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俺、元兵士、奴隷買いました。  作者: 岩塩龍
第八章・知られざるテンチェリィの謎を追え
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146話・blood is blood. however….

 ―武元曹駛―


「なにもしていないよ」


 天は、そう言った。


「ただ自衛しただけ……それでも、あんまり何もしていないよ」


 自衛……何かされそうになったのだろうか……というより、その喋り方……俺の隣にレフィがいるのに……もう、隠すつもりはないのか?


「お前……もう隠さないのか?」

「何を?」

「お前が雨だって事……」

「いや、まだ隠しているつもりだけど……」

「でも、レフィが……っ!」


 レフィも、いつの間にか雪の上に伏していた。


「いつの間に……」

「そうだね、私の姿を見た瞬間……かな」

「何をした……ここに倒れている人たちに……レフィに……」

「ちょっと眠って貰っただけだよ、心配しなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「眠らせたって……一体何をしたと言うんだ……まさか本当に眠らせただけってわけじゃあるまい」


 忘れていた……こいつは、決して安全な存在では無いことを……こいつは、レコンストラクションJを目論む連中の内の一人を倒し、体を乗っ取られた俺を倒した。それだけの力を持っている。そして、俺とのファーストコンタクトの時、俺の肩をナイフで突き刺してきた。まともである確証はない。むしろ、そうでない確率の方が高い。


「?」


 くいっと、首を傾げるその仕草は可愛いが、その本性がどんなものか分かったものではない。


「さぁ、何をした……言え……」


「何って、だから睡眠魔法をかけただけだよ……眠ってるって言ったじゃん」


「は?」


 天は、そう言った。だけど、え? マジ?


「嘘をついたって何にもならないぞ」

「そうだよ、何にもならないじゃん、なんで嘘をつく必要があるの」

「じゃあ、嘘は」

「ついてない」

「………」


 嘘をついている様子はないが、こいつ、結構感情が読み取りづらいし、そもそも、俺の嘘を見抜く力がどれほどの物か分からんし……あ、そうだ、そうだよ……


「だったら、この人たちの血はどうなる……眠らせただけじゃ、こんな血はでないだろ」

「鼻血」

「は?」

「それ鼻血」

「はぁ?」

「その人たちが、鼻血垂らしながら私をここまで追い詰めて来たから、眠らせた。証拠は……ほら、見てみてよ、そのエルフのお姉ちゃん……血なんか出てないでしょ」

「………」


 確かに、レフィの下にある雪は白いままだ……

 俺は、口を閉じ、そこらにいる鼻血を出した変態どもを一通り踏みつけて回ってから、天と向き合った。


「ごめん」

「うん、いいよ、まぁ、確かに何も知らないでこの光景だけ見たら、結構あれだし……」


 要するに……天は鼻血を垂らして迫り寄ってくるこれら変態どもに睡眠魔法をかけて自分の身を守っただけ……そういや、自衛とも言っていたな。深読みしすぎたか……いろいろと……


「そんなことよりも、そのエルフのお姉ちゃんを連れて来たことを謝ってほしいんだけど、正直、あの子の真似するの結構面倒くさいから」

「え、いや、そんなこと言われてもな……レフィが勝手に付いて来たんだよ、俺だって、止めたけどな……というか、半分以上はお前の所為だぞ」

「えー」

「いやいや、えー、じゃなくてさ、お前があんなことするからだろ」

「あんなことって?」


 とぼけるか……くっそ、言いたくねぇ……


「いや、ほら俺を押し倒して……」

「押し倒して……なに?」

「だから、押し倒して……」

「こんなに体格差のある自分の妹に押し倒されて……なに?」


 くっそ、何だよその言い方。


「えっと、ほら、服脱いで」

「私が服をぬいで、お兄ちゃんを押し倒して何をした?」

「いや、まだ何もしてないと言えば、そりゃ、何もしてないけど」

「じゃあ、問題ないじゃん」


 天はくすくすと笑いながら、そうおちゃらかす。


「そうじゃなくてだな、その光景見たら、その次を想像するだろ」

「その次って?」


 くっそこいつ……


「ほ、ほら」

「なに?」

「えーと、そりゃあ……」


 くそ、見た目が、幼いテンチェリィなだけに、言いづらい。くっそ。


「せ、せい……じゃ、なくて、ほら、えっと、こ、子作り」

「私と? えー、この体じゃまだ……というよりこの体は成長しないから、子供なんて永遠に作れないと思うよ、たぶんね、だからそれは想像しないんじゃないかなぁ……」

「そんな屁理屈を……」

「で、本当にお兄ちゃんが思っていることが子作りなら、問題ないんじゃないかなー、だって、わたし子供作れるような体じゃないしー」


 天は依然としてクスクスと笑っている。あー、なんだこれ、新手の拷問か?


