166話・今はもう少し、
新章入りました。
それと、ブックマーク500件超えました。ありがとうございます。
作者的には、終わりが見えて来ました、この作品は、皆さまのブックマークなどでここまで続きました。本当にありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。
―レフィ=パーバド―
目を覚ますと、私は、ベッドの上にいた。
木の匂いが鼻をくすぐる。ここは何処だろうか。部屋は、木で出来ており、壁や天井の木目がこちらを見ているようにも思えた。
それにしても……生きている……私は、生きている。
あの時、死んだかと思った、血液が抜けていく感覚、死が近づいたあの感覚。周りに、私を救える人などいなかったし、曹駛とメアリーもきっとすぐには助けに来ないと思った。だから、死を覚悟した。だけど、私は生きている。
本当にここは何処なのだろうか、曹駛の知り合いの家……って言うことも、考えられなくはないけど、その線は薄い。
こういう作りの家は、懐かしくていいのだが、誰の物かも分からない今は、少し居心地が悪い。それに、本当に生きていることを安心していいかどうかは、まだ分からない。目覚めた以上、いつまでも気を抜いてはいられない。
ぺしぺし……と軽く両ほほを叩く。と、やったところで、この部屋のドアが開いた。
「あ、目覚めていたんだね……良かったぁ、助かって」
「あれ? あなたは……」
この部屋のドアを開けて入って来たのは、私と同じくらいの年の凄い派手な服装をした少女だ。だけど、耳が尖っているし、微弱だけど、魔力を感じる……エルフ……だよね。この子……
「私はシェイク。シェイク=ポーポートだよ。まぁ、えっと、楽にしててね、どうせ、部屋はいっぱい余っているから」
「えっと、ここは?」
「はい。ここは私の家ですけど……うん、一人で済むにはちょっと、広すぎるかなって思っていたところだし、どうぞどうぞ、一緒に住みましょうっ!」
「えっ? いや、どういうこと?」
シェアハウスのお誘いが来たんだけど……これは一体……
「あれれ? うーん、説明はついていると思っていたんですけれど……」
そう言うと、彼女は手を顎に当て、首を傾げて何かを考え事を始めた。
認識に違いでもありそうな雰囲気だけど……ややこしいことになっていないことを祈ろう。
「あの? お聞きしますが、どこまで今の状況把握できています?」
やっぱり、互いの状況認識に違いがありそうだ……
どうやら、見る限り彼女は敵ではないようだけれど、どうしたものか。
「今の状況の認識というところだけ言うと、実のところ、何も分からないわ。まぁ、あなたからシェアハウスのお誘いが来たって事だけは分かったけど……あなたは、えっと、エルフよね……と、すると、ここはエルフの隠れ里って言った所かしら」
「場所の把握と、シャアハウスに関しては置いておくとして、つまるところは、何も知らないと……なるほどなるほど……場所に付いても、なんか推理チックな言い口でしたしねぇ……はぁ……つまるところ、何も知らないのかぁ……」
なんか、ため息をつかれた……あれ? これって、私が悪いの?
