。


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