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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第九章・想起。あの日はたしか……。
157/203

155話・帰宅。しかしながら……

 ―武元曹駛―


 帰って来たと言っても、あの豪邸じゃない。

 えっと、サキが管理していてくれたらしい。旧俺の家。正確には旧々俺の家。

 管理していてくれたと言う話だし、ここを使わせてもらう前に一言くらい声を掛けておきたいところだが、まぁ、距離的に無理だし、事故報告と言う形でいいだろう。


「悪い。よくよく考えなくとも、今、俺もちょっと今住んでる家には帰りづらい、というより、ちと帰れない状況になっているから、狭いが、ここで我慢してくれ」

「いえ、住む場所があるだけで、十分ありがたいです」


 俺達は、買ってきたおでんやら弁当やらを食べてから、特に何をするわけでもなくただぽけーとしていた。


「えっと、曹駛さん、何か私に出来ることは」

「うーん、今のところは特にないかな」


 実際に、やる事もないしな。何をするにも、なんというか、やる気が起きないというか。

 まぁ、でもミンが必死になんか出来そうなことはないかと探しているしなー。あ、そうだ。


「あー、じゃあ、ミン、ちょっとこっち来い」

「え、あ、はい……って、わきゃ!」


 よし、捕まえた。

 うん、ぬくいな。

 とりあえず、近寄ってきたミンをがっしりホールド、そのまま寝転がる。


「え、えっと、その……」

「じゃあ、このままこうやって俺の抱き枕になってくれ、この頃はもうとっくに寒いと言うのに、ここは大分古いとこでな、暖房はない。だから、しばらくこうさせてくれ」

「は、はい……」


 もこもこのネコ耳フードに隠れて良く見えないが、ミンの顔は真っ赤に見える。流石に、その服装で抱き着かれると暑いのかもしれない。だが、まぁ、この寒さだし、暑いくらいがちょうどいいだろう。


「え、えっと、その、せめて、後ろから抱き着いてもらってもいいですか……?」


 少しして、ミンがそんなことをぼそぼそと呟くように言ってきた。流石に暑くなったか? もしかしたら、思いのほか暑いのかもしれない。別に解放してもいいのだが、まぁ、後ろから抱き着かれるのだったら、向き合ってるよか涼しいかもしれんし、本人もそれでいいって言ってるし、それでいいか。


「ああ、分かった」


 一旦ホールドを解除して、コロリ、ミンを転がして半回転させた後、再びホールド。


「むぅ……」

「ん? なんか言ったか?」

「いえ、なにも?」


 うん、ぬくいな。ミンもさながらに、このもふもふパーカーの服がすげぇあったけぇ。うんうん、これくらい温かければ、十分に昼寝も出来る。なんか昼食ったら、微妙に眠くなってきたし、一眠りするか。

 窓から差し込む日の光もまた程よく暖かくて気持ちいい。

 夢現としていると……空に厚い雲でもかかったのか、視界が暗くなる。陰による暗さだ。決して夜になったわけではないだろう………………あれ? なんか、人の気配がするんだけど……

 重いまぶたを頑張って開くと……まず、ひらひらの服が視界に入った。

 そして、少し目が覚めた。

 その次に、見慣れた顔が見えた。

 完全に目が覚めた。それはもう跳び起きるほどに。


「え、えっと……あれ? ま、麻理? ど、どうしてここが……」

「どうしてなのか、知りたくて?」

「あー、いや、えっと、あー、あー、そうかぁ……サキにこの家がまだあるということを聞いたのと、過去、お前もまたここに住んでいたから、ってのが多分理由かなぁ……」

「ええ、正解ですわ」


 言葉からは麻理の感情は伝わってこない。オーラからも然り。でも、それがたまらなく怖い。なんというか、経験的な、本能的な、説明のしがたい恐怖がそこにあった。

 今、麻理と会ったばかりのミンは、何も感じていないらしくきょとんとしているが、俺には分かる。麻理、怒ってる。うん、兄妹のつながり合いと言うか、そんな感じのシンパシーでなんとなくわかる。……めっちゃ怒っている。


「お兄様……この子は?」

「え……っと、ですね……」


 この冬場に汗が出る。これはきっとミンが身に着けているもふもふパーカーの所為だろう。そう、そのはずだ。


「はい、その、曹駛さんに買っていただいた、ミン=モンケルと申します。えっと、曹駛さんの妹様でしょうか、その、今後、よろしくお願いいたします」


 ミンは、すっかり硬直して緩くなった俺のホールドから抜け出し、すぐさま立ち上がり、深々とお辞儀をした。ああ……ば、バレた……また奴隷買ったこと。正確には、ミンは奴隷じゃないし、今のところ奴隷にするつもりもないんだけど。