「えーと、じゃあ、私の認識を話しますね。これで実際あっているかどうか怪しくなってきたんだけど、まぁ、何も知らないよりはマシでしょうしぃ……」
「う、うん、ありがと」
ここは、ありがとうでよかったのか知らないし、なんでそんな面倒くさそうな顔をして渋られるのかは分からないけど……まぁ、とりあえずありがとうと言っておいた。
「そうだね、私は、あなたは人間の街にいたから連れて来たって聞いた。新しくこの村で住むって言っていたけど」
「そうなの?」
「あー、やっぱり知らない感じなのかー……うん、まぁ」
彼女のテンションは、見る見るうちに下がっていく。なんか悪い事をした気分だが、何もしていないはず。
「あー、そのー、あれだよ、私も実のところ、それしか知らないんだけど、まぁ、要するに、これからあなたもここの村の一員だよってことじゃないの? 多分……でも、その様子だと、なんか、無理やり連れて来たっぽいねぇ……あぁ……なんとなく分かった、うん、なんとなく分かった。そうか、だから、あんな怪我してたんだ……うん、つまり、無理やり連れてこられたパターンかぁ……つまり、押し付けられただけじゃん、もうっ!」
「なんか、ごめんなさい」
とりあえず、謝っておくけど、私は特に何もしていない。むしろ被害者であることが発覚した。でも、謝っておいた。
「あー、いや、いいんだけどね、別に。良く考えなくても、そっちも被害者みたいだし、というか、危うく死ぬところだったし。なんかごめんね」
「別に、私は生きていられたわけだし、いいんだけども……それで、ここに住むって?」
ここに住むということは、エルフとして済むということだが……別に捉えられたわけではないのだろうか。
「私と一緒じゃいや?」
「いや、そう言うことじゃないんだけど、ただ、私は囚われの身じゃないのかなって思って……」
「あぁ、そういうことね、びっくりした。てっきり私が嫌なのかと……ああ、まぁ、別に、そういうことは特にないと思うよ、この村の人たち無駄に仲間意識高いのが多いし」
「そう」
「うん、だけども、ちょっと排他的すぎるのは考えものなんだけどね」
やれやれといった仕草をしながら、彼女はそう言った。こういう考えをするエルフもいるみたいだが、彼女の口ぶりからすると、少数もしくは、彼女だけのようだ。つまり、ここは、かなり排他的なところらしい。私は、たまたまエルフだったから。たまたま、お父さんの娘だったから、入れたようなものだろう。
「ところで」
「なに? えっと、確か、レフィちゃん」
「え、あ、うん」
レフィちゃんなんて呼ばれかた、あまりしないから慣れていないせいか少し恥ずかしい。
私は、先ほどから一つ気になっていることがある。
「そのね、一つ質問していい?」
「うん、いいよ」
「その服装は、今流行っているの?」
そう、彼女の服装。彼女は、やたらひらひらついたフリフリのスカートに、派手なノースリーブの服、そして、白い指ぬきグローブに、大きな蝶々の髪飾りとリボン。まるでアイドルのようだ。
「あ、これ?」
彼女は、自分の服を指差す。
「うん、それ」
「この服装は、別に流行っている訳じゃないけれど……」
一安心。流石に流行っているとはしえ、それを切るのには抵抗感がある。
「じゃあ、なんか、理由があるの?」
もしかして、本当にアイドルとか。村のアイドル的な?
「この服の理由なんてないよ、ただ可愛いから。他に服に理由なんていらないでしょ」
「え、あ、うん」
なんというか、凄い。そこまで、可愛さを求めるのか、機能性を無視してまで。なんか負けた気がする。
「で、質問って、それだけ?」
「え、ええ、とりあえず、今のところは」
「そっか、じゃあ、今からちょうどお昼だし、一緒に食べよう。ちゃんとした自己紹介とかは、その時にしよう。さて、一人で起きれる?」
「ええ、多分」
私は、ベッドから抜け出して、立ち上がったところで気付いたのだが、服が変わっている。あの服は、破れちゃっているだろうし、それもそうなのだけど。
ふわふわしたピンク色のファンシーなパジャマを着せられていた。可愛いんだけど、これは一体……
「あ、それ、気に入ってくれた? うん、きっと私より似合うと思って着せてみたんだけど、凄いにあってる。可愛い。可愛いよ、レフィちゃん」
「あ、うん。あ、ありがとう……」
そう褒められると、少し気恥ずかしい。
