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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第九章・想起。あの日はたしか……。
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165話・生死。その手の先には……

 ―武元曹駛―


 目の前の少女は、クリムの自白剤のお蔭か、思考能力が無く、訊かれた事にはすべて答えてくれた……そして、ここからは、選択の時間だ。


「さてと、ご主人様。心の準備は出来た? じゃあ、そろっと殺しちゃいなよ。もう十分でしょ、それとも、まだ聞きたいことある? まぁ、別に殺さなくても、この子には結構強力なの使ったから、一生このままだから、ここで殺してあげるのも優しさだと思うけど……まぁ、これは、私からの優しさだよ。少しは殺しやすいでしょ」


 クリムはそう言う。淡々とそう言う。


「じゃあ、えっと、最後に一つだけ……」


 これは、何度目の最後か分からないが……どちらにせよ、もう聞くことが無い。俺は、選択をしなければいけない。


「なぁ、えっと、君は……自分の意志で、これをやったのか?」


 一つ、気になったのだ。

 聞く限り、エルフも一枚岩ではないらしく。この国を襲った過激派と、それに反対していた穏健派がいたらしい。ただ、ほとんどは過激派であり、穏健派側は人数も少なく力も弱い人が多かったため、今回のこの襲撃が行われたらしい。

 そして、この襲撃には、穏健派のエルフも参加させられたらしい。

 それを聞いて思ったのだが……この子は、もしかしたら、穏健派だったのかもしれない。

 根拠はある……この子があの醜悪な肉塊となっていた理由を聞いた時、この子は「フリュエンツァの呪毒を打ち込まれた」としか言わなかった。この子は、あの肉塊と化していた時の記憶はないらしいし、「打ち込まれた」と言っていた。だから、もしかしたら、この子は、自分の意志では戦わないが故に、その呪毒を打ち込まれて、あんな状態にさせられたのかもしれない。あの状態になったら最後、基本的には助からないほどの物だ。もしかしたら、本人は戦いたくなかったのかもしれない。それならば……

 それなら、この子は殺さなくても済むはずだ。クリムは、一生このままだって言ったけど、回復魔法で治せるはずだ。きっと、治せる。だから……この子は……


「君は、本当に自分の意志で、これをやったのか……?」

「……はい」


俺の願いに近い予測は、少女がぽつりとつぶやいた一言で、全てを否定された。


「私は……私は、戦えないので、フリュエンツァの呪毒を打ってもらいました。私は、自分の意志で、打ってもらいました……」

「そう……か……」

「はい……」


 ということは……俺は、この子を殺さなければいけない。


「もうそろそろ満足したでしょ、ご主人様。さぁ、殺そう」


 クリムが催促をしてくる。

 そうだ、殺さないといけない。なんてことはないはずだ。俺は、沢山の人を殺してきた。今までもなんども、それが当たり前のように殺してきた。だから、目の前の少女を殺すのを躊躇ったりしないはずだ。

 無抵抗の人を殺すのなんて初めてじゃない。敵対心の無い人を殺すのだって初めてじゃない。何度も殺してきたはずだ。

 命を奪い合う戦いはつい先日までしていたことだ。ほんの少し前だってしてた。だから……


「ごめん」


 俺は、巨大なランスを持ち上げ、振り降ろした。


「おお、流石ご主人様……うーん、そこそこ美味しそうだし、この死体は、私が貰っていくね」

「ああ」


 クリムは、引き裂かれた少女の死体と共に蔦に包まれて消えた。どうやら、帰ったらしい。

 気配を感じて振りかえれば、そこには麻理がいた。


「……ありがとうございます。お兄様、どうやら助けてもらったみたいですね」

「ああ、まあな」

「そろそろ帰りましょうか。あの化け物は倒しましたが、まだ街がどうなっているか分からないんですから」

「ああ」


 次元転移を使い、もともといた世界に戻る。

 変わらず、そこは火と血の海だった。

 戻った直後ではあったが、目の前には、数人のエルフがいた。


「フリュエンツァすら倒すか……やはり、貴様は殺さなければいけないようだなっ!」


 剣を振り降ろしながら飛びついて来たエルフに向けてランスを突き出した。

 直線的な攻撃。いなすの簡単だった。だから、一突きで仕留めた。


「くっそおおおおおおお!」


 両手に小刀を持ったエルフの少年が突っ込んでくる。まだ、幼い……だから、弱い。

 確かに、突きは一対一の際、使いやすいが……差しただけで安心するから駄目なんだ。人は刺されても即死はしない。俺に関して言えば死にすらしない。それに、突き刺すのはいいが……鎧を貫いたその小刀は、もう抜けない。お前の腕力では抜けない。

 エルフの少年の首を追ってから、腹に突き刺さった二本の小刀を抜いた。


「く、くそがっ!」


 ただ一人残されたエルフが、やけくそか火球を飛ばしてきたが……無駄だ、その程度の火球で殺せると思うな。


「フレイムボール」


 俺の放った火球は、エルフが放った火球を飲み込み、そのエルフを焼き殺した。


「さて、行くか、麻理」

「ええ、お兄様」


 火の海を歩く。

 歩く。そして、殺す。

 次々と殺す。


「ちょっと、魔法は節約しないとか」

「ええ、ですが、まぁ、そこまで気にしなくともいいかもしれませんわ、その分寿命は補給できているみたいですし」

「ああ、そうだな、でも、一回の魔法を使ったときに得られる寿命よりも、失う寿命が覆いのもまた事実だ、節約するに越したことはない」

「まぁ、そうですわね」


 歩く。殺す。

 向かって来るエルフを殺す。次々と殺す。突き刺す、叩き割る、潰す。出来るだけ魔法を使わないように殺す。

 殲滅してもいいが……まずは、火を消すか……


「雨乞い」


 街中に雨が降り、火を消していく。雨脚は強く、より強くなっていき、いつの間にか周りも見えないほどの豪雨になっていた。

 なに、姿を隠すにはちょうどいい。この程度の雨でちょうどいい。

 奴らも、これほどの雨が降れば帰るだろう。この状況じゃ、炎は上手く使えないだろうし、辺りも良く見えないしな。


「さて、帰るか……麻理」

「ええ、そうしましょう」


 俺達は、家に向かって歩いた。転移魔法を使わずに、歩いて向かった。

 炭となった死体が、豪雨で崩れて流れていく。焼けた建物が崩れる。死体の血が流れ切る。街は……黒い海となった。

 しばらくしたのか、もう水は足首ほど高さまで溜まっていた。もう、辺りには柱しかない。人もいなければ、建物もない。あるのは名残だけだ。

 更にしばらくしたのか……俺達は家の前にいた。

 町から少し離れたここは、雨乞いの範囲外であるため、黒の海と化した街に比べて綺麗だった。

 だが、何故か、玄関の門と言っても差し支えない、その大きな扉を開けたくはなかった。開けたら、何かが、終わる。そんな気がした。

 でも、開けない訳にはいかない。少々魔力の無駄遣いだとは思うが、術を使って、服や鎧を乾かしてから、扉を開けた。そこには、泣きじゃくるミンの姿と、血だまりがあった。


 その瞬間。何かが終わった気がした。





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