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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第一章・高慢エルフ買いました。
17/203

17話・日常回帰、奴隷買いました。

「お金が入りました……」


「お金が入りました……」


「お金が入りました……」


 部屋の中で何度もそう呟いている、少々気味の悪い男が、そこには居た。

 お察しの通り。

 そう、彼の名前は武元曹駛だ。


「そろそろ買い時だろう……」


「やっぱあいつだよな……」


「まだ売れ残っていてくれるかな……」


 そんな彼の気持ち悪さは、レフィがドアの隙間から部屋をチラ見して、無言でその場を立ち去ったほどである。

 とりあえず、気持ち悪い。

 今日の彼の部屋は、どことなく不気味であった。

 原因は一目瞭然ではあるが……。




 ということで、やって参りました。

この私、武元曹駛がいるのは、そうここ、奴隷市は西区です。

 西区にある店では高級奴隷店が密集しております。

 そんなところに、私が贔屓にしているお店が一軒……それは、ここ、『ジャキラル‘Sショップ』という、一見普通のお店です。

 まぁ、基準がわからないので、どのくらいが普通なのか分からないんですが。

 あと、贔屓にしているとかいっても、ここで奴隷を買ったこと一回しかないんですが、ここ以外の店に入るのが怖いだけなんですが……。

 よし、それは置いておいて、今日は()()少女を買いに来た。

 まぁ、まだ居ればの話だが……。


「いらっしゃいませ……おや、これは曹駛様ではございませんか」

「よお、繁盛しているか?」

「ええ、おかげさまで……本当におかげさまで」


 まぁ、大金という一言で済ませられないほどの大金を払ったからな。そりゃ繁盛しているだろう。


「本日はどのような御用で……」

「そうだな、前回と同じかな」

「と、申しますと、またあの場所へ?」

「ああ」

「承知しました、では、ごゆっくり」




 曹駛は店を出て、迷わずに足を進め、奴隷館に入る。

 そして、一階、奥から数えて三番目の東側の部屋のドアを開ける。

 中は(もぬけ)の殻で、藁と毛布が積んであるだけであった……と二度も騙されたりはしない。というか、まだ一度も騙されていない。


「よしっ」


 毛布の中にまで、よく声が聞こえるように、少々大きめの声を出す。

 ビクンッ……、毛布が跳ねた。

 ちゃんと曹駛の声は中まで届いたようだ。


「あれ? おかしいな~、毛布が動いたぞ~」


 演技感満々である。

 曹駛は、トコトコと毛布に向かって一直線に歩いて行き、毛布を掴んで、思いっ切りそれをはぎ取った。


「ハローガール」

「わ、わわ、わわわ……わあああぁぁっ!!」


 少女の悲鳴が奴隷館に響いた……。




































「って、終わらねーよ、ここで終わるわけないだろ」

「ぐぬぬ……こうすれば、帰ってくれると思ったのに」

「いやいや、帰るか」


「はぁ……」と曹駛はため息をつき、一呼吸おいてからこう言った。


「それはさておき、久しぶり」

「久しぶりです」

「お前は誰かに買われたか?」

「いえ、嬉しいことにまだ……」

「だよな……じゃあ、一緒に来い」

「……? ……!!」

「いや、感嘆符と疑問符だけで表現されても伝わらねーよ」

「………」

「ほらっ、付いて来い」

「……!?」


 曹駛は、少女の手を掴み引っ張る。抵抗するかのようにも思われたが、少女はあっさりと付いて来た……。

 この少女は、本当にあの時の少女なのか疑ってしまうほど、今日の彼女は大人しかった。

 とぼとぼと歩く少女の手を引く曹駛の姿は、歳の離れた兄、もしくは若い父のようにも見えたかもしれない。

 もちろん、実際はそのどちらでもなく、そんな心温まる話でも有りそうな関係ではない。

 奴隷と顧客。

 そんな関係である。

 だが、連れられている少女の顔には、どことなく安心が見受けられた。




「こいつはいくらだ?」