「さて、行こう行こう」
私は手を引かれ、食卓に向かった。食卓に着くと、そこには二人前の料理があった。
テーブルを挟んで、その両側の椅子の前にきのこのスープと、サンドイッチが置いてある。
「ふふん、私の見立てでは、今日のお昼には目覚めると思っていたから、あらかじめ二人分用意しておいたのだー、はっはっはー」
「ありがとう」
「うん」
彼女が椅子に座ったので、私も、もう片方の椅子に座った。
「さてと、自己紹介しよう、私は、シェイク=ポーポート。元気に可愛くやっています。得意としている魔法は、回復。というか、それしかできない。趣味は、裁縫と料理。よろしくぅ!」
椅子の上に立って、ピースした右手を右目の横に置いて、ウインクした彼女は、そう言った。なんだろう、可愛いには可愛いんだけど、かなりあざとい気がする。それにしても、なんという女子力の高い趣味だろうか。
「よいしょ……さ、次はレフィちゃんの番だよ」
彼女は椅子から下りて、座ってからそう言った。
「えっと、レフィ=パーバドです。かれこれ数年人間の町に住んでいたけれど、ちゃんと生活したって言えるのは、あまり多くないからその辺りは、ちょっと期待しないで欲しい。得意魔法は風。これからよろしく」
「うん、うん……いいね、可愛いよ」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、質問たーいむ。なんか質問とかあれば、どうぞ。久しぶりだから、分からないでしょ、今の村の事」
「あ、うん。ありがとう」
質問か……聞きたいことは沢山ある。ありがたい申し出だ。気配りも出来るし、本当に女子力が高い。
「えっと、じゃあ、一つ。今、エルフの皆はどうやって生活しているの?」
「昔と大して変わらないよ、ただ住む場所が変わっただけ。まぁ、そこは気にしなくてもいいレベルだから、大丈夫だよ」
「じゃあ、今の村の人たちの人数とかは」
「うーん、それも昔と変わらないかも……最初は凄く数が少なかったんだけど……大分時間も経ったしね」
「うーん、じゃあ、大して村は変わっていないの?」
「うん、そうだね」
そっか、そこは少し安心した……けど。
「やっぱり、あの、あ、悪魔は怨まれているの?」
曹駛を悪魔と呼ぶことに胸が痛んだが、ここではそう言わないと伝わらないだろう。
「……うん。まぁ、そうだね。一般的には、そうだと思う。その、村の大体の人は、彼に恐怖心か殺意を抱いているね。まぁ、心配しなくてもいいよ……うん、大丈夫。なんとなく分かった……そっか、会ったんだね、その人と……それと、多分。君は、その人が好きなんだね」
「え、ち、違う。そう言うことじゃなくて」
「いいよ、別に、ボクは別に怨んでいないから。元々、家族なんていなかったし……ボクだって、知っているよ、その人。覚えているよ、村に来てた時の事も。確かに、レフィちゃんは仲良くしていた。それも覚えている。大丈夫、ボクは怨んじゃいないから……だから、そんな辛そうな顔してまで、その人の事を悪魔なんて呼ばなくていいよ、まぁ、流石に村でその名前を出すのは控えた方がいいかもしれないけど」
「え……」
「うん、大丈夫、知っているよ、きっと、彼、手を抜いていたんでしょ。まぁ、それでも一杯殺したわけだけど、でも、そうじゃなければ、君のお父さんとお母さんを一人で倒せるほどの人が、こんなに多くの人を取り逃がすとは思えないから、なんとなく推測は出来るよ。だから、大丈夫だよ。ボクの前では、その人を名前で呼んでも」
「あ、ありがとう」
そっか……理解者は……いるんだ。この村にも、いるんだ。エルフにも、いるんだ。
「さてと、ごめんごめん、またちょっと昔の癖が出てた。私ね、わたし……よし、はい、じゃあ、他になんか質問ある? 私の知る限りでなんでもこたえるからね。まぁ、恥ずかしいことはNGだけど」
「え、あ……うん、えっと、最近、なんか変わったこととかあった?」
正直、特に質問はもうなかったのだけれど、気持ちを落ち着けるためにも、適当な事を質問した。
「あー、うん。あったよ」
「どんなこと?」
「そうだねぇ……なんか、最近……この村の過激派の連中が、よく分からない人間達とつるんでいるかな。人間排斥派なのに……おかしいよね」
だけれども、その質問の所為で、余計落ち着けなくなった。




