181話・ああ……
―武元曹駛―
飯を食い終えて、とりあえず部屋に戻ったのだが、部屋に着くや否や透はどこか別のところに泊まると言ってどこかへ行ってしまった。
「えっと、曹駛さん、本当に泊まっちゃってもいいのでしょうか」
ミンがそう尋ねてくる。
「ああ、もちろんだ」
それ自体に問題はない。むしろ、こちらから誘ったようなものだしな。
「でも、その……」
俺はいいと言ったのだが、何か気にかかることでもあるのか、ミンはそれでも泊まっていいのかどうか迷っている様子を見せた。
「どうした、なんか気になることでもあるのか?」
なので、そう尋ねてみると。
「その、お二人の邪魔ではないのでしょうか?」
ミンはそう言った。
邪魔って、まぁ、狭いには狭い所だけど、透は気を利かせたのか別のところに泊まるって言ってたし、身体の小さなミンが止まるくらいなら特段、邪魔にはならないだろう。
「大丈夫、一人くらい増えたって寝るスペースくらいあるさ」
「え、えっと、そう言う意味じゃなくて、その……夜、お二人でそういうこととか……」
ああ、なるほどね。いや、まぁ、何がなるほどなのか分からないけど。
「それについても大丈夫。前も言ったと思うが、俺と麻理は兄妹だし、そう言った関係じゃない」
「確かに、それは前聞きましたけど……なんか、お二人の仲が、前見た時よりも数倍近くなっているような気がしまして……それで、その、なんかあったんじゃないかって……」
なんかあったって……。まぁ、色々あったけど、多分民が考えているようなそう言った事は特にない。
「いや、特に気にするようなことはないはずだが……なぁ、麻理」
そう言って、麻理の方を見る。
「そう……ですわね……」
すると、麻理は目を逸らした。
……って……いや、なんで?
そこで目を逸らしたら、なんかそう言った事したみたいになるじゃん。いや、おい。
それに、よく見ると、顔赤いし……え? いや、何もしてないですよね。俺の記憶の上ではそういったことの記憶は全く持って無いはずなんですけど、あれ?
「あの、その、すいません」
ああ、ミンも顔真っ赤だし。なんか誤解されてるし。
あれ、もしかして……。
もう一度麻理の方を見やると、麻理の口元は笑っているように見えた。詰まる所。
麻理の悪戯。というより、ある種の意趣返し。別に恨んだりとかそう言った事している訳でもないけど、いきなり二人を連れて来たからとかそう言った理由での悪戯だろう。いや、単純に面白そうだからやっただけかもしれないけど。
「いや、違うんだって、ああ、もう面倒くせぇ」
その後、誤解を解くのに小一時間かかったりしたのだが、なんとか誤解を解くことは出来(とはいっても、なんかまだ疑われてるみたいだけど)、布団を敷き、修身の準備を済ませた。
「と、言っても」
一つ問題が発覚したと言うか深く考えていなかったのだが、布団が二人分しかない。
「さて、どうしようか、二人とも」
確かに二組布団はあるが、片方に二人が集まるというのは、流石に窮屈だろう、余り大きな布団でもないし。
「提案があります」
麻理が言う。
なんか嫌な予感がしないでもないが、一応聞いてみる。
「なんだ?」
「ええ、まず布団が二組、普段お兄様が使っている布団で私が寝て、私が使っている布団でミンさんが寝ます」
確かに、それなら、俺の匂いとかでミンが寝れないということもないだろうしいいだろう。
だが、一つ問題ある。
「お前、俺は?」
「いえ、玄関辺りで縮こまっていればいいかと思いますが」
「いや、畳の上ですらないのかよ」
というか玄関そこまで綺麗でもないし。
「じゃあ、外で寝るというのは」
「より悪化してない?」
ついに家の中ですらなくなったし。
「いやいや……」
「ああ、そうですわね、外で寝るのは危険ですし」
おお、ようやく分かってくれたか。
「外で起きているという」
「いや、なんでだよ」
違う。
方向性が違う。
「うーん、そうですわね……じゃあ」
ああ、またどうせ、ろくなこと言わないんだろうな。
「じゃあ、三人で寝ましょう、私とお兄様でミンさんを挟むように、そうすれば、3人くらい寝れるでしょう、きっと」
「いや……って、あれ? お、おう、そうだな、そうするか」
思いのほか、普通の案が出てきた。
そうして、ミンを挟んで三人で寝ることにしたのだが。俺は、どうも寝付けないでいた。
隣を見れば、ミンが寝ている。俺も早く寝ないと、とはおもっているのだが、どうも眠気が来ない。
「あー、眠れねぇ」
なんて、小言をぼそりと言ってみると。
「あら、お兄様も起きていらっしゃったのですね」
そう、麻理の声が聞こえてきた。なので、隣にいるミンの更に隣。麻理のほうを見やると、どうやら起きていたらしい。目が合った。
どうやら麻理も眠れないらしく、少しの間、仕様もない話をした。そうしているとじきに眠気がやってきて、寝られそうになった。
「さて、そろそろ眠気も来ましたし、寝ますか?」
「ああ、そうだな」
「では、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
おやすみの言葉を交わし眠ろうとしたところ。
「少々余談なのですが」
麻理が、言葉を続ける。
「こうやって、ミンさんを挟んで寝ると……ミンさんが私たちの子供ように感じられますね」
「え?」
と、麻理が言う。
メアリーの時の口調で言っているので、馬鹿にしているのだろうとは思うが、考えずにはいられない。
先ほどまでじりじりと迫っていたはずの眠気は一体どこへやら、目が覚めた。
悶々としているとどうやら、麻理は寝てしまったらしい。
さて、いつになったら再び眠気はやって来るのだろうか。