「……それでよろしいのでございますか?」

「ああ、こいつがいい」

「そうですか……少々お待ちください」


 いくらだろうか。

 まあ、2億ギジェあるし、大丈夫だろ。

 お金万歳。

 金持ち最高。


「お待たせいたしました、料金は1万ギジェとなっております。今すぐ連れ帰りますか?」

「ああ、テイクアウトで……料金は……ほら、これでいいか?」


 曹駛は、ポケットから小切手を取り出し、慣れた手付きで記入していく。

 提示金額より少し多めの数字を記入し、ジャキラルに手渡した。

 金持ち気分だ。チップのつもりなのだろう。


「確かに……ありがとうございました……」


 曹駛は、お金を払い終わると、また少女の手を引き歩き始めた。

 向かう先は街。それも、高級店の立ち並ぶ地区である。


「お前、街は見た事があるか?」

「し、失礼ですね、街くらい見た事ありますよ」

「別に馬鹿にしている訳じゃねーよ……それと、そんなに怯える必要は無い。なんたって、今日からお前は俺の所有物だぜ」

「それが心配なんじゃないですか……」

「なんでだよ」

「ろ、ろ……ろりこん……」

「いやいやいや、違うから、なんか勘違いしてるから、それ。ていうか、顔を赤らめながら言う事でもないだろそれ、勘違いするぞ? 俺」

「や、やっぱり、ろ、ろりこんじゃ、な、ないですか……」

「怯えないでくれよ、前みたいな接し方でいいんだぜ」

「は、はい……」

「………」


 打ち切り。

 会話が途絶えた。

 随分と早い、会話の終了だった。

お互い無言のまま、しばらく歩いた。


「そ、その、街は別に好きじゃねーです……」


 先ほどまでと比べると、少し(ばか)しは、落ち着いたのか、少女から曹駛に話かけた。

 喋り方もちょっと元に戻っている。……と、いっても無理しているような気もするのだが……。


「そうか、なんか理由でもあるのか?」

「……私は捨て子なんですよ……」

「……なるほどな、だからか」

「はい」


 捨て子が街で生きていくためには、尋常ではない、苦しみや恐怖が伴う。

 奴隷と同じく、彼らの人権は存在しないのだ。

 法で裁かれないと言ったら、良いようにも感じるかもしれない。だが、どんな私刑にかけても問題ないとまで言えば、その恐怖や苦痛が、想像できるかもしれない。

 道行く人から意味なく殴られても、文句は言えない。

 いつ殺されても、犯されても、何一つ文句は言えない。

 やりかえすことは出来るが、どんな仕返しが来るかは分からない。

 刑は国でなく、一般個人や一般集団によるものであるからだ。

 死んだ方がマシなものだって、いくつ有るか分かったものではない。

 この子のように見た目が良いのは、捕まえられて、奴隷として育てられることもある。

 つまり、この子も捕らえられた子だという事だろう。

 今日の彼女が、接待服従モードのような接し方が出来ているのは、奴隷として育てられたからであろう。まだまだ、幼いと言うのに……。


「まぁ、それに関しては、もう心配するな。少なくとも、今のお前は、俺の所有物だ。相変わらず、お前に人権は無いが、俺にお前の所有権がある。それさえあれば、他人に手出しは出来ないさ」

「……はい」

「だから、元気だぜ。……あっ、そうだ、飯でも食おうぜ、飯。お前は何が食いたいか?」

「い、いえ……特に……」

「遠慮するなって、なんでも食いたいものを言え」

「そんな……私ごときが……」

「だから、卑屈になるなって、なんでもいいから、なんか食べたいもの言えよ、歓迎会代わりになるかもしれないが、なんでも好きな物食べさせてやる」

「……じゃ、じゃあ……その……お肉……」

「肉か?」

「はい……その……お肉……お肉が食べたいです……」

「分かった、肉か、肉はいいよな、よし、肉を食べようぜ」


 曹駛は歩行速度を上げた。

 その理由がなんなのかは、彼にしか分からないのかもしれないが、また接待服従モードに入っている彼女ではなく、肉を目の前にして、本能を前にして、その偽物(せったいふくじゅう)の裏から、堪えきれず出てくる素の彼女を、猫を被っていない彼女の事を早く見たかったからなのもしれない。

