191話・捜査と気配
半年以上待たせてしまいました。
かなり忙しかったのですが、ようやく、こう言った事が出来るくらいまとまった時間をとれるようになってきました。
一応は、更新再開です。
かなり、時間を空けてしまい申し訳ありませんでした。
―レフィ=パーバド―
飲食店の中でも、多くの人が集まるフードコートを目指す。多くの人がいれば、情報を聞き出すのが楽になるだけでなく、多少は隠れ蓑にもなる。木を隠すならっていうものである。
とは言ったものの、細心の注意をはらう必要性がある。相手に察せられるリスクは、情報入手に成否にかかわらず、誰かに聞くたび上がっていく。顔見知りだろうと顔見知りでなかろうと、それは変わらない。誰かに聞いたら、訊いた時点で、私が何か調べているといううわさが広がる可能性は高くなっていくのだ。その時、他の人の能力について調べていたのでは、誤魔化しがきかない。尋ねるのは、この組織の成り立ちくらいに留めておくのがいいだろう。
それと、出来れば、もう一つ調べたいことはある。
___いや……。
いつかの会話で、轆轤が行っていたあの言葉、「日本」とは何のことなのだろうか。
彼は、「旧」とも言っていた。それに、言葉の話もしてくれた。だが、彼の話してくれたことのほとんどはどの資料にも載っていなかった。
___けれども……。
きっと、何か有るに違いないと私はそう思った。彼が嘘を言ったという可能性もあるにはあるが、嘘にしては説得力がありすぎる話もあったし、人を騙すには突拍子が無さ過ぎる話でも有った。
___それに……。
きっと、その情報を深く調べられるのならば、何かが分かるような気がする。ただ、問題があるとすれば、その事をほとんどの人は知らないであろうということと、知っていると思われる人には、おいそれと尋ねることが出来るような内容ではないということだろう。
私の知りたいことを知っていて、尋ねても問題にならない可能性がある人物。そんな人物は……はたして……いや、一人、その両方の可能性がある人物がある。
その人物は……
「どうした、探し物か、それとも人探しか? それか、何を食べるか迷っている。ここに居る以上それが、一番可能性が高いか」
良く出来た偶然だ。いま、探している人から私に声を掛けて来るとは。
「そのどれも違うといえば違うけど、強いて言うなら人探しだったわ。それも、今、終わったけど」
「と、いうと、探していたのは俺か」
鷸がそう言った。
「そうね、まぁ、探していたって言えば、そうね、そうなるわ」
「そうか……それで、何の用だ? まさが、用もなく探すはずもないだろうし、何か用があるのだろう」
「ええ、そうね」
察しがいい。というよりは、当たり前というか。同然と言えば当然なんだけど。
「聞きたいことがあるんだけど、構わないからしら」
「ああ、別にかまわないが、出来るだけ早めに頼む。これから行かなければいけない場所があるのでな」
「急ぎなの?」
「いや、そう言うわけでもないが、一応定期的には行っているのでな、少し楽しみではあるんだ」
「定期的に……って、ことは……」
エルフの里に行くのだろうか。いや、他の場所にも言っている可能性はあるのだけど」
「たぶん、お前の考えている通りの場所だ」
「そう」
楽しみ……ね……。
そう……。
「じゃあ、率直に質問させてもらうわ」
周りにはあまり聞こえない程度の声量で、質問を投げかける。
「『日本』ってなに? そして、結局のところ、ここROJFOHCでは、何を目的としているの?」
「……なかなか、困る質問だな」
それもそうだ、これは確かに答えづらい。色々な意味で。
だから、こう言い換える。
「なら、これならどう? ここは、『日本』という国で、ROJFOHCは、他の国のように、元々あったような『日本』の再現を目指している……これが、間違った認識では無いのは何処まで保証してくれる?」
___そう、何故なら、かなり答えに近い物は導き出せていた。問題は、確証。それが欲しかった。
いろいろ考えた、色々資料も見た。この組織に入って、ある程度作戦の指示もされたし、その内容も知った。
要するに、この組織のこまごまとした部分を知ったのだ。後は、繋げるだけだった。そのつなぎになってくれるのは、轆轤の様々な言葉。それを合わせて見れば、全貌がほぼ見えていた。詳しくは、もう少しいろいろとあるのだろうが、でも、今は、これの確証が取れれば、ほぼ十分だ。そうしたら、私の思う彼らのこれまで行動の意味と、これからとるであろう行動の予測に、確信を持てる。
この組織を、ROJFOHCを抜けることが出来る。
曹駛に十分な情報を与えることも。
「………」
鷸は沈黙を貫く。そして、少しだけ、そして、かなりゆっくりとだが、首を上下に動かした。
つまり、仮説は、合っていたというわけだ。
それじゃあ、次の質問に移ろう。
次こそが本当の本命だ。
「轆轤……彼は……一体、何者なの……?」
「………」
流石の鷸も、驚いたような表情を一瞬見せたが、口を開くことはなかった。
確かに、とても答えづらいことだろう。だが、その断片ですら教えてくれるのなら、取れもありがたい。
しばらく、私達は、無言のまま見つめ合った……それも、仕方がない。堪えられない者と退けない者、その二人は、無言で見つめ合うことしか……いや、違う?
鷸は、私じゃない、何かを、見つめて……その先は、私の後ろ……
その瞳には、人物が映っていた。
今、一番、見たくない人物が、鷸の瞳に反射させた人物像を、こちらへ見せていた。
「轆轤……」
最悪だ。これは、非常にまずい。この状況は、一番に割けなければいけなかった状況なはずだ。
明らかに、知られてはいけない。そんなことを知る瞬間や、知った後では無い。知ろうとしている時に立ち会われてしまった。
だから、この状況はまずい。
「俺は、そろそろ行かせてもらうぞ」
鷸が体を翻し、その場を颯爽と立ち去った。
それと同時に、いつかやらなければいけない行動を私は取らざるを得なかった。
ゆっくりと、後ろを振り向く。そこには当然、一番いてほしくない人物がいた。
「何か、探し物を見つけたようだね」
「………」
低く落ち着いた声だった。
その声色から感情を読み取ることは出来ない。
怒っているのか、それとも、悲しんでいるのか。またしては、楽しんでいるのか。
ここで、その言葉に対し、ええそうですとは言えない。だからといって、そんなことはありませんとも。
「なに、隠し立てするようなことでは無いさ。人は好奇心にあふれるものだからね」
「………」
いつからかは分からないが、知られていないということだけは絶対にないというような言葉。
「それに、しっかりとみつけるとは、流石ではないか。褒めることはしても、貶すことはしないさ」
「………」
「そして、もう一つの探し物は、残念ながら、どこにも見つからない」
「………」
「なぜなら、それは私しか持っていないのだからね」
時が、止まったかのようにも感じた。
私の時だけが……
その時は、轆轤の一言で動き出した。
「知りたくば、訓練場へ」
次の瞬間、轆轤は姿を消していた。最初から、この場には来ていないかのように……