「……ふーん、そう、よろしく」

「は、はいっ!」


 対して、麻理はさげすむような目線をこちらに向けつつ、やる気のなさそうな声で、ミンにそう言う。それに対して、ミンは元気な声で返事をした。


「それで、ミンさん、ちょっとお兄様を借りて行きますわよ」

「あ、はい、分かりました」


 俺は、麻理に引きずられ、外に連れて行かれた。うーん、大体何言われるか予測は出来るけれど、うーん……


「それで……お兄様、あれはどういうことでしたの?」

「あ、あれって?」


 ミン=モンケルの事だろう。うん。


「もちろん、ミンさんの事ですわ」

「ほ、本人も言っていただろ。えっと、買ったんだよ」

「こんなタイミングで?」

「タイミングは関係ないだろう……」

「ふーん……」


 いぶかしむ目でこちらを見てくる麻理……いったい俺の言葉のどこに疑う要素が……


「お兄様の事でしょうし……」

「な、なにが……?」

「いえ、こちらの話ですので……それで、何があったのです? 流石にお兄様でもこんなタイミングで新しく奴隷を買うとは思えませんし、きっと何かあったのでしょう? そして、また人助けでもしようとしたのでしょう?」

「………」


 ……えっと、麻理は麻理なのか? やっぱり。なんというか、あの眼の魔術意外にも、俺の考えている事が分かる力でも持っているのだろうか。


「その辺りの事は、ひとまず置いておきましょう。しばらくはレフィさんには内緒にしておいてあげますから、説明などややこしいようなことは、お兄様が何とかしてください。それよりも、今はレフィさんの事です……お兄様、まずは単刀直入に聞きます。あの事は本当なのですか?」


 あの事とは、俺がエルフの村を焼き払った事だろう。ああ、あれは……


「もちろん、本当の事だ……俺がやった。間違いなく、俺がやった」

「それじゃあ……」

「ああ、俺が全ての元凶で全ての犯人でもある。あの件に関してはな」


 エルフの村を見つけたことそのものは、結末に繋がっているが、それだけでは決してああはならなかったはずだ。まずあの結果の原因となったのは、国への俺の報告だろう。エルフの村があったというその報告。だから、元凶は俺。

 そうして、国から下りた指令を無視せずに行った、それもまた俺。つまり、実行犯もまた俺なのだ。だから、全ての原因、全ての元凶、全ての犯人。


「そうですか……ですが、全てと言うのは少し間違いですわね」

「何を言っている」


 あれは、全て俺が悪い。それは間違いない。なのに、麻理は何を言っているんだ?


「うーん、そうですわね、いや、そうだね……お兄ちゃん。お兄ちゃんの事だろうし、サキさんの事……心配だったんだよね……それに、私の事も。ここにはいなかったけれど、それでも心配してくれたんじゃないの? だから、エルフの村を焼き払った。違う?」

「そ、それは……」


 まるっきり嘘ではない。だけれども、それを理由に逃げてはいけない。その程度で済まされる罪ではないのだ。


「うーん、全てのやって来たことを忘れて生きようって言うつもりはないけど……お兄ちゃん、えっと、その半分は私に背負わせてよ。今この場に居ないサキさんにまで背負わすわけにはいかないけど、私なら、いいよ……べつに……。お兄ちゃんは、私と心中の約束をしてくれたわけだし、全て、半分こ……でしょ。えっと、上手くいえないけど……楽しいことも、嬉しい事も半分こしてちょうだい。そうしたら、罪も、罰も、私が半分貰い受けるから……ね。えっと……はい、ここまでっ! ここまで……ここまでですわ」


 半分こ……良くある言葉だろう。悲しい事、辛いことを半分こ……なんて、物語の中の台詞みたいだ。そんな、使い尽くされたような言葉でも……いざ言われてみると、なんというか、こんなに楽になるものなのか……今だけは物語の主人公な気がする。その気持ちが分かった気がする。


「じゃあ、お兄様……えっと、その……」

「ありがとう……麻理……」

「い、いえ……感謝の言葉は結構ですわ、感謝は楽しい事嬉しい事で返してくださいまし」

「ああ、分かった」


 そうだな。じゃあ、お前がそれを望むなら。そうしよう。お前が、俺に主人公を望むなら、お前の前でだけは主人公でいる。全部、半分こして、お前と分かち合おう。


「それじゃあ、つ、次の質問に移りますわ」

「ああ、なんだ? 何でも来い」


 レフィの事については、その後にじっくり話すとしよう。少し長い話になるだろうし、質問は先に済ませてもらうとしよう。


「先ほど」

「ああ、なんだ?」

「先ほど、ミンさんに抱き着いて一体何をなさっていのですか?」

「え?」


 いや、斜めだった。斜め上か下かは分からなくともその質問は思っていたものより、斜め方向に向かっていた。


「ですから、ミンさんにあんな服を着せて何をなさっていたのか聞いているのです。あの服は、酷くファンシーな物に見えましたが、お兄様はアレを着せて昼間から何をなさろうとしていたのですか?」

「ん?」


 だんだん、方向がおかしくなっていくような。


「もしも、あの時、私が部屋に入っていかなかったらば、一体何をなさるつもりだったのでしょうか、お兄様?」

「あー、ほら、一緒に寝ようと……あ……」


 だめだ、言葉選びをミスった。これ、うん。


「……お兄様、流石にそう言うことは半分こするつもりはありませんよ、私」

「あー、いや、そうじゃなくてだな」

「お兄様、予想以上に重傷でしたのね、そこまで……」

「だからな……そうじゃなくて」

「お兄様……信じていましたのに……」


 あー、もう、駄目だこりゃ……

 この後、誤解を解くのに一時間かかった。いや、マジで。本当に一時間。くっそ、余計な体力を使った。


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