 一方で、少女も、偶に躓いて扱けそうになりながらも、頑張って曹駛に合わせた速度で歩いた。

 少女の気持ちも、少女しか知らない。

 ただ、彼女を見て分かることがあった。

 歩幅の関係で、早歩きに近い状態のはずだが、彼女の顔に映っているのは、疲労感ではなく、確かな安心感があった。




「さ、着いたぜ、焼肉屋」


 女性を連れて入るような場所ではない気がするが、相手は幼い少女なうえ、奴隷だから大丈夫だろうという、曹駛的理論が有ったので、曹駛はここを選んだ。

 店の見た目は普通の焼き肉店だが、周囲の店と同様に超高級店である。


「や、焼き……肉……」

「入るぞ……」

「はい……」


 焼肉屋の看板を見つめている少女の目は、キラキラと輝いていた。

 そんな彼女を見た曹駛は、選択は間違ってなかったと、自分の理論を正当化したのであった。

 曹駛は、少女の手を引き店内に入っていった。


「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

「はい、2名です」

「はい、分かりました、それでは席へご案内します」


 店員に連れられて、個室に案内される。


「こちらのお部屋へどうぞ。では、注文決まりましたら、その都度お呼びください」


 曹駛が座り、それを見届けてから、少女もテーブルを挟んだ対面側の席に腰を下ろした。

 この店は、かなり肉の種類が豊富である。

 以前、曹駛が食べていた、ソードバードの肉などもある。

 一般的な肉のみならず、肉なら何でもござれのおみせであった。


「………」


 少女は輝く目の割に、じっと大人しくしていた。

 いや、していなかった。涎がちょっと出ている。そんなにお腹が減っているのだろうかと曹駛は思った。


「どうした、好きなもん食っていいぞ」

「い、いえ、そ、そ、そんななんでもいいですから、その、あなたが注文してください」

「いやいや、お金はいっぱいあるから、ほんとに好きなものを食いたいだけ食っていいんだぜ」

「で、でも、そのあと、私はあなたに食べられるとか……物理的に……生理的に……」

「いや、ないない、ないから、そういうの」

「じゃ、じゃあ……その、性的に……」

「いや、もっとねぇよ……ていうか、なんで俺がロリコン扱いされてんの……」

「だって、私を買うっていうことは、そう言う事でしょう? ろりこんでどえすなんでしょ?」

「いや、誤解だって、そんなことないって。だから、好きなだけ食っていいって」

「でもそのあと……」

「いや、だから大丈夫だから、そんなことしないから」

「ほ、本当に……?」


 涎をダラダラ垂らしながら、少女はそう問いかけてくる。

 いや、そこまでいくんなら、我慢しないで食べたいものを食べればいいと言うツッコミは、野暮である。

 その様子を見た曹駛は、あと一歩で素の彼女が見られると、さらに肉の誘惑を仕掛けにいく。

 そして……。


「ああ、だから好きなものを食べろ」

「あ、あり……がと……う……」

「泣くほどなのか?」


 ついに、彼女の本能が欲求が、彼女の理性による服従姿勢を上回ったのだ。

 少女は泣き始めた。

 テーブルは彼女の涙とよだれでビショビショである。

 曹駛は、黙って少女の顔をハンカチで拭いてあげた。……あと、ついでにテーブルも、もしものためにと持ってきていたタオルで拭いた。




 しばらくして、少女が少し落ち着きを取り戻した頃……。

 少女は、曹駛に最終確認を取っていた。


「じゃ、じゃあ、いっぱい食べますけど、いいんですよね?」

「ああ」

「ほんとにいっぱい食べますよ」

「ああ」

「お代がいくらになるか分かりませんよ」

「ああ」

「私が好きに注文しますがいいのですよね」

「ああ」

「その、好きです」

「ああ……ああっ!?」

「い、言っちゃった……ぽっ……」


 それと、告白もしたらしい。


「いやまて、おかしい。さいごのがおかしい。あまりにもびっくりしすぎておれもことばがおかしい」


 対する曹駛は、何を言っているか聞き取りづらいくらいの速度でそう言ったっぽかった。




 そして、食事も中盤。

 食事の中盤が何なのかは分からないが、本当に良く食べる子であった。

 与えたら与えられた分だけ食べる。多かろうが少なかろうがそれだけ食べる。

 曹駛には、その姿が小動物と重なって見えたそうな……。


「その、おまえ、本当にいっぱい食べるんだな」

「最初に……もぐもぐ……言ったじゃ……もぐもぐ……ないです……もぐもぐ……ごくんっ…………か」

「いや、ちゃんと呑み込んでから話せよ。おまえ、口に物入ってない状態で言った言葉『か』だけじゃねーか」

「おまえじゃねーです。私は、テンチェリィです。テンチェリィ=カワドリャと言う名前があるです」

「……おまえ、名前あったの?」

「はい、2年ほど前に自分で付けましたです」

「そうか……なら、よろしくなテンチェリィ」

「はいよろしくです……えっと……」

「曹駛だ。武元曹駛」

「そうですか、よろしくお願いします……お兄ちゃん……」

「えっ……あっ、うん……」


 その後もテンチェリィは食べまくったらしい。

 支払金額は2500ギジェ。平均年収の四分の一である。値段で表すと、高級店とはいえ、彼女が、どれだけの量を食べたか容易に想像できるだろう……。

 曹駛が、またしても慣れた感じで、小切手を店員に渡し、二人は店をでた。

 店に入ったころは夕方であったのだが、辺りはすでに夜の暗闇に呑まれていた。


「その、外……真っ暗になりましたね……」

「お前が、めちゃくちゃ食うからだろ……」

「あそこに……泊まっていきませんか……」


 テンチェリィが建物を指さしながらそう言う。


「泊まりか……確かに、もう遅いしな……」


 曹駛は、そう言いながら、その指の先を見た。

 頬を赤らめたテンチェリィの指さす先には……色とりどりの光を放つ怪しい雰囲気のホテルが……。


「……って、ラブホじゃねーかっ!! 帰るぞ、まったく……」

「む……意気地無し」


 曹駛に聞こえないように、ぼそりと呟く。

 不満そうな表情とは裏腹に、内心ホッとしているのは内緒のテンチェリィであった。




 その後二人はレンタル馬車で帰りました。


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