「え、えっと、そうじゃなくてだなー」

「なになにー?」

「そのー」

「その、なに?」


 なんというか、罪悪感と言うか良心の呵責というか、あー、本当にこれは拷問だぞ。


「お兄ちゃんは、私が、お兄ちゃんと、何をすると思っていたの?」

「それ……は……」

「ねぇ、ねぇ、言ってみてよ~、何を想像しちゃうと思ったの~?」


 分かっててやってるだろ。このまま終わるのは、ちょっと、癪に障る。こうなったら、言ってやる。言ってやるぞ。


「そ、それは、それはだな……せ、せ、セ……」

「せ……なに?」


 言ってやる。言ってやるんだ。


「せ、セック……!」

「……っと、はい、そこまで、お疲れ様、お兄ちゃん」


 と、せっかく言ってやろうとしていたのに、言葉半ばで天に止められた。ふん、怖気づいたか……はぁ、助かった。


「ふふ……可愛かったよ、お兄ちゃん」

「くっそ、やっぱわかっててやったな」

「え~、なんのこと~?」


 ちきしょう。


「ちきしょう」


 声に出てしまった。


「はいはい……で、寒いんだけど、どうにかしてくれる?」

「いきなり図図しいな」


 さっきまで、俺で遊んでいたくせに。というか、そもそも、そんな恰好で飛び出したのもお前だろ。


「だって、妹だもん、お兄ちゃんにわがままくらい言うよ」


 妹……ねぇ……なんというか、なんとなくそんな気はするんだが、まだ確証が無いからな……というか、記憶が無い。今の俺に、その記憶が無いから、確信できない。

 でもまぁ、今は、いいか、そのままじゃ風邪、ひくしな。


「えっと、じゃあ、帰るか……その、少しの間は俺の部屋にいるといい……あー、レフィはなんか言ってくるだろうけど、それは俺が何とかしよう」

「ありがと」

「ああ、まぁ、お前の言うことが本当なら、お兄ちゃん、だしな。そうでなくとも、家族みたいなもんだ」

「だから、本当だって」


 俺は、レフィと天を両脇に抱え、転移して麻理の家まで戻った。うん、やっぱり、素で使うと疲れるな。一応、疲れをなくす魔法はあるんだけど、あれはあれで使用寿命量がヤバいから、使わないようにしている。すると、びっくり、物凄い疲れる。

 その魔法自体は、便利な物で、実は大量に魔力もとい寿命を使わずとも使える。だが、その効力はその使った寿命の量で変わるから、その、完全に疲れを取ろうとすると、物凄い魔力を使う。これも、最初からなぜか知っていたもののうちの一つのようだが、これはなんか無意識の内に使っている感じだったみたいで、寿命が少なくなって初めて存在に気づいた。だから、意識的に全く使わずに転移をしてみたのだが……やっばい。これ、やっばい。


「あ、お兄様、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 麻理に挨拶をする。


「そして、ちょっと寝かせてもらう。おやすみ」


 レフィを降ろし、テンチェリィもとい天を引き連れ、俺の部屋に向かった。





 目が覚めると、既に夜になっていた。

 俺は、部屋に戻ると、ベッドに伏せそのまま寝たのだ……天を抱えたまま……

 その後、目覚めると、天は俺のホールドから抜け出したあと、寝たのだろう。隣で寝息を立てていた。

 こいつには、いろいろと驚かされることばかりだが、寝ている姿は、テンチェリィと変わらず、人畜無害な女の子にしか見えない。


「にしても……あの血、鼻血だったのか……そう考えると、なんか汚いな」


 お昼のあの光景を思い浮かべる……うん、汚い。絵面が……

 事情を分かってしまうと随分と汚い絵面である。要するに、結構な数の変態の男どもが、全裸の幼女を目の前に、鼻血垂らして雪の上でうつ伏せに寝ているという……文字化しても十分に汚い絵面である。

 はぁ……寝ていたら、本当に分からないのにな……ん? 寝て、いたら? まて、寝る? それは、どういうことだ? 良く考えたら、おかしい。普通ねるのはテンチェリィだ、天が寝る必要はあるのか? 天が寝ている時にテンチェリィが出て来ないのもおかしい。だったら、今寝ているのはテンチェリィ? いや、テンチェリィが寝ているのなら、それこそ天が出てくるはずだ。ただ、体を休めるために寝ているのか? そ、その可能性が今は一番高いが……。そうだ、そういや、おかしなことだ、俺の家にいた時もそうだ、天が寝ていた……テンチェリィではなく、天が。寝る直前も天で、起きた直後も天。そんなことしていたら、テンチェリィは、自分に疑問を持つだろう。いや、持っていたのかもしれないが、口には出していなかった。ただ、その代りに、予定よりも滞在期間が短かったなどと言っていた。それに対して、俺は……


“まぁ、な、お前にとっては短かったかもだけど、麻理とレフィも待っているだろうしな”


 俺は、普通に答えてしまっている。

 もしかしたら、テンチェリィは、テンチェリィは……自分の中にいる天の存在に気づきかけているのではないだろうか。でも、だとして、そうだとしたら……いま、テンチェリィは何処にいる? 何をしようとしている。


「お、おい、起きろ、起きろ、天」


 天の体を揺すり少々強引に起こす。


「ん、なに、こんな夜中に……」

「おい、テンチェリィは、テンチェリィは何処にいる」

「……その顔、なんか気づいたの? 凄い焦ってるみたいだし、今更だけど」

「な、なぁ、テンチェリィは……」


 本当にお前の中にまだ居るのか?


「うーん、その疑問に当たったら、やっぱり、この私の組み立てた仮説を話さないと駄目だね……」


 寝ぼけた顔の天は、一度大きな欠伸をすると、真面目な顔を作った。



「そうだね、仮説では……あの子は、きっと、もうすぐ消えるよ」


「は?」


 俺は、またしても、こいつに驚かされることになる。これまた、またしてもだが、あまりよくない意味でな……




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