表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
十章・未来。
170/203

168話・その時まで待ってほしい。

 ―レフィ=パーバド―


 会議も終わり、例の穏健派の事も二人に伝えた後、ログハウスから出ると、そこにはシェイクちゃんが待っていてくれた。


「あ、ごめん、待たせちゃった?」

「ううん。別に気にするほどじゃないよ。むしろ、待たせた事よりも心配させたことを謝ってほしいくらい」

「え? あ、ご、ごめん……」

「うん、まぁ、見るところ何もされていないみたいだし、それは良かったけど……みんなぞろぞろ出て来る中、レフィちゃんが出て来ないから心配したんだよ。ぷんぷん」


 両手で角を作りながら、頬を膨らませるシェイクちゃん。『怒っているぞ』と意志は伝わってくるが、雰囲気も感情も何もかも怒っていると伝わってこない。むしろ意志しか感じない。それと、あざとい。


「さて……と……、うーん、まず家に帰る? それとも、村を回ってみる?」


 シェイクちゃんは、振り返ってから数歩歩いたところで足を止め、そんなことを聞いてきた。

 シェイクちゃんは家に帰ろうとしていたみたいだけれども、思いついたかのように尋ねてきた第二の選択肢は魅力的な物だった。確かに、ここで帰ってもいいし、私もそのつもりだったのだけれども……。この際せっかくだし今の村を見て見たい気分もあるし、それもいいかもしれない。


「じゃあ、シェイクちゃんが良ければだけど、村を案内してもらえないかな?」

「もちろん、私から誘った事だし、悪いわけないよっ!」


 少し駆け足気味で私の目の前まで戻ってきたシェイクちゃんは私の手を取り、笑顔を見せた。


「で、レフィちゃんはなんかリクエストとかある? ここ行きたーい! とか、こういうとこみてみたーい! とか」


 ニコニコしながら、掴んだ私の腕をぶんぶんと振り回している。なんというか、不思議な気分だ。でも悪い気分じゃない。まぁ、腕は多少痛いのだけれども。

 もしかしたら、同年代の友達ってこういうものなのだろうか。まだ、付き合いは一日どころか半日にも満たないのだけれども、シェイクちゃんの積極的な姿勢もあって、まるで友達のようだ。当時は友達がいなかった。今は、もはやエルフに会うことすらがなかった。だから、もしも、私にエルフの友達がいたとしたら、こんな感じなのかな。

 どっかに行こうって。今日はどうするって。

 今になって。数年越しに。やっと。

 私は、何かを手に入れられたのかもしれない。


「おしゃれな服とか言ってあげられたら、シェイクちゃんは喜ぶのかもしれないけど……」


 案の定、『おしゃれな服』の辺りまで聞いた時のテンションと、その後の『言ってあげられたら』までで聞いた時のテンションの差が凄い。というか、おしゃれな服屋さんあるのか。


「えっと、シェイクちゃんからしたら毎日見慣れているもので、つまらないかもしれないけれど、私は、村の皆の今の暮らしが見たいかな。今、皆がどうしているか、気になるから」

「そっか、久しぶりだもんね、エルフの村」

「うん」


 全てが久しい。そして、久しいどころか。当時私が持っていなかったものなんて、両手で数えきれないくらいある。あの時の私が、もう少し普通の女の子ならば持っていたものだってあるのかもしれない。私がこんな性格をしていなければ持っていたものだってあるだろうし、お父さんとお母さんが違ったなら持っていたモノもあるだろう。

 別に私は、今の私が嫌いなわけじゃない。少し前までならともかく、今は、自分を肯定できている。それに、お父さんとお母さんに関しては、むしろ誇っていたくらいだ。嫌だなんてことは微塵にも思っていない。大好きな二人だった。

 でも、今になって、今だからこそ、曹駛やいろんな人に囲まれて過ごした後のいまだからこそ、たまに考えてしまうのは、曹駛がもしも村に来なかったとして、そして、私がもっと普通の、ごく普通の女の子だとしたら……なんて考えてしまうのだ。

