162話・死者。それはそうであると。
最近更新ペースが落ちていてすいません。
―武元曹駛―
再び転移魔法を使い、あの肉塊の元に戻る。
麻理の話によれば、あの液体には触れない方がいいみたいだな。傷口から入って来たとは言っていたが、毛穴や汗腺から入り込まれる可能性もあるからな。
それにしても……どうする。倒すとはいっても……火炎系は効きづらい。向かって来る触手くらいならば、なんとかできるが……さっきフレイムカノンを本体にぶち当てたが……全然ダメージを与えられていなかった。だからと言って爆破系統の攻撃は逆効果になる可能性が高い……
そうなると、俺の得意な魔法などはほとんど効かないことになる。困ったぞ、今回の相手は。
風魔法と電気も微妙なところだろうな、ダメージは与えられたとしてとどめを刺すビジョンが見えてこない。後は……凍らせるってのも手だとは思うが、行けるのか? この巨大な奴を俺一人で……しかもイフリートがいるから、凍らせるような魔法は威力が下がる。だからと言ってイフリートの憑依を解除して相手の攻撃を対処できる訳でもない。
どこか弱点があればいいのだが。この肉塊の核のような物があれば……
そう言えば……最初に見た、目と口は何処に行ったのだろう。そうだ、目と口。目に攻撃すれば、やはり相手にダメージを与えられるのだろうか……いや、こいつの事だ、きっと大して変わらないんだろうな。それよりも、気になるのは口だ。口があるということはこいつには、中身がある……そう言うことになる。
内臓というかどうかは分からない、だが、何かしらあるということだろう。それが何かは分からないが……口から奴の体内に潜り込めば、もしかしたら何かあるかもしれない。それこそ、奴の核とかがな……
ただ、問題は、奴の口と目は、今どこにあるんだ?
向かって来る触手を次々と落としながら、空を駆けて奴の口と目を探すが、見つからない。
目と口は、もう必要なくなったから機能だけでなく存在ごと消したのか? それも有り得るが……だとしたら、奴はどうして俺の位置を把握できる。視覚では無いだろうし、断定はできないが嗅覚でもないだろう。だとしたら……音か、もしくは魔力感知……
今は目が見当たらないが……音を立てなければ出てくる可能性がある。もしも魔力感知だった場合は、その時考えよう。今は音を立てずに、じっとしていよう。
今、俺がいる場所はもう奴に知られているから、まずは俺の場所を分からなくさせる必要がある。相手が聴覚で俺を把握していると仮定して、転移を繰り返しながら、周りに音を発生させれば、きっと分からなくさせることが出来るだろう。
「雨乞い」
まずは、雨を降らせる。局所的に、この肉塊の化け物の周りに降らせることによって、出来るだけ奴の本体には当てないようにする。
この雨音だけで実を隠せるのならば、それでいいのだが、そうはいかないだろう。だから……
「行くぜ、新魔法。ウォーターボム」
降り注ぐ雨の一滴一滴が爆発した。
この魔法は、金属爆弾と同じ発想で、作った魔法だ。金属爆弾は時と場所によっては使いづらい時も多いし、万物爆弾化もまた同じだあれは周りの被害が甚大過ぎる。だから、もっと爆破させやすく使いやすい物ということで、水を爆破させる魔法を作った。
このうちに俺は、こいつの真上に転移して、様子を見るとしよう。
真上に転移して、下を見下ろす。すると、そこには目と口があった。まるで、俺が真上に来ることが分かっていたかのように、それに、大量の触手が迫ってくる。
こいつ、思考能力があるのか。つまり、考える器官。脳のようなものがあるということだ。それよりも、口と目はセットであるものなのか。目が現れたら、同時に口も現れた。それがなぜかは分からないが、今がチャンスだ、奴が目に頼っている今が、奴の体内に潜り込むチャンスだ。
目に見えているのならば、確実に転移できる。
俺は、口の中に転移した。そして、直後に、身体に風を纏い、外部との間のバリアのようなものとした。この口の中では何があるか分からない。例の液体も体内には溢れているだろうし、この空気ですら、何が入っているか分からない。だから、出来るだけ触れないようにするに越したことはない。
それに、奴に触れるのもよした方がいいだろうな……なので、風魔法で足場を作って、そこを歩くことにした。
