186話・でも……
間隔あいてすいません。次の更新も間隔空いてしまいそうです。
―武元曹駛―
目を覚ませば、見覚えのある、といっても馴染みがある訳でない天井。それと、毎日見る顔があった。
「麻理、ここは?」
目の前の顔の主に尋ねる。
対して返って来る答え。
「ここは、満曳さんのお屋敷です」
俺の家じゃない。そうか、通りで。
「お兄様のお屋敷は、そうですね、一旦は移動したのですが、環境的にあまりよろしくないと判断して、結界だけはらせていただき、こちらに移動してまいりました」
環境的にあまり良くない? 結界?
「どういうことだ? 結界とか、何やら物騒だが」
「ええ、物騒でしたわ。お兄様も、今のあの場所の状況はご存じでしょう。なので、賊の類の者がたくさん湧いているようでしたので、排除して、結界をはったのですわ」
ああ、なるほどな。
確かに復興中とはいえ、法はあって無いようなもの、管理する者がいないからな。それに、金がない者も多いだろう。ならば、被害の一切受けてない俺の家に来るやつも多いか。
「それで、ここに居るって事か」
「ええ」
後頭部に感じる、柔らかさと温かみに身を委ね、俺は目を瞑った。その直後に、頭が宙に浮き、床に落下した。
「いってぇ、何すんだ」
「目を覚ましたならもういいでしょう。さっきまでの膝枕はサービスです。もう一度寝なおすなら、普通の枕でどうぞ」
「あー、ならいいや」
身体を起こし、周りを見渡す。この部屋には、今のところ、俺と麻理しかいないようだ。
「他に今ここには誰がいる?」
「誰というのは、お兄様や私に関わり合いを持っている人たちということですか?」
「ああ、まぁ」
「それでしたら、勢ぞろいですわよ。サキさん以外は全員揃っていますわ。ええ、そう、あとは、いないとして、レフィさんでしょうか」
「……そう、だな……」
レフィ……。いや、まだ。
なんて、考える間もなく、襖が開かれる。
「曹駛様!」「曹駛王子!」
勢いよく襖を開けた犯人は二人の姫様。だいぶアクティブなご様子。
「では、私は、この辺りで」
二人と入れ替わりに麻理は、部屋から出て行ってしまった。
「曹駛様、お久しぶりでございます」「曹駛王子、おひさしぶり~」
「コイチ姫、スミ姫、二人とも、どうしたんですか」
「話を聞けば、曹駛様が訪れているという話でしたので、急いできました」
「そうそう、びっくりしたから、走って来たの。すっごい疲れたけど、ほんとにいたからびっくり」
「だって、もう当分会えないという話でしたし、実際もうだいぶ会っておりませんでしたから」
「うん、連絡も何も無いから、少し心配してた」
そうか、そう言えば、結構時間も経っている。なら、心配するのも当然か。
身を案じてくれる人がいるっているのは、嬉しい物だ。
「それで、曹駛様は、これからどうするのですか?」
コイチ姫が尋ねる。
これから、どうするか……ね。
それは、大体考えてある。だが、考えてあるまでは半分だ。何をするかは大体決まっているが、どうやってそれを成すかまでは考え切れてはいないと言うのが現状だ。
「うーん、そうだな、少ししたら、俺はまた向かわなきゃいけないところがあるから、そこに行くかな」
「やっぱり、そうなんだね」
俺の答えを聞いて、すぐに言葉を返してきたのはスミ姫。
「そうなんですね、そうなのではないかと、スミと一緒に思っておりました。なので、一つお願いがあります」
コイチ姫が言う。
お願いか……今や亡国の姫となってしまった二人。その原因を作ったのは俺のようなものだ。出来る範囲なら、お願いは叶えてあげたい。
「それで、お願いというのは」
二人は顔を見合わせてから、声を揃えていった。
「「次は一緒に連れて行ってくださいっ!!」」
それは……ちょっと、難しいな。
「無理だ……」
「「えぇっ!」」
またしても二人は声を揃える。