 いったいどんな生活をしていただろうか。性格は分からないけど、いや、この性格のままでも、もう少し魔法の才能が無ければ、ほんの少しでも少なければ、この性格。いや、あの性格と言った方がいいかもしれない。今の私と当時の私は、かなり違う。同じ物とは言えないだろう。本質は同じかもしれないけれど、それこそ、本質だけだ。考え方も違うし、思っていることも違うだろう。ならば、それは、同じものではないのだ。

 私の性格がそのままだったとして、私の魔法の才能があと少しでもなかったとしたら、もう少し普通に振る舞えていたのかもしれない。もしくは、もっとひどかったかもしれないけれど。


「じゃあ、まずは、商店街に出てみようか、レフィちゃん」

「う、うん」


 シェイクちゃんは、未だ掴んだ私の腕を離さず、そのまま駆け出した。そして、私もシェイクちゃんに引っ張られるように走った。

 別に、走る必要は無いのだけれども。たまにはこういうのもいいか。意味もなく走る。友達に手を引かれながら。

 商店街にはすぐに着いた。本当に目と鼻の先だったのだ。

 商店街。というよりは、市場のようであった。店を構えると言っても、建物を作って、そこで営業している訳では無く、大きな岩を平たく切断した上だったり、布を敷いた上だったり、屋根を置いたその下だったりと、さながらフリーマーケットや屋台街のようである。


「さてと、なんか食べよう。なんか。甘い物とか。甘い物とかさっ!」


 そう言いながら、一直線で向かった先には、一軒の屋台。


「おばちゃん、あれ、なんだっけ、ほら、最近出来たあれ、あの果実ちょうだいっ」

「あー、はいはい、五歛子椰子(ごれんしやし)ね、で、いくつほしいのかい? 二つかい」

「うん、2つちょうだい」


 いったん手を離し、屋台の人にお金を渡し、その両手に、大きな物を二つ受け取った。


「へへっ! どう? 最近出てきたばっかの奴。森と暮らすエルフですら最近見つけたばっかの果物なんだから、人間と一緒に暮らしてきたレフィちゃんには新鮮でしょっ!」


 それは、独特な形をしていて、サイズも大きい。私の顔よりも一回りか、二回りは大きい黄色の果実。シェイクちゃんが片手で持っているものだから、渡された際、片手で受け取ってしまったため、落としそうになった。それは、この独特な形状の所為もあるが、一番は、思っていた以上に重かった事だ。


「あ、あと、レフィちゃん、これ」


 そう言って、彼女が差しだしてきたのは、ストロー……ストロー? プラスチック製?

 どうやって仕入れたのだろうか。彼女の手にはプラスチック製のストロー。そう言えば……今思って見ると、私が小さかった頃には、既にプラスチックだとか、ビニールで出来ている者は多かった気がする。あれらはどうやって作っていたのだろうか。よくよく考えてみると、不思議な物だ。

 金属は土魔法で作れることは知っているが、こう言った物はどう作るのか……

 あの頃ならばまだ、人間の町に買いに行ったとかも考えられるのだが、今、それは考えられないから、当時から何らかの方法で精製出来ていたのだろうか。

 シェイクちゃんからストローを受け取りつつ、そんなことを考えていた。まぁ、あとで、訊くとしよう。

 今は、この不思議なフルーツをどうするかだ。


「えっと、まぁ、このまま食べてもいいけど、一回、真上か真下から見てみてよ」

「なにかあるの?」


 何やら自信ありげに、推し進める彼女の言うことを聞き、真上からこの果実を見てみると……っ! 星形だ。えっと、似たようなのを曹駛に食べさせてもらったことがあるような……ああ、そうだ、スターフルーツ。あれもまた、これと同じ星形であった。それに、ヤシってことは……なるほど、この重さと渡されたストローにも納得がいく。


