189話・ズレと調査
大分間を開けてしまいました。申し訳ありません。
ブックマーク700ありがとうございます。僕の創作意欲の糸を繋ぎ止めてくれました。
次はもう少し早く更新できるよう努力します。
―武元曹駛―
少女が去ったあと、俺と麻理は顔を合わせた。そして、これからの事を話し合ったが、考えは同じらしく、情報共有の後で、再度森に繰り出すということに決まった。
それには、まず他の皆を探すところからスタートだな。
「さて、当てずっぽうってわけにもいかないし、だからといって、魔法使うのもあれだしな」
ちらり。いい案が無いか、麻理の方を見る。
「人が集まりそうなところでも、行ってみましょうか、お兄様」
「ああ、そうだな」
それもそうか、そっちの方が、情報収集もしやすいだろうし、透たちがいる可能性も高い。
「ですから、時間もいい頃合いですし、お食事でもいかがです? この時間帯なら、皆さんもそういった場所にいてもおかしくないかと思いますし」
「あー、なるほどな、それもそうか」
腹はそこまで減ってはいないが、この時間帯なら、皆は確かに飯屋にいる可能性が高いかもな。
単に腹ごしらえというよりは、時間帯的にここに住んで居る人たちが多くいると考えられるのが飯屋だから、情報収集も兼ねて、個室というよりはオープンな感じの店にいる可能性が高いだろう。
「じゃあ、とりあえずは皆が、いそうな店でも探すとするか」
「ええ、そうしましょう」
しばらく、街を歩いてみることにした。
周りを見渡しながら歩く。キョロキョロして歩くと、旅人か、ないしは人探しかといった風にみられるだろうが、実際その両方に等しい存在ではあるので、仕方ない。あんまり目立つのは良くないんだが。
ここは、随分と栄えているらしい。壊滅させられる前のフォルド王国と比べても遜色ないくらいの賑やかさだ。
見た感じでは飲食店はそこそこ多くあるが、聞き込みなどがしやすそうな店というのは結構少ない。だが、一つ気になる物を見つけた。
屋台街だ。
昼過ぎ頃、屋台街は多くの人たちでにぎわっていた。食べ歩きをする人や、立ち席で酒を飲みながら料理を食う人、椅子または腰を掛けるに丁度いい物などに座ってガッツリ食べている人たちなど、様々な人たちがいた。
「俺は、そんなに腹減ってないからいいけど……麻理、お前は何か食べたいものでもあるか?」
「いえ、私もそこまでお腹は減っておりませんので、まずはこの辺りで皆さんを探すことにしましょう」
麻理も俺と同じ気持ちらしいので、辺りを見渡しながら屋台街の中を歩くが、人も多く透たちの姿を見つけることが出来ない。そもそもいるかどうかも分からないが、ここに居る可能性は低くはないと思う。店の人にも、周りで料理を口にしている人たちにも、大変話しかけやすい環境である。ここは聞き込みには絶好の場だ。だから、ここにいるとは思うのだが。
なんて、少し先に目線を飛ばして辺りを見渡していると、こつん、誰かとぶつかった。
ぶつかった時の衝撃の位置や強さから判断するに、身長の低い子供だろうか。少し離れた位置を見ていたせいか目線が下に行かなかった。
「きゃっ!!」
「おっと」
半分は俺の所為でぶつかったようなものだし、後ろに倒れそうになっていた相手の背中に手をまわして、転倒するのを阻止する。
「えっと、すいません……」
声から察するに衝突相手は少女らしい。
「いや、俺の不注意もあるさ。どこか怪我したりはしなかっ……て、あれ?」
目の前の少女を見て見ると、びっくり。ミンだった。
「あれ、曹駛……さん?」
「ああ、丁度良かった」
探し人は案外サックリと見つかった。
ミンが一人で歩いているとは考えづらいので、きっと透も近くにいるだろう。
「ここにいるって事は森の方の調査は終わったって事ですか?」
「まぁ、半分はな」
怪しい所は見つけたし、次の行先は決まった。調査は、とりあえず半分と言った所だろう。
「それで、お前がここに居るって事は、透もこの辺りにいるのか?」
「はい、いまみんなの方に向かっている途中でした」
「ってことはだ」
のっそりと、振り返り、少し先を見て見ると、そこには透と二人の姫様がいた。
こちらが気付いた時点で、あちらも気づいたようで目が合った。
「よ、少し振り」
「ついさっきというほどでもないが、随分と早いな。何かあったのか?」
「いや、まぁ、ちょっとな」
俺は透に少女の話やら、森の中の進んではいけない場所の話などをした。こちらの得られた情報だ。そっちの情報と合わせてみるのがいいだろう。
「なるほどな。それで、この時間に帰って来たというわけか」
「ああ、そう言うことだ」
透が、顎ひげをいじり、考える素振りを見せる。
「森にそれ以上進んじゃいけないといわれる場所があって、それは森によく入るやつならだれでも知っていると……言っていたんだな」
「ああ、確かに、そう言っていた」
「なるほどな……」
またしても、考える素振りをする透。何かおかしな点でもあったのだろうか。そう言うことは、森にいた俺達よりも、情報を集めていた透の方が気付きやすいだろう。
「曹駛。お前は上手いこと使われたかもしれんな」
「上手いこと使われた?」
「ああ、そうだ。こっちも森によく行く人たち何人かに話を聞いたが、森に入ってはいけない危険な場所があるなんて聞いていない。それなりに危険という話は聞くが、それは人間に管理された土地でない以上はある程度は危険だろう。だが、聞くところモンスターも少ないらしいし、他の地域の森と比べればあまり危険な場所であるという印象は無かった」
確かに、モンスターには一回も遇わなかったし、基本的に危険という印象はなかったが。でも、危険なのはその入ってはいけないと言われたその先にあるからではないのだろうか。
「それに、その危険なラインというのがよく分からん。聞けば、あれだったんじゃろ。採集していたって、さっき言っていたじゃないか。多分、集め終ってもう帰る準備が出来たから、そんな嘘を言って、引き上げて来たんじゃないか?」
透はそう言った。確かに、その可能性はあるな。
危険な場所。その先に進んではいけないというライン。みんな知っているといっていたあの少女。彼女は嘘を着いているようには見えなかったものの、一杯喰わされたって事か?
いや、でも、一つ引っ掛る。
あの少女、妙に焦っていた気がする。街に帰ってきてからすぐさま去って行ったっていうのもそうだが、あのラインを越えようとした際にも、すぐさま去ろうとした。それがどうにも気になる。それに、その時言ったその言葉。やっぱり、あれが嘘には思えないのだ。
でも、その言葉、良く考えるとおかしい。
そのラインを越えると、急に帰って来られる可能性が下がる。その言葉、良く考えるとおかしんだ。
そのラインを越えると急に返って来られる可能性が低くなる。どうして、それが分かるんだ? そのラインの位置が……
帰って来ないならそこがどうなのかなんてわからないはずだし、帰って来られたなら、その先が特別危険だなんて思わないはずだ。もし、特別危険だと思うようなことがあるとしたら、それが何なのかくらいは分かるはずなのにそれもない。
それなのに、彼女はその説明もしていない。なのに、その危険な位置は分かる。それは、やはり少しおかしい。
確かに透の言った通り、騙されたという可能性もあるだろうが、でも、どうしても引っ掛る。ただの直観ではあるのだが、もう一度その先は見に行かなければいけないと思った。
「なぁ、麻理」
「はい、そうですわね」
俺と麻理は顔を合わせて、頷き合った。
「透」
「なんだ」
「こっちは引き続き頼んだ」
「もう行くのか。昼くらい食って行ったらどうだ?」
「いや、いい。それよりも、気になることがあるのでな」
俺と、麻理は駆けた。
先ほどとほぼ同じルートで、森の中を走って行く。
「麻理」
「ええ、そうですわね。彼女は少々気になります。言っていたことも、彼女自身も」
そうして、走っていると、例のラインを越えた。だが特別変わったような感じはしない。
そのラインを少し越えたあたりで、俺達は足を止めた。止めさせられたとも言う。
別に強制的に止めさせられたわけではない。自分の意志で足を止めた。だが、それをみて足を止めないはずが無かった。
「お、お前は……」
そこには、例の少女がいたのだ。
「ありゃ~……やっぱり、来ちゃったかぁ~」
可愛らしく悩んだポーズをとりながら、彼女はそう言った。
「えっと、この先に何の用? 旅のお二人さん」
そうして、彼女は手を腰に当てながらそう言った。
その手には短いが杖が握られている。この状況で杖を握るやつなんて限られている。
「お前こそ、なんでここに……?」
静かな森から音が消え去った気がした。そして、対する少女から注意が離せなくなった。
なにせ、ここで、この状況で、杖を持っていて、俺達の前に立っているなんて、エルフ以外ありえないからだ。




