172話・再開したら、
大分期間開けてしまってごめんなさい。これからは、最低週一回更新と言う形を目指しますが、体調や予定次第では出来ないかもしれません。その場合は活動報告にて報告させていただきます。
更新再開です。
―武元麻理―
夜闇にまぎれ、またしても山賊が現れた。立て続けに現れる山賊たちは同じグループだろうか。普通に考えるなら、そうだろう。そうでないとしたら、流石に多すぎる。毎晩のように襲ってくるって事も、仲間の仇討の意味が含まれているとしたら不思議ではない。
「がッ……!!」
一人。
「な、何がッ……!?」
また一人。
無言で、山賊を次々に殺していくお兄様。
相手も攻撃されたことに気付いた頃には、既に全滅しているだろう。
攻撃している間も、何事もなかったかのように歩き続ける。置いて行かれるわけにもいかない。そうしたら、きっと迷惑をかけてしまう。だから、その間は、私も出来るだけ周りを気にしないようにして、歩く。
そうして、歩き続けて、日が昇った。
「よし……そろそろ休むか、麻理」
お兄様は、そんなことを言って、木を切り倒し、その切り株に腰を掛けた。
「そうですか」
この休憩ということ自体、私のためだけのものだと理解している。嬉しくない訳ではないが、それ以上に、足手まといになっていると思うと、どうも素直には喜べない。
「お兄様」
「なんだ?」
私がそう声を掛けると、いつものような口調でそう言葉が返って来る。
お兄様が今無理をしているのかどうかは分からない。必要な人の殺生を拒まないでほしいと、そうお兄様に伝えたのは私だ。だが、今のお兄様は、殺すまではともかく、そこに感情が入っていないように思える。仕方ないとも思っていないように感じられる。作業のように敵対する、いや、邪魔をする人間を簡単に殺している。まるで、それが、簡単な単純作業のように。
「いえ、なんでもありませんわ」
「そうか、ならいいが、早めに寝てくれると助かる。いくら日が昇ったからと言っても、野宿は危険だからな。まぁ、とりあえず、この辺りで寝られる場所を探そうか」
切り株を中心に辺りを歩き回って、寝るに適した場所を探して、木々の覆いしげるこの場所で、一ヶ所、開けた広場を見つけた。しかし、その発見には、もう一つの発見がついてきた。そして、その発見故に、ここで寝るのは不適切と、お兄様は判断したようだ。
そう、小さな一人の少女がそこで眠っていたのだ。
「なるほど、先客がいるのか、ここは」
「そうですわね」
ここは、私達の先にここへ来た彼女の寝床だ。そこに、急に入ったら驚かせてしまう。私達は二人とも半不死のような人型である。だから、その場を去るとしたら私達だろう。
「でも……」
髪の毛はすこしぼさついていて、服も多少汚れている。その汚れも乱れも酷い物ではないが、確かにある。もちろん外で寝たのだから、それは当然である。そして、この程度ということは、きっと1晩か2晩と言った所だろう。
「お兄様、確か、小さな村で暮らしているようなひとたちは、皆、安い素材で作られた簡素な作りの服を着るはずですよね」
目の前の少女の服装は、そうには見えない。目の前の少女の服装はどうも都市的な服装をしている。
ただ、ここに寝ていると言うだけだったらば、近くに村が有るのかもしれないという期待として捉えられたかもしれない。だが、その服装から考えられるもう一つの結論。
「それを聞いてどうする?」
「………」
お兄様がそう答えるということは、やっぱり……
この少女は、捨てられたのだろう。
サキさんに聞いた話では、彼女もまたこのような捨て子だったらしく、森をさまよっているところをお兄様に助けられたとか。お兄様は、過去に似たような経験をしている。ただ、取る行動が違うだけだ。
「そうですか、じゃあ……」
「ああ、さっさと行くぞ」
やはり、お兄様は、今回はこの少女に手を差し伸べると言った真似はしないのですね……
ただ、その行動が間違っているとは言えない。むしろ、これから危険な事をするであろう私たちに付いて来るということ自体、この山賊だらけの森で過ごす事と比べても、足して変わらないようにも思う。だから、正しいと言われれば正しいのかもしれない。
私たちは、少女が目を覚ます間にそっとその場を離れ、先へ歩き出した。
「近くに村は有りそうにないな」
お兄様が、ふと思ったかのようにそう話しかけて来た。
「ええ、そうですわね。山賊も多く出ますし、村はないと考えた方だいいでしょうね」
こう言った場所で村をつくるのは難しいだろう。もしあるとしても、山賊のテリトリーぐらいだ。
私は、そう返事をしたあたりで、自らの体の変化に気付いた。
「お兄様」
「ああ、なんだ?」
「少し、お花を摘みに行ってまいります」
「……ああ、分かった」
少し歩いて、お兄様から離れたところの茂みにしゃがみ込む。
下着を脱いでスカートをまくり、かからないように気を付けながら……って、私らしくないですね。全く……色々な事に気を取られ過ぎていたからって、用を足す際に気を抜くなんて。