「ということは、えっと、なんとなく分かった」

「食べ方が?」

「うん、なんとなくだけどね」


 私は、スターフルーツは固くなかったのと、この果実のさわった感じから、硬くないと判断し、五歛子椰子にストローを突き刺した。そして、ストローに口を付け、吸い上げると……少し青臭いが、ヤシやスターフルーツよりもずっと甘い。えっと、味的にはどちらとも似ておらず、どちらかというと、サトウキビジュースに近い気がする。それと……私の予感では……この果実はこの中の液体だけじゃなくて、この果実自身も食べられるはずだ。そう思い、思い切って、星の端っこを齧ると……まるで、和梨のような感じだった。結局のところ、スターフルーツ要素は見た目だけのようだ。まぁ、私はあまりスターフルーツを美味しいとは思わなかったので、そこまであの果物の味に関してはこだわりが無いしいいのだけれども。


「凄いね、私なんか、最初はどうやって食べればいいか分からずに、包丁で切ってどばしゃーして、後片付けが大変だったのに……もしかして、もう、食べたことあった?」

「ううん、始めて食べるよ。でも、伊達に色々な物食べてないから。これにそっくりな果物はしらないけど、一つ一つパーツでは似ている果物を知っていたし、ストローを渡されたから、なんとなくやってみたら正解だったってだけ」

「むぅー、知識自慢したかったのにぃ……」


 彼女もまたストローを五歛子椰子に刺して、文句を言いつつも甘い汁を飲んでいた。こちらを上目づかいで見ながら。うん、相変わらずあざとい。狙ってやっていそうなところが何とも。


「えっと、まぁ、それで、次はどこ行く?」

「うーん、そうだね、ちょっと、店を見て回ってから、その畑とかも見たいかな」

「うん、分かった……じゃあ、行こっか」


 彼女は、またしても私の手を取り歩き始めた。

 急に片手を掴まれたので、また五歛子椰子を落としかけたのだが、少し中身を飲んで軽くなったのと、彼女の持ち方を真似てこの果実の谷となる部分に指を差しこむようにして持ったところ、結構安定したため、この先よほど気を抜かない限り落とすことはないだろう。


 その後、色々と店を回って見たところ、昔とあまり変わらないと思った。良くも悪くも。私的には懐かしいと思う部分が多く、あまり悪いとは思わなかった。少し、不便かなとは思ったけれども。

 畑も見て回った。畑では、さまざまな作物が栽培されていた。中には、昔は栽培していなかったものもある。この辺りでは、昔より良くなっているのかもしれない。水田もあった。季節が季節なので、そこには何もなかったが、昨年使われた痕跡である稲株が残っているから、ここでは穀類が育てられているのだろう。シェイクちゃんに用意してもらったサンドイッチと、先ほど店を回っている時に見たパンから推測するに、米だけでなく麦も栽培しているのだろう。

 そして、今更になって気づいた……辺りを見渡せば森。そして、その奥は、四方八方山で囲われていた。

 ここは、盆地と呼ばれる場所だ。昔、色々なところを歩き回った曹駛は私に昔話のようなエピソードを加えながら、豆知識を話してくれるんだけど。盆地は、トンネルがあればいいが、あまりあるものではないから、山を越えるか、大きく迂回して谷を探さないと、いけないから面倒臭い場所だって言っていた。つまり、ここは、昔住んでいた場所からは離れていることが分かる。最低でも山一つは挟んでいる。トンネルなんてあるかどうかわからない以上、山を越えなければいけない。とても近いとは言えない距離である。

 つまり、ここには、人間が来られない。来たとしても、大人数ではないだろうし高確率で迷っている人だから、ここなら安心して大きな畑や水田を持てるということか。

 それにしてもだ……


 もしかしたら、私は、とんでもない所に連れてこられたのかも知らない。



シェイク=ポーポートの話だと、プラスチックなどに関しては、色々な複合魔法となる訳ですが、水魔法と土魔法をベースにしているらしいです。でも、詳しくは良く知らないだとかなんとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