「これから、向かう先は多分今までの何よりも危険だと思う。だから、二人は連れて行けない。向かうとして、俺と麻理。後は透くらいだな。他は向かう義務はない。行くのは俺達だけで十分だ」
「その『達』の中には」「私たちは」「「ふくまれていないの」ですか」
二人はそういう。
だが、俺はこういうしかない。
「ああ、今回に関しては、含んでいない。二人をこれ以上危険な目にあわせるわけにはいかない。だから、今回は、諦めてほしい」
そう言って、二人に付いて来るのを諦めさせようとしていると、どこからか現れたテンチェリィがいつの間にか、俺の背中に張り付くように抱き着いていた」
「おにいちゃん、わたしもついて行っちゃダメ?」
と、追い打ちをかけるかのようにテンチェリィが言う。
「いや、でも、駄目な物は駄目だ、危ないからな。今回という今回は駄目だ」
と断るが……。
「いや、今回は、僕たちもついて行くつもりだから、ここに残しても大して安全かどうかって言うのは変わらないと思うよ」
更に追い打ちをかけて来たのは、満曳だ。
「な、なんで」
「なんでって、当然、メアリーさんから話は聞いたからね。敵のアジトへつながる場所を見つけたんでしょ。それは、僕たちだって無関係じゃない。いや、ここに居る皆、もう無関係では無くなっているんだよ。それが危ないって事も、死んじゃうかもしれないって事もみんな知っている。その上でついて行きたいんだよ」
畳み掛けるように、満曳がそう言った。
「だが、それでも」
「いや、当然、行くタイミングは見計らうけど、僕らをこの争いから離れさせようとしないで。さっきも言ったけど、もう無関係ではないし、何より、僕らにも僕らなりに、考えと気持ちがあるから」
気づけば、満曳だけじゃなく恩と木尾もいた。
「皆で話して、決めた事だから。次に曹駛くんが来て、その時、まだこの一件が解決していないのなら、みんな一緒に、解決に向かおうって。一緒に、戦おうって」
だが……。
「ということですわ、あと、お兄様、恐らくですが、断る訳にはいきませんわよ。今回に関しては、どうしようもないと思います。私達の状況も分かっているでしょう、自分で」
いつの間にか戻ってきていた麻理が、そう言った。
ああ、どうなっているか分かる。
俺たちの寿命はまだ沢山ある。だが、沢山あるようで、恐らくだが、この戦いを乗り切るほどには無い。
そして、敵は、かなり多い。その上、その一人一人が、きっと俺と同等かそれ以上レベルだと思われる。
相性もある。俺と麻理と透だけでは乗り切れない可能性がある。
「だ、だが、ミンは、せめてミンは置いて……」
言いかけたところで、声が上がった。
「いえ、私も戦います」
「と、言ってきかないからなぁ、儂も止めるには止めたが、仕方ないだろう、それに、全員で動いたほうが、少しは安全かもしれないぞ、曹駛」
そこには、ミンと透。
「って事は……」
「ええ、総力戦……ですわ。といっても、準備ですけどね。まだ、敵のアジト自体はつかめていませんし、準備も十分とは言えませんから」
麻理が言う。
総力戦……つまり奴らのアジトが分かり次第、全員で戦うって事か……。だが、それでも恐らく、奴ら全体と比べると、力不足ではあるだろう。
だが、それでも、敵のボスを倒す確率は上がる。だが……みんなの身の安全は、一切保障できない。
「お兄様の考えていることは大体予測できます。ですが、もはや悩んではいられませんわよ、だって、いつこの国が狙われるかも分からないのですから。どちらにせよタイムリミットが訪れたら終わりですわ。そのタイムリミットは、この国が狙われる時ですわ」
……ああ、分かってはいる。この国が一度は奴らを退けたとはいえ、もう一度攻められない保証はない。一ミリたりともな。
「なら……」
俺は、皆の力を頼るべきなのだろうか。
周りを見渡す。
皆それぞれ、真面目な表情をこちらに向けている。
「皆の力を貸してくれるか?」
俺は、皆に尋ね。
みんなは一斉に、同じ反応を返してくれた。