後頭部に強い衝撃を受け、顔から地面に倒れこんだ。
ああ、服が、汚れてしまいます。
ヒリヒリとした熱を顔に、生暖かい湿気を腹部に感じながら、意識を手放した。
目覚めた場所は暗く、匂いもきつい……明かりはあるが、1,2本の松明のみで、薄暗い。壁・床・天井の全てが岩でできている。こんな家は、普通は考えられない。きっと、ここは洞窟だろう。そこに住んでいるにしても、これじゃあ居住空間としては不十分だろう。誰かに助けてもらったと言うことは、気絶前の事からしても考えられない。
そもそも、私が今拘束状態にある以上、そんなことは考察以前の問題なのですが。
状況は最悪。
今、私は、両手両足に枷を付けられて、立てられた木の棒に括られている。魔法は……使えない。つまり、この枷は魔封じの道具。寿命消費の魔法ならすり抜けられる可能性は高いが、私の使う魔法は基本的にはコストが高いので……使えませんわ。寿命の長さがそのまま武器や防具となる以上、こんなところで使うわけにはいきません……だからと言って、恐らくここは敵の本拠地、留まっていてもいいことはありませんし。
どうにかここから抜け出す方法を探したいのですが……
「おう、目覚めていやがったか……」
そう言うのは一人の男。薄暗くて分からなかったが、ずっと岩陰に潜んでいたらしい。それが、私が動いたことによって、拘束具が音を鳴らしたのでそれで気付いたのだろう。松明の明かりが微かに当たる場所に出てきた。
「お前の連れには大量に殺られたからな……お返しをしないといけないところだが、どうも、随分と強いらしく、様子に見に行くどころか、夜に外に出たやつはほとんど帰ってこねぇし、帰って来たやつはお前らをしらねぇとな。昼間に偶然寝ているお前らを見かけったってやつが少数いるだけだ。だからな、正直そんなやつらがいるのか、もし仮にいたとして、そいつらが俺らを殺しているのか分からねぇ」
……お兄様が一人残らず殺していた効果は、一応あるみたいですが……雰囲気からすると、解放はしてもらえないでしょう。
「だがな、まぁ、そうでなくとも関係ねぇ。お前が見捨てられるって言う可能性だってある訳だしな」
やはり。特になるものは全て自分の物にするであろう人達ですから。やはり逃がしてはくれませんか。
「一日だ」
「何がです?」
「タイムリミットだ。お前さんの連れを釣るな。それが過ぎたら、お前さんの服も体も好きにさせてもらうぜ」
「そうですか」
「ああ、そして、お前さんがぶっ倒れてから、既に半日は経過したんじゃねぇか? どうせ、来ても、結果は変わらないだろうし、変に期待しないことだな」
そう言い残し、男はまた陰の中に潜んだ。
そして、その瞬間、私は、普通の人間は言え淫に感じることはないであろう感覚に包まれた。
寿命が削られる感覚。
それも、信じられない速度で削られている。お兄様が……何かしている?
突如、鮮血が舞った。血が地を這い、緩やかな傾斜を流れてこちらへ向かって来る。血の小川の源流は、先ほどの男性が潜んだ岩陰。つまり、その男が死んだ。だからといって、お兄様がすぐそこにいるとは思えない……だとしたら、もしかしてっ!!
死ぬより辛い魔法。千里眼を使った……そう言うこと、なの、だろうか……。いや、でもお兄様にその魔法を教えてはいないはず。だとしたら、なぜ、この位置が……
その答えが出るよりも先に、私の体は、外にあった。そして、目の前にお兄様がいた。
「な、なんで……」
「簡単な応用転移魔術だ」
どうやら私は転移魔術で飛ばされたらしい。
「でも、私は魔封じの枷を両手両足に付けられていました」
私が使うだけでなく、誰もが私に魔法は使えないはず。
「それに、場所だってわからないんじゃ……」
千里眼はない。別の魔法を使ったとして、そんな魔法をお兄様は持っていただろうか。
「簡単だ。俺も一つ新しい魔法を覚えてな、誰かの視界を借りる魔法だ。魔力での関わり合いを少なくとも一回は持たないと使えないがな。お前なら、それの心配はいらない」
なるほど、それで、私の目を借りて男を仕留めたと……
「そして、転移魔法に関しては、お前には魔法を使っていないと言うそれだけの話だ」
私に使っていない?
「それは、どういうことですか?」
「入れ替え転移だ。入れ替え転移なら、転移先の状況がどうなっていようが、関係ない。だから、それで転移させた。それだけだ……」
入れ替えた……ということは、もしかしなくとも、誰かが私の代わりに? それは誰か……
今私が立っている場所には、見覚えがあった。
一面木々に覆われているなかで、一ヶ所開けた場所。そこに、私達はいた。
そこは、私の覚えている限り、一人の少女が寝ていたはずだ。そして、彼女は今、この場所にいない、つまり……
「さて、休憩と行きたいところだが、もう既に夕暮れも近い。今は、進もうか。ここはあまり安全でないらしいしな」
お兄様はそういって歩みを再開した。
「え、ええ」
私は、それについて行く事しか出来なかった。
いま、自分の心の中が、分からなかった……




