170話・絶対戻るから、
ちょっと、しばらくの間、更新頻度が落ちると思います。申し訳ありません。
―武元曹駛―
転移というのは使い勝手はいいが、どうも小回りが利かない。行ったことの無い場所には行けないし、転移先がどうなっているか転移してみないと分からない。だから、歩くしかない。
森の中を歩く。
人間やエルフといった知性的な生物などのテリトリー以外のほとんどは、森と化している。色々なところを歩いて来たからわかるが、昔はきっと、こんなではなかったのだろう。
ガラスが自然発生するとは思えない、コンクリートが自然発生するとは思えない。
昔、人が住んで居たんじゃないかと思える森を見て来た。そのかけらはちっぽけでも、確かに、そこにあったという痕跡だった。
人はもっと広くに分布していた、多分、国もこんなに小さくはなかった。いや、今だって小さくはないと思う。国を横断しようとしたら半日は掛かると思う。だけど、そんなものじゃない。この陸地はそれほど狭くない。旅をしたことがあるからわかる。それほど、狭い物じゃないんだ、この世界は。
森の中を歩く。
俺は、歩き続ける。当てはない。ただ、歩くしかできないだけだ。久しぶりの旅でもある。
ミンは姫様達と同様に満曳に預かってもらうことにした。その時、姫様達には合ったのだが……国の事は伝えなかった。ただ、気を付けろとだけ伝えておいた。
この先に何があるかなんてこと以前に、ちゃんと目的の場所があるかどうかも分からない。だけども、こうやって確かめるしかない。
目的地は、奴らの拠点だ。
奴らは幅広く活動している。そして、メンバーも多く、それに、俺と同じ、あの洞窟へ行った奴らも多くいる。それなのに、行動の足並みがそろっているということは、きっと、奴らには拠点がある。そして、司令塔がいるに違いない。ならば、そこを叩けば、奴らを壊滅まで追い込むのも容易になるだろう。
俺は、もう、それしかやれることが無い。いや、それをしなければ何もすることを許されていない。
問題の解決を後回しにした、賭け事なんて言って逃げた俺が悪かったのだ。最初から、それをしていれば、こうはならなかった。
一般人のふりをして働く? それに何の意味があったのか。結局は宝くじを当てただけで、街で昔の知り合いに会うだけで、全てが変わってしまう生活をする意味はあったのか。そんな必要は無かった。その時間、俺は動くべきだったんだ。この問題の解決に。
自分から、離れているような気がしていた。奴らとは違う世界に住めるとも思っていた。そんなことはないのに。
人じゃないなんてことは、麻理を何度も殺し、麻理に何度も殺されたあの時、思ったじゃないか。
人間らしく人を守るには人間らしくいちゃダメだという矛盾に気づいたのは、十分手をくれになってからだったがな……
何かを守るためには、自分を捨てるだけじゃ駄目なんだろう。守りたいもの以外を捨てるくらいの覚悟でいなければ何も救えないのかもしれない。
全てを救おうなんてのは人間のすることじゃない。そして、俺は人間じゃない。だが、ただの化け物に過ぎない。神ではないのだ、いや、神ですら、全てなんか救えない。全てを救ってしまった、世界はきっと壊れてしまう。全てが救われるなんて、全てが救われないのと同意だ。
全てが救われるなんて、人の心がある限り存在しないことなのだから。
森の中を歩く。
歩き始めて、そろそろ一週間と言った所だろうか、不老不死はやはり役に立つ、冒険にはこれほど適したことはない。腹が減ったら死ねばいい。疲れたら死ねばいい。急速な回復は寿命を削るが、辺りの獣を殺し回復させればいい。
「お兄様」
麻理が付いて来たのは予想外だったのだが、回復に関しては俺よりも得意だし、非戦闘魔法に付いても、俺より優れている。だから、決して足手まといになることはない。むしろ、守りたいものが近くにいる安心感がある。遠くにいたら、どうしても気になってしまうから。だからと言って、麻理以外の皆は、どうしても足手まといになるかもしれない。それに、俺に付いて来ることによって、より危険になる可能性が高い。だから、これは丁度いい。麻理が一人俺に付いて来るだけってのは。