それにしも、こいつは……凄いな……まるで迷宮のようだ。奥深くまで進むと、元来た道も分からなくなるだろうし、もしも戻って来られたとしてそこに口がある保証はないから、脱出できるかどうかは分からない。だが、最悪テレポートで上空かなり高くまで飛べば、脱出は出来るだろうし、今は探索するとしよう。
不気味な肉の空洞を進んでいく。時折、赤黒い液体が上から垂れて落ちてくる。下を見ればそれが溜まって川のようになっている。いや、雰囲気からすると、どちらかといって下水道かも知れない。それにしても、風のバリアを纏っていてよかったな、あの液体がこれだけ垂れてくるうえに、下のほうにそれが溜まっているってことは、口に入ったら、普通は取り込まれるということだろう。つまり、取り込むための食事だろう。だが、それに消化器官は必要ない。この液体を体に触れさせるだけでいいんだからな。
しばらく進むと大空洞に出た。ここの肉壁にはたくさんの穴が開いている所から、ここは終着点なのだろう。食われたら最終的にここに着くようになっているはずだ。
「ぅぅぁー……ぁぇぁー……」
うめき声が聞こえた……もしかしたら……生存者がまだいるのか……? にわかには、信じられないが、もしかしたらも有り得るので、見に行くが……そこには……
人の形をした肉があった。
その肉の顔に当たる部分を見ても、どこに目が有るか分からない。鼻と耳、口の位置は穴があるので、辛うじて分かるが……それはもう人の形をしているだけで、ただの肉だ。まるで腫瘍のように、張り付いている。それはもう手遅れだと、素人目でも分かる。とは言っても、この肉の口に当たる部分からは、うめき声が漏れている。だから、無視することも出来ない。
でも、どうしたらいいかも分からない。今の俺は……天から貰った玉のお蔭で、回復系統の術や魔法の技量がかなり向上している状態だ……無意味かもしれないが、治る可能性もあるかもしれない。
手をかざし、回復魔法を使う……すると……
「ぎャああアアああアアあぁぁああァああアアアアアアあアアアあアああアアアあぁッ!」
悲痛な叫び声を上げてその人型の腫瘍は溶けて消えた……
消えた……だと……治るどころか、消失した……
「タすケテッ!」「シニタクなイ!」「ヤめてクれッ!」「ウワあぁあアあッ!」「ダれカぁっ」「なんデだァ」「わたしをタス、タス、ケ、タケ、テ……」「もウヤだァ……」
叫び声が大空洞に響いた直後、周りから様々な声が聞こえてきた。
枯れるような絶望の声、助けを求める断末魔の叫び、絞り出した悲鳴……周りを見て見れば、人形の腫瘍が沢山あった。
俺は……一目散にその場から逃げ出した……だが、先ほど俺が体の一部を溶かしたからなのか、気付かれたようだ……俺の位置を……
大量の触手が迫ってくる。ここで、攻撃してもいいが……一つ試したいことが出来た……
もしかしたら、こいつには回復魔法が通用するのかもしれない。
先ほど、回復魔法を使った時、こいつの一部となった人間は溶けて消えた……ならば、こいつ本体ももしかしたら……
普通は、こんなことしても、相手に当たって逆効果になる方が多いので、するやつはいないし、俺自体、才能が無いゆえに、純粋な回復魔法を他人に使うなんて経験がほとんどないから、出来るかどうかは分からないが……やるしかない。
イメージするのは、普段のフレイムボール……それを、炎では無く、回復魔法で構成する……
手のひらに、魔力を集め……緑色霧状の球体を精製する。純粋な回復魔法を飛ばすのは難しい。だが、水魔法、風魔法を組み合わせて、回復魔法の効力を付与したものを作るのならば……出来る。
迫ってくる、触手に向かって、それを放つ……
「ヒールミストボール」
それは、着弾と共に、フレイムボールと同じように前方に炸裂する……そして……触手を全てとかし、当たった肉壁までもをドロドロにとかし消し去った……
これなら……いける。回復魔法なら、こいつを倒せるっ!
「悪い」
この大空洞にある人型の腫瘍たちに小さく謝ってから、俺は転移して、この場から脱出した。
彼らは、もうどうしようもなく、死んでいる。
助けることは出来ない。
だから、俺は、自分にそう言い聞かせるような言い訳をして、彼らに謝った。俺は、今から、こいつを倒す。必ず……
転移先は、こいつの真上、その上空高く。ここから、ヒールミストボールを乱射してもいいが……それだといつまでかかるか分からない。それに……俺のこの力……天の力がいつまで続く物なのかも分からない。だから……次で、一気に決める。
一つ、アイディアが有る。この魔法ならば……一気にやつを……




