176話・私は彼らに接近する。
遅くなってすみません。PC故障したり色々ありましたが、第11章開始です。
―レフィ=パーバド―
ROJFOHC。曹駛……いや、今の世界の在り方そのものに敵対する組織。
その組織の中心で、私は、一人の男と会っていた。
「そうか、君が、新しくここへ来たという者か……」
ニヒルな笑みを浮かべる男性は、そう若くは見えない。だが、同時に年老いているようにも見えない。なぜだろうか、その男からは、曹駛に似た何かを感じた。
「まぁ、去る者は追わないにしても止めたいところだが、来る者を拒みはしない。たとえ、君が武元曹駛の関係者だったとしてもね」
この部屋には、私と彼の二人しかいない。立場的にかなり上の役職、いや、最上の者であるはずだ、彼は……。曹駛の関係者と分かっている私と、二人きりになるということは、彼はそれだけ強いということだ。
下手に逆らうわけにはいかないどころか、訝しまれることすらも不味い。いつ、どんな状況で攻撃されるか分からないし、攻撃されたら、何がどうあろうと私は死ぬ。勝てない所の相手ではない。
「さて、君は、エルフということだが」
「はい」
エルフは拒まれる……そんなことはないだろう。この組織に関しては、そんなことはなないはずである。
「まず、一つ、勘違いしないでほしい」
人差し指を立て、彼は低い声を部屋に響かせた。
「君は人間だ」
「え?」
彼が何を言っているかよく分からない。私が人間だと言っているように思えるが、私は自他ともに認めるエルフだ。
「そうだな、エルフ……実際にエルフなどは見つかっていないな。この場所では」
「なにを言って、私……私たちの村にいるのは皆エルフじゃ……」
「違うな、エルフのような人間だ。お前たちはエルフなんかじゃない。何故なら、お前が話していることばはエルフ語ではない」
エルフ語? 一体何を言っているのだろうか、彼は。
「分からないようだな」
「エルフも人間と同じ言葉を持っているから人間だと言うの……?」
それならば、納得も反論も簡単なのだが。
「いいや、そんな単純かつ雑で非論理的な物ではないさ。君に言っておくが、エルフはモンスターだ。そこいらにいる化け物と同じな」
「なっ……!」
エルフを敵に回しているような発言。この場に私以外のエルフ、特に過激派のエルフたちがいたら、間違いなく一斉に彼に襲い掛かっていただろう。そして、返り討ちにあって、皆死んでおしまいに違いない。
「本物のエルフはいる。確かにいる。だが、それはモンスター、この地、旧日本にはいないし、そもそも、彼らは人間の言葉を話さない。モンスターにしては高度な知能を持つ、下手したら人間以上のな。だが、それでも、彼らはあくまで人外だ、人間の言葉は話さない」
彼の言っていることに追い付いていけない。話そのものは頭に入ってきているのに、それを受け入れることが出来ない。
「ふむ、納得がいっていないようだな」
「ええ、まぁ……」
「ならば、他の例を挙げてみよう。そうだな、鬼と言う存在がいるだろう」
「はい、ですが……」
鬼は、霊系のモンスターがなるもの。人ではないはずだ。
「いや、君思っている鬼は、本当の鬼だよ」
「え?」
「私が言っている鬼とは違う。多分、君が思い浮かべていたのは、霊系のモンスターの進化態のことだろう。だが、彼らは、本当の鬼だ。先ほどの話しで出てきたモンスターのエルフと同じ、モンスターの鬼。私が言っているのは、人間の方の鬼だ。額に二本角が生えていて、筋骨隆々のな。ただ、本物の鬼と違うところは、肌の色が人間のそれと変わらないところだ。本物の鬼は、滅多に人間と同じ肌の色にはならんだろうな。そもそも、鬼は子供なんて生まない。奴らは、鬼として生まれることはないのは必定であろう、それなのに、鬼として生まれること自体、人間であることの証明に他ならない。彼らは、オーガとも呼ばれるようだが、当然、オーガもまた別の生き物であって、モンスターだ。鬼はともかくオーガには言葉は通じないだろうな。他にもそう言った人間はいくらでもいるが、まだ、納得いかないか?」
反論できないほどではない。だが、何を言った所で、無駄な気がした。何を言おうと、彼は、それに返答できるだけの理由を持ち合わせているように見えるからだ。
「いえ、大体は、納得しました」
だから、ここで波風立てるようなことはせず、ただそう答えておく。
「そうだね、そうしてくれると助かる。それでだ……いま、君たち、そうだな、普通の人間達からは亜人種と言われている、君たち。私達的に言う上位種の人間達は、普通種の人間達から嫌われている気がある。それはおかしいとは思わないか? それだけじゃない、この小さい島の中ですら、小さな国が出来争っている。普通種の人間同士でだ。確かに、人間とは争う物で、争いが人間を成長させる。それは、間違ったことでは無いのだがな、せめてちゃんとした人間の生活を取り戻す、いや、何と言えばいいかな、そうだな、せめて元に戻すくらいの事はしたい。私はそれを考えているのだ」
「元に戻す?」
「ああ、ある程度は聞いているだろう。モンスター達に取られた土地を取り返したいのだよ。私は。モンスターだって所詮生き物に過ぎない。生き物ならば、管理できる。野生のものを森に残しつつも、人間のテリトリーを広げる。そして、科学力も向上させる。魔法というのは実に凄い物ではあるが、使える者と使えない者がいるのでは話にならない。皆が皆使える物と言うのは結局のところ科学の物だ。個人の力では無く、全体の力の物だ。そう言った世界が、過去あったと言ったとしてどこまで信じてもらえるかは分からん。だが、私が目指す世界とは、そう言った世界だ。そして、そこに置いて、上位種の人間は大きな力となる。モンスターと戦うに置いて、君たちほど優れた者達もいないからな」
つまりは、私達をモンスターと戦わせて、人間の住む場所を増やそうっていうことなの。
私たちがモンスターにやられても人間達に被害は少ないだろう。それに、私達は犠牲になってもいいと、そう言っているように聞こえる。
「ふむ、ただ、この言い方だと、悪いように捉えられてしまうかもしれない。すまない、気分を悪くさせてしまったならそれは謝る。別に、私達が戦わない訳ではない。君たちのサポートは全力でさせてもらう。ただ、人間では力不足なのだ。だから、君たちの力を貸してほしい。いわば、太古の昔の武士みたいなものだ。土地を守る代わりに高い位を与えられる。いざという時は、自ら戦うが、それ以外の時は、豪邸でふんぞり返っていても構わない。そうだな、今で言う貴族に近いかもしれない。まぁ、武士も貴族であることには変わりないだろうし、戦う貴族と捉えてもらって構わない。君たちにはそういった者に、なってほしいのだ」
そう言った彼は、言葉を切り、湯気一つ立たないコーヒーを口にした。
「さてと、こんな長い話ばかりさせてもらって悪い。そろそろ、自己紹介をさせてもらおう」
男は立ち上がり、口を開いた。
「私は轆轤。ROJFOHCの創始者だ。よろしく頼む、レフィ君」