そうだ、レフィの事もある……残っているというのが安全と言うわけではないんだ……
「なんだ」
相手がどこにいるのかなんて知らない。だが、ある程度何処に池がいいかは分かる。麻理が自らの術、千里眼を元にして開発したその術で、大体の行先が分かるようになる。
千里眼は、確かに凄まじい効力を発揮するが、麻理が言うに、あれは使えば戻って来れなくなる可能性が高い物らしい。だとすれば、そんな危険な真似をさせる訳にはいかない。それに、大体の位置が分かるのならば、歩けばいいのだ。カーヴァンズ王国から南南東の方角に歩き続けている、途中山もあって迂回したりもしたが、大体同じ方角に向かい歩き続けている。
「お兄様は、私との約束を覚えておりますよね」
麻理の言う約束……それは、心中の約束だろう。
心中……確かに、それを約束した。だが、さて、一緒に死んでやれるかまでは、分からない。時間的には一緒に死ぬことになるのだろうけども、同じ場所で死んでやれるかまではわからない。
「お兄様、私はお兄様意外に、最後に殺されたくありませんし、最後にお兄様を殺すのも、私以外は嫌ですから、それは心中と言いませんから、ですから、この戦いでは死なないでくださいね」
と、くぎを刺された。
なるほど、余計に難しくなってしまったか、条件が……
そうか、それに、今ので思ったが、麻理は、最初から俺と一心同体だったのか。どちらかが死ねば、文字通り共倒れとなる。片方が倒れれば、もう片方も力尽きた折れることとなるだろう。
じゃあ、麻理は、最初から死を覚悟してついてきてくれたわけか。いや、違うな、麻理は、そもそも、俺と一緒に死を遂げるのが最終的な目的なのだ、俺と一緒に寿命を使い切るのが目的なのだ、ならば、今回のこの旅は、そもそもついてくる必要が無いどころか、俺を止めて、一緒に死ぬことも可能だったのだろうが、俺の意志を尊重してくれている。ならば、それに感謝して、俺は進むだけだ。
夜になるまで、森の中を歩き続けた。
そして、未だ、その足を止めたりはせず、森の中を歩く。
夜になると、どうも、よからぬことをする連中が多くなる。気配を感じた方に、魔法を放つ。
放った魔法は風。風魔法の鋭い刃、レフィが得意としていたものだ。これらは音が無く、夜闇の中使用すれば、敵に気付かれることなく、断末魔を上げさせることすらさせず、敵を殺すことが出来る。
気配の感じた方に、次々と魔法を放っていく。そうして気づけば、周りはちょっとした血の海になっていた。
「お兄様、また……」
「ああ、流石にこの量をやると気づかれるか」
「ええ……」
麻理には気付かれないようにと、気は付けているつもりなのだが、どうにも量が多い、流石に静かに殺すと言ってもこの量を殺せば気付かれてしまう。
「……村があれば、食べ物を補給していきましょう」
「ああ、そうだな」
食べ物と飲み物も、俺は摂ってなどいないが、麻理にまでそれを強要するつもりはない、だが、俺が飲み食いしないと、麻理もどうやら遠慮してしまうみたいであるし、俺も時折摂取するふりをしている。それに、自殺する際も、麻理が見たら心配かけてしまうだろうし、麻理が寝ている時にこっそり毒で死ぬようにしている。
俺達は歩き続けた。そうして歩き続けているうちに、日が昇って来た。
かれこれ2課は歩き続けているだろうし、その間村を見ていない。麻理は疲れているだろう。
「麻理、眠いか?」
「ええ、少し……でも、大丈夫ですから心配なさらずに」
と、口ではそう言っているが、俺とは違い自殺による身体の状態リセットを行っていない麻理は、疲労も大分溜まっているだろう。かなり疲れているに違いない。
「麻理」
「なんですか?」
「少し休もう」
「私は大丈夫ですわよ」
「いや、いいから、休もう」
「……分かりました」
俺達は仮眠を取ることにした。
正確には、麻理に仮眠を取らせ、俺は自殺すると言う形だが、それでもいい。
俺達は、どちらにせよ、わずかな間眠りにつくのだから